初級翻訳・地底戦車の怪人 第17話

地底戦車の怪人

ええと、こう狙ってと……それから、こういう風に引き金を引いてと……」
ダダダダッ、ダダダダッ!
機銃が唸りを上げました。快い手応えが、ピート一等兵の指に伝わってきます。
「おやっ、おやっ! 味方の三番機に命中してしまったぞ! あれっ、本当か。あらあら、味方の三番機が火に包まれてしまったぞ。しまった!」
ピート一等兵は「うーむ」と呻きました。撃ったのはいいのですが、照準を誤ったせいで、前を飛んでいた味方の三番機のガソリンタンクを撃ち抜いてしまったのです。
「おい、ピート一等兵、俺は見ていたぞ」
下からパイ軍曹が、脅すように言いました。
「うわーっ、軍曹どの。見ておられましたか! 困ったなあ……」「今の照準はちょっとズレていたんだ。
次は大丈夫だ。
見ていてくれよ」
 ピート一等兵は、失敗を取り返そうと再び照準を合わせ、引き金を引いた。
たたたたン、たたたたン。
ピート一等兵の顔が、土気色になった。
今度は味方の一番機の翼を、粉々に打ち砕いてしまったのである。
マック大尉の顔だと思うが、操縦席の横の窓から、こちらを恐ろしい目でにらみつけている。
かと思う間もなく一番機は、機首を下げてグラリと揺れると、きりもみ状態で墜落し始めた。
ああ、もう駄目だ。
「ピート一等兵。
俺は今のも見ていたぞ」
 パイ軍曹が、下から声をかけた。
「軍曹どの。
ここを代わってください。
自分が撃つと、味方にばかり当たって、損害が莫大です。
頼みます。
一つ、代わってください」
 ピート一等兵はそう言うと、機銃座を空にして、のこのこと下へ降りてきた。
「困った奴だな。
射撃の命中率そのものはなかなかいいんだが、味方を撃っちゃあ話にならない。お前は照準をあべこべにやっているから、弾丸が左へ行くはずのものが、右へいってしまうんじゃないのか」
「なんと言われようと、自分はダメです。
地底戦車兵を飛行機に乗せるなんて、そもそも始めから間違いなんですよ。
軍曹どの。
上へ上がってください」
「いやだよ。
俺はここにいる」
「そう言わないで、上がってください」
「いやだ。
あとから、俺がやったように言われるのはごめんだからな」
「困ったなあ」

   あわや爆撃

「ピート一等兵。
お前にも同情するよ。
いいから、機銃座は開けておけ。
そしてここにいてもいいぞ」
「それはいけません。
機銃座に誰もついていないなんて、目立ちますよ」
「なに、お前が戦死したことにしておけばいい」
「なるほど。
しかし戦死は嫌ですね」
「重傷でもいいなあ。
そして俺も重傷だ。
どっちも動けないというのならいいだろう」
「なるほど、それは名案だ」
「それになあ」とパイ軍曹はもっともらしい顔つきで言った。
「さっきから見ていると弾丸を撃っているのは、こっちばかりなんだ。
日本機は、どういうものか一発も撃ってこないで、ひらりひらりと逃げ回ってばかりいるのだ。
だから、向こうが撃ってくるまで、こっちも撃たなくていいんだ。
どうだ、俺はなかなか落ち着いて、物事をよく見ているだろう。
えへん」
 パイ軍曹は、ちょっぴり鼻を動かしてみせた。
ピート一等兵はそれをいいことにして、パイ軍曹のそばに座り込んでしまった。
そのうちに、他の味方の飛行機の機銃音も聞こえなくなった。
「ああ、パイ軍曹どの。
射撃をしなくなりましたね。
どうしたんでしょうか」
「さあ、どうしたかなあ。
察するところ日本機は全部、撃ち落とされたのかもしれんぞ」
 パイ軍曹は、景気のいいことを言った。
「そうですかねえ。
急に、こっちが強くなったんですね」
「お前みたいな下手くそな射手が乗っているのは、この飛行機だけだ。
他の奴らは元来航空兵なんだから、相当に射撃には自信があるはずだ。
ついに、ポンポンとやっつけたんだろう」
「下手くそだと言われても、自分は元来地底戦車兵なんですからね。
それは仕方がありませんよ」
「それは大した言い訳にはならんよ」
「えっ、なぜですか」
「あれを見ろ」
「えっ」
「下を見ろと言ったんだ。
あそこの氷上に見えてきたのは、日本軍の基地に違いない。
今、俺が爆弾を落としてみせるから、よく見ていろ。
俺はお前と違って、うまく命中させてみせるぞ。
同じ地底戦車兵でも、パイ軍曹はこうのとおり、空中勤務に回されても腕は確かだというところを今見せてやる」
「えへ、本当ですか」
「本当だとも。
この爆撃照準器の使い方はちょっと難しいんだが、俺はかねてから、こんなこともあろうかとあらかじめ研究しておいたのだ。
こういう具合にやるんだ。
ええと、もう少し右へ回して……いや、行き過ぎた。左へ回して、この目盛りをこっちのゼロに合わしてと……これでいい。そこで、二つの数字が合ったところで、爆弾を支えている腕金を外せばいいんだ。
イチ、ニイ、サン!」
「あっ」
 ピート一等兵は思わず声を上げた。
パイ軍曹が、ついに爆弾を切って放したと思ったのである。
――ところが、どうしたわけか爆撃の直前になって、パイ軍曹は「うーむ」と呻いて、レバーから手を放してしまった。
「パイ軍曹どの。
どうされましたか」
「いかんわい。
やめたよ」
「なぜ、やめられたんですか」
「下に見えているのは日本軍の基地だと思っていたが、よく見ると何のことだ。
さっきまで俺たちがいたアメリカ基地だったのじゃ。
とんだ間違いをやらかすところだった」「もう少しでリント少将閣下を爆撃するところだった。いやあ、危なかった」
「へえ、本当に危ないところでしたな」
「基地へ戻ってきたことを、俺たちに教えてくれないからいけないんだ」
「しかし軍曹どの。機長からの命令もないのに勝手に爆撃をするから、こういう間違いが起きるのですよ」
「何を! お前は黙れ。上官に向かって何を言うか!」
「へーい」

パイ軍曹は、自分の失敗が恥ずかしくなって、八つ当たりにピートを怒鳴りつけた。ピートこそ、とんだとばっちりである。そのころ、飛行機は高度をだんだん下げて、着陸の準備に入っていた。基地の上空を一周すると、さらに高度が下がっていく。氷原が、下からむくむくとせり上がってくるように感じられた。エンジンの音が急に静かになり、機体はさっと氷原に降り立つと、小さく跳ねた。

二機撃墜

「三機帰還せず!」
基地へ戻ってきたのは、たった二機だけだった。飛行隊長は、司令の前に立って、面目なさそうに頭を下げた。
「三機の消息について、知っていることを述べよ」
司令は不機嫌そのものだ。パイ軍曹は、ピート一等兵の横腹を小突いた。ピート一等兵は目を白黒させる。例の失敗がバレたら大変なことになる。
「はい。壮烈な空中戦の結果、墜落したようです。われわれも戦闘中でしたので、はっきりとその最期を見届けることはできませんでした」
隊長は、うまく取り繕った。ピート一等兵は、やれやれと胸をなでおろした。司令はこれを聞いてうなずき、
「おお、そうか。そして戦闘の結果はどうであったか。撃墜数を報告せんではないか。撃墜状況はどうか」
「はい。撃墜は、ありません」
「なんだ、撃墜はないというのか。これだけの犠牲を払って、撃墜は一機もなしというのか。

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