こんなふうにね」
伯父さんは、そこにあった紙に、鉛筆でトックリバチの図をかいて見せました。
胸と腹の間が、ふつうの蜂よりも細くて、腹の形がちょうど徳利のように見えるのです。
「この蜂はからだの長さが一センチあまりしかない小さなやつで、この巣の徳利の中へ二匹も三匹も入れるくらいなんだよ。
ほらね、だから、こいつは自分のからだの二三倍もある大きなセメントの壺をつくるわけじゃないか。
それも一つじゃないんだよ。
いくつでもつくるんだ。
そして、一つの巣に一つずつ卵を生みつけていくんだよ」
「じゃあ、蜜蜂なんかとちがって、こいつは一人ぼっちで巣をつくるんですか」
「うん。
そうだ。
いい質問をしたね。
これは仲間といっしょに働かない、一人ぼっちの蜂なんだ。
蜜蜂なんかそうじゃないね。
女王蜂と雄蜂と働蜂とが一つの国をつくっていて、その中の働蜂が力を合わせて、あの大きな巣をつくるんだね。
ところが、こいつは名人かたぎとでもいうのか、自分一人で、気に入った壺をつくっているという変ったやつだよ」
「それじゃ、自分のからだの何倍もあるようなこの壺を、トックリバチは、いったいどうしてつくるのですか。
セメントをどこから持ってくるのですか」
一太郎君は、この壺つくりの名人の秘密を、早く知りたくてたまらないのでした。
「その材料はよく乾いた土なんだよ。
少しでもしめりがあってはいけない。
人が歩いてふみかためた、白く乾いた道なんかの、かたい土がいいのだ。
トックリバチは、そのかたい土を、くちばしで削りとる。
そしてその土の粉を自分の唾でまるめるのだ。
この唾に土をかためる特別の性質があるんだよ。
いわばセメントの素とでもいうようなはたらきをするのだね。
このまるめた土を、脚でかかえて,巣をつくる場所へ飛んでくる。
その第一回に運んだのが、まず壺の底になるんだね。
底をつくっておいて、又土をとりに飛んでいく、二度目に持って来たので、底の上の方を少しぬりかためる。
そういうふうにして、何度となくいったり来たりして、だんだん壺をぬりあげてゆくんだよ。
だから、ごらん、この壺のまわりには、縞のような筋がついているだろう。
この一筋が一度に運んで来たセメントの分量なんだよ」
「じゃ、燕なんかの巣をつくるやり方と似ているんですね」
「そうだ。
ただ材料がちがうのだね。
そして、できあがった形がすばらしいのだ。
鳥も昆虫にも、いろいろ美しい巣をつくるのがあるけれど、壺つくりにかけては、トックリバチにかなうものはないね。
この壺の口のところが、なんともいえないじゃないか。
口が何かの首のように、スーッと細くなって、それがもう一度ひらいて丸いつばのようになっている。
ここは紙のようにうすいのだよ。
この口のところはよほど念入りにつくるのにちがいないね。
土も一番いいのをつかって、唾で十分こねてね」
伯父さんのお話をきいている内に、一太郎君はますますこのかわいらしい蜂がすきになって来ました。
伯父さんのお話はつづきます。
「人間が一番はじめにつくった壺も、なんだかこのトックリバチの壺に似ているんだよ。
博物館へ行くと、私たちの大昔の先祖のつくった土器というものが陳列してあるが、これとよく似た形だ。
その前には人間は壺をつくることを知らなかった。
何千年か前の私たちの先祖が、非常な苦心をして、やっと土をかためることをおぼえ、壺をつくり出したのだ。
ところが、トックリバチは、この世に出て来た時から、ちゃんと壺を作ることを知っていた。
この蜂は壺がなくては子供を育てることができないように生まれついているのだからね。
だから、壺をつくることでは、なかなかえらいわけだよ」
「じゃ、こいつは人間よりもかしこいのですか」
一太郎君はちょっと不服らしい顔でたずねました。
「壺をつくることだけはね」
伯父さんはニコニコして答えました。
「トックリバチは壺をつくるように生まれついているんだよ。
誰に教えられたのでもなく、また自分の智恵で考え出したのでもない。
まったく生まれつきなんだ。
自分の智恵で工夫したのではないから、進歩というものがない。
だから、こいつの壺は、千年前も今も、ちっともちがっていないのだよ。
ところが、人間はそうじゃないね。もともと壺をつくる力なんて生まれつき持っていないけれど、人間は知恵を働かせて、どんなことでも自分たちで工夫しつくりだすんだ。
人間には、新しいものを工夫してつくりだす力があるんだよ。
何千年前には、土の壺さえうまく作れなかったのに、今では飛行機に乗って鳥のように空を飛ぶこともできるし、潜水艇に乗って魚のように海の中を進むこともできるんだからね。
人間にはどんどん進歩していく力があるけれども、ほかの動物や虫にはそういう進歩というものがない。
たとえあったとしても、人間とは比べものにならないほどわずかなものなんだ。
ここが一番大切なところだよ。
人間は、自分で工夫さえすれば、いくらだってすばらしいことができるんだからね」
一太郎君はそれを聞いて、ほっと安心しました。
「ところで、このトックリバチにはね、もう一つ、みんながびっくりするようなすごい秘密があるんだよ。
『智恵の一太郎』であるきみでも、ちょっと考えつかないようなすばらしい工夫を、生まれつきちゃーんと持っているんだ」
伯父さんはここで言葉をピタッと止めて、なんだかじらすような、いたずらっぽい笑い方をしながら、じっと一太郎君の顔を見つめるのでした。
さあ、この小さなトックリバチの、もう一つの秘密というのは、いったいどんなことでしょうか。
幼虫の曲芸
一太郎君は、農学士である伯父さんのお家で、トックリバチという小さな蜂がつくった素敵な壺を見せてもらいました。
木の枯れ枝に、まるでおひな様のお部屋に飾る花瓶みたいな、とってもかわいらしい白い壺が、ポツンとくっついているのです。
大きさはちょうどサクランボくらいで、一太郎君のお家にある瀬戸物の一輪挿しとそっくりの形をしています。
伯父さんは、そのトックリバチが、いったいどんなふうにしてあんな見事な壺をつくるのかを、くわしく一太郎君にお話して聞かせてくれたのです。
それは、さっきお話ししたとおりだよ。
「ところがね、このトックリバチには、もう一つ、とってもおもしろい秘密があるんだよ」
伯父さんはまた、なんだかじらすような楽しい笑い方をしながら、一太郎君の顔をじっと見つめました。
一太郎君は、そのおもしろい秘密というのがいったい何なのか、早く聞きたくて聞きたくて、もうたまらない様子です。
「トックリバチはね、さっきも言ったように、ものすごい大変な苦労をしてあの美しい壺をつくりあげるんだけれど、それはけっして自分のためにやっているわけじゃないんだよ。
この壺は、自分がなかに入って休んだり眠ったりするためのものじゃなくて、かわいい子どもを育てるためのものなんだ。
つまり、子どものためのお家なのさ。
トックリバチは、壺をつくりおわると、こんどは子どものための食糧集めにとりかかる。
その食糧というのが、長さ一センチにも満たない小さな青虫なんだ。
小さな蛾の幼虫なんだね。
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