名探偵はそういう技術も、ちゃんとこころえていたのです。
ランチは岸をはなれ、青海原を、はるかの長島町にむかって、すばらしい速力で走りだしました。
晴れわたった青空のかなたに、まっかにもえた夕やけ雲が、たなびいています。
そよそよと吹く潮風、音楽のようにこころよい機関のひびき、白波を二つにわけて、矢のように走る「カモメマル」のへさきには、小林、宮瀬の二少年が、肩をくみあって、はるかの海岸をながめながら、立っていました。
声をあわせて唱歌を歌ったり、口笛を吹いたり、そのほおは夕焼け雲にてりはえて、つやつやと希望の色にかがやいていました。
覆面の首領をはじめ、五人の賊が、その日のうちに、長島町の警察署の手で捕縛せられたことは申すまでもありません。
そして、覆面の首領が美しい女であることもたしかめられたのですが、しらべてみますと、この女賊は、数年のあいだ、東京、大阪をまたにかけて、数かぎりない悪事をはたらいていたことがわかりました。
日本全国の新聞が、この大事件を社会面いっぱいに書きたてました。
無人島の地底にうずまっていた時価一億円の大金塊、これに希代の女賊がからみ、名探偵明智小五郎とかれんな二少年の冒険談がつけくわわっているのですから、新聞記事としては、じつに申しぶんのない大事件でした。
宮瀬氏が手に入れた金貨や金のかたまりを、ことごとく大蔵省におさめたことはいうまでもありませんが、一どきに一億円という大金塊が、国の金庫へおさまったのですから、政府の感謝、国民の喜びはことばにつくせぬほどでした。
大蔵大臣は、わざわざ宮瀬氏を官邸に呼んで、ていちょうな感謝の意を表したほどでありました。
宮瀬氏は、金塊と引きかえに、政府からさげわたされた、ばくだいなお金も、けっして自分のものにしようとはせず、学校を建てたり、病院を建てたりして、あくまで世間のためにつくす考えでした。
名探偵明智小五郎は、この事件によって、いっそう、その名声を高めましたが、宮瀬氏のひょうばんは明智探偵以上でした。
しかし、そのふたりのおとなのりっぱな行ないよりも、もっともっと世間の人を喜ばせたのは、小林君と不二夫君の、手に汗にぎる冒険談でした。
大金塊を見つけたのも、賊をとらえたのも、つまりは二少年のいのちがけの冒険のおかげなのですから、そのひょうばんは、たいしたもので、小林、宮瀬二少年の名は、日本全国津々浦々にまでひびきわたるのでした。
初級翻訳・大金塊 第33話
大金塊
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