その中には、さるぐつわをはめられ、からだじゅうをぐるぐる巻きにしばられた、パジャマ姿の少年がうずくまっていたのですが、像がこわれて支えるものがなくなったものですから、フラフラと台の上からころがり落ちて、床にたおれてしまいました。
「泰二! おまえ、泰二じゃないか!」
相川技師長は大声でさけびながらそのそばにかけより、たおれている少年をだきおこしました。
それはまぎれもなく、技師長の愛息、相川泰二くんでした。
誘拐されたときのままのパジャマ姿で、しばられていたのです。
中村捜査係長も手つだって、大急ぎでさるぐつわをはずし、なわをといてみますと、泰二くんは別に大けがをしているわけではなく、ただおそろしさと息苦しさに気が遠くなっていただけでしたから、すぐに目をさまし、相川技師長の姿を見ると、いきなり「おとうさま!」となつかしい胸にすがりつくのでした。
「ハハハ……、どうです、相川さん。賊のからくりがおわかりになりましたかな。
それにしても、石膏像の中にかくすとは、じつに奇抜な思いつきじゃありませんか。
……待ってください。
まだ三つの像が残っている。
あいつらもたたきこわしてみなくてはならん。」
殿村せむし探偵は、得意げに金づちを手にしたまま、ヨチヨチと変な歩き方で別のすみの石膏像に近づき、それもまた勢いよくたたきこわしてしまいました。
すると、はげしい物音とともに石膏のかけらが雪のように飛び散る中から、こんどは黒い服を着た少年が、泰二くんと同じようにさるぐつわをはめられ、ぐるぐる巻きにしばられたまま、ころがりだしてきました。
それが大野敏夫くんでした。
殿村はますます得意になりました。
「おれの知恵はどんなもんだ!」といわんばかりに、例の黄色い歯をむきだしてゲラゲラ笑いながら、まるで幼い子どもがおもちゃをこわすように、残りの二つの石膏像も見るまにたたきこわしてしまいました。
その二つの像の中に、斎藤、上村の二人の少年がかくされていたことも、殿村の想像どおりだったのでした。このようにして、せむし探偵は、なんの苦もなく四人の少年を発見してしまったのです。
少年たちはみな、べつにけがをしているようすもなく、さるぐつわとなわをといてやると、元気に立ちあがって、四人が一かたまりに寄りそって、おたがいの無事を喜びあい、そこにいる三人のおとなたちに、口々にお礼をいうのでした。
中村係長と相川技師長とは、少しまえまでは、せむし探偵を、なんだか大ぼら吹きのように感じていたのですが、いま目の前に、このふしぎを見せつけられては、殿村のすばらしい腕まえを、認めないわけにはいきませんでした。
化けものみたいなみにくい姿はしているけれど、なるほど、この男は名探偵にちがいないと、心から感心しないではいられませんでした。
明智はここにいる
そうしているところへ、書斎のドアの外にドカドカと大ぜいの足音がして、何かはげしくいいあらそっている声が、部屋の中まで聞こえてきました。
なにごとがおこったのかと、中村係長がドアをひらいてみますと、その廊下に、部下の刑事たちと見なれぬ数名の背広姿の男とが、口々に何かわめきながら、もみあっているのでした。
「どうしたんだ。
その人たちは、いったい何者だ。
」係長が大声でたずねますと、刑事のひとりが、
「新聞記者です。
いくらとめても、殿村さんと約束がしてあるんだから、どうしても入れろといって聞かないのです。
」と、申しわけなさそうに答えました。
すると、殿村探偵は、その声を耳さとく聞きつけて、ヨチヨチとドアのところへやってきました。
「やあ、新聞記者諸君か。
よく来てくれた。
さあ、かまわんからはいりたまえ。
中村さん、この連中は、わしがここへ来るまえに電話で知らせておいたのですよ。
二時間ほど後に、この犯罪事件の真相を発表するからといってね。
」
「そんなことをしてくださってはこまりますね。
まだわれわれは犯人もとらえていないのだから……。
」
中村係長は顔をしかめて、殿村をなじりました。
「犯人? ハハハ……、犯人も、やがてわしがとらえてお目にかけますよ。
中村さん、そんなにこわい顔をしないで、まあ、ここはわしにまかせてください。
四人の子どもをぶじに取りもどした功労にめんじて大目に見ておいてください。
」そういわれてみますと、いかにも殿村はひじょうな手がらをたてたばかりなのですから、係長も、しいてとめだてするわけにもいきませんでした。
それに、これほどの名探偵のことですから、新聞記者を呼びいれたのにも、何か深い考えがあるかもしれません。
中村係長は、不承不承に一歩あとへさがって、新聞記者たちの室内へはいるのを黙許しました。
「さあ、諸君、こちらへ来たまえ。
そして、こわれた石膏像と四人の少年を見てくれたまえ。
これが、れいの誘拐された相川、大野、斎藤、上村の四少年じゃ。
なに、写真? この子どもたちの写真をとりたいというのか、よろしい。
とりたまえ。
じゃが、そのまえにもう一つ、諸君に見せるものがある。
それはほかでもない。
例の製作会社の機密文書じゃ。
わしは、それがどこにかくしてあるかも、ちゃんと知っている。
ちょうど諸君が来られたから、諸君の目の前で、あの重要書類をさがしだしてお目にかけることにしよう。
さがすといっても、なあにぞうさはないのじゃ。
ほら、それはここにある。
ここじゃ、このくずかごの中じゃ。
」
殿村はじょうだんのように言いながら、部屋のまんなかの大机に近より、その下においてあった大きなくずかごの中から、クシャクシャにまるめた書類のたばを取りだしてみせました。
「相川さん、これがあなたの金庫からぬすみだされた書類かどうか、ひとつしらべてみてください。
」
相川技師長はそれを聞きますと、ハッと顔色をかえて、殿村のそばにかけより、いきなり書類をひったくりました。
たいせつな機密文書を、新聞記者などの前でひろげられては、たいへんだと思ったからです。
それから、部屋のすみに行って、パラパラとページをくってしらべていましたが、ていねいに紙のしわをのばして二つに折りますと、たいせつそうに洋服の内ポケットにしまいこむのでした。
「相川さん、そうしてポケットにおしまいなさったところを見ると、どうやらほんものらしいですね。
まったく例の機密文書にそういありませんか。
」
「たしかにぬすまれた書類です。
さいわい紙数もちゃんとそろっていました。
しかし、あんなに苦心をしてぬすみだした書類を、くずかごの中へほうりこんでおくなんて、いったいこれは、どうしたことでしょう。
」相川技師長は、さもふしぎそうに、殿村探偵の顔を見つめました。
「ハハハ……、相川さん、これはあんた方の、あたりまえの頭ではわかりません。
相手は手品使いなのじゃ。「手品使いというものはね、見物の目をぬすむために、じつに思いもよらぬ、とっぴな手を考えるものじゃ。」
よろしいかな。
やつは、まず四人の子どもを、四つの石膏像の中にかくした。
これも手品使いの芸当じゃ。
それと同じことで、書類のほうも、だれが考えても、まさかと思うような、きばつな場所へかくしたのじゃ。
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