話は家に帰ってからゆっくりしよう。私は沼田の下新田という田舎の出身だが、あんたの実のお母さんは、今私の家にいるんだよ」
娘「なんと不思議なご縁でしょう。どうぞ、お連れくださいませ」
角右衛門「実に不思議な縁だ。さあ、気にせず一緒に行こう。もうお母さんの行方を捜し回る必要はないんだ」
そう言って急いで支度を整え、三人は連れ立って出発しました。道中、おえいには深い話は伏せたまま国へ帰りました。国の方では、江戸が大火事に見舞われ、江戸中がまるごと焼けてしまったのではないかと噂されていたところへ、ちょうど帰着したのでした。かめ「おや、旦那様、お帰りなさいませ。江戸では大火事があったと聞いておりましたから、お怪我でもされていないかと、どれほど心配しておりましたことか。江戸はまるごと焼けてしまったという話も聞きましたし、後から『観音様は無事だ』と言う人もいて、本当に気が気ではありませんでした。五八さんも、本当にお疲れ様でした」
五八「へえ、ただいま戻りました。江戸というのは本当に恐ろしい場所で、『良い所だ』なんていうのは嘘でございますよ。次から次へと火事が追いかけてきて、あっちへ逃げたりこっちへ逃げたりして、ようやく命からがら帰ってまいりました。孫の代まで住むような場所じゃあありませんよ」
角右衛門「おかめ、江戸土産に良い者を連れてきたぞ。おい、こちらへお入り」
かめ「おや、どちらから連れていらしたのですか?」
そう言われて、角右衛門は娘に向かって言いました。
角右衛門「この人が、俺の女房だ」
娘「はじめまして。私は旦那様のおかげでこちらへ参りました者です。どうぞよろしくお願いいたします」
かめ「そうでございますか。こんな山の中まで、よくまあお出でくださいましたね。久しぶりに江戸の風に触れた気がします。なんて器量の良いお嬢さんでしょう。年はいくつ? 十九歳ですか。まあ、火事で焼け出されてしまったとは、なんとお気の毒な……。旦那様、この方はどなたの娘さんなのですか?」
角右衛門「この娘は、十三年前に保泉の原でさらわれてしまった、お前の娘のおえいだよ。よく顔を見てごらん」
かめ「なんですって……?」
角右衛門「この娘がお前の実の母親なんだよ」
そう言われて、親子は思いがけない再会に驚き、おかめは娘の手を取ってつくづくとその顔を眺めながら言いました。
かめ「旦那様、どうしてこの子を連れてきてくださったのですか?」
角右衛門「それが、なんとも不思議な縁でな。この間の火事の時、この娘も焼け出されて逃げる途中で母親とはぐれ、一人でいるところを悪者に付け狙われていたんだ。持っていた荷物も奪われ、『母親に申し訳ない』と身を投げようとしていたところへ、俺たちが通りかかってな。助け出した上で事情を聞いてみると、これこれこういう話だったんだ。俺も飛び上がるほど嬉しくて、すぐに連れてきたというわけだ。本当に、なんと嬉しいことか」
かめ「まあ、なんと思いがけないこと。すっかり大きくなったので、道端で偶然すれ違っただけでは分からなかったでしょうね。お前が七歳の時、私が背負って慣れない旅をしていたら、お前はさらわれ、私は悪者たちに殺されそうになった。そこをここの旦那様が助けてくださり、それからずっとお世話になって、今でも何一つ不足はない暮らしをさせてもらっているけれど、暑い日も寒い日も、朝な夕なに私はお前のことを一日たりとも忘れたことはなかったんだよ。本当に、あの頃の幼い顔立ちの面影があるね。旦那様の前でこんなことを言うのは恐縮ですが、亡くなったお前の父親の宇之助さんに本当によく似ていますよ。どうも、本当に思いがけないことで、まるで夢を見ているようです。ちょっと立ってごらん。まあ、大きくなったこと。そしてなんと美しいこと。さあ、座って、ゆっくりお話ししましょう」
そんなふうにいろいろと言葉を交わし、ようやく安心したところで、これからは本来の名前で呼ぶのが良いだろうということで、改めて「おえい」と呼ぶことにしました。多助とは従兄同士にあたりますので、将来は二人を添わせようという心づもりで、二月の末から五月頃まで、仲良く穏やかな日々を過ごしました。
ある日、角右衛門が多助に言いました。
「おえいもまだ城下町を見たことはあるまい。一緒に連れて行って、見せてきてやろう」
沼田は、土岐様のご領地でございます。多助がおえいを連れて帰ってくると、その後から一人の男が入ってきました。男は金で飾った刀を差し、菅の三度笠を手に持ち、月代(さかやき)を剃り上げ、刷毛先を散らして、素足にわらじという格好です。
男「やあ、ごめんください」
五八「ひええっ、どこから来たんだ?」
男「塩原角右衛門さんという方は、こちらでございますか?」
五八「へえ、こちらでございますが」
男「今、この家へ二人連れで入っていった若いお方は、ここの若旦那でございますか?」
五八「へえ、今入ったのはうちの息子さんの多助さんですが、何用で?」
男「その若旦那と一緒に付いて入った美しい姉さんは、この家の娘さんですか?」
五八「うちのおえいさんという娘だが、何用で?」
男「へえ、そうですか。それならお前のところの娘に間違いねえんだな。おい、おっかあ、こっちへ入んな」
婆「はい、お邪魔しますよ」
そう言いながら入ってきた老婆は、年は五十五、六くらいで、でっぷりと太り、髪を結い上げ、細かい絣(かすり)の単衣(ひとえ)に黒いビロードの帯を前で結び、白い縮緬(ちりめん)のふんどしを長く垂らし、鼠色の甲斐絹(かいき)の脚絆(きゃはん)に白足袋、麻の裏をつけた草履という姿でした。五八は「いろんな人が来るもんだな」とぶつぶつ言っています。
婆「角右衛門さんという方にお目にかかりたいものだねえ」
五八「うちの旦那は高平村まで用事で出かけていて、いま留守ですよ。若旦那ならいますが」
婆「それなら、若旦那にちょっとお目にかかりたいね」
五八「多助さん、なんだか分からないが、あなたに会いたいという人が来ていますよ」
そう言われて奥から出てきた多助は、今年二十歳になる穏やかな青年で、丁寧に手をついて挨拶をしました。
多「生憎ですが、父は留守にしております。言付けでよろしければ、私が承って父に伝えますが」
婆「あんたがご子息さんかね。今あんたと一緒にこの家へ入った娘は、こちらの娘だとこの奉公人が言ったそうだが、一体あの娘はどこから貰い受けたんだい? それを伺いたいんだよ」
多「いいえ、貰い受けたわけではありません。あれは私の家の以前からの娘でございます」
婆「とぼけちゃあいけませんよ! あれは私の娘だよ。私は三田の三角という場所で『あだや』という引手茶屋をやっている『おかく』という者だが、あれは私の大事な稼ぎ頭の娘なんだ。この二月の火事で深川を焼け出されて逃げる途中ではぐれてしまい、今日まで行方が知れなかったから、あちこち手分けして探したがどうしても見つからなかった。ところが、ふと山の宿の山形屋というところに泊まっていた客が、『娘を連れて沼田のこれこれの場所へ一緒に帰った』と聞いたんだ。娘がいなけりゃ商売もできないから、倅を連れて怖い山を越えてここまで来たのさ。
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