」
明智は、グルッと、人々の顔を見まわしました。
みんなの目が、飛びだしそうに、見ひらかれています。
みんなが石にでもなったように、身うごきするものもありません。
「おわかりになりましたね。
そうです。
老怪人に化け、明智に化けた黒川記者、その黒川もほんとうのかれではなかったのです。
ぼくはかれの本名を知りません。
一年あまりまえ、『虎の牙』の事件で、魔法博士として、とらえられた人物、すなわち、怪人二十面相です。
みなさん、そのイスにしばられているのがあのおそるべき大悪魔、怪人二十面相なのです。
『虎の牙』の事件で、とらえられた数日後、かれはもう、とくいの牢やぶりで、すがたを消していました。
そして、東洋新聞の黒川記者となって、ぼくへの遠大なふくしゅうを、けいかくしていたのです。
捜査課長さん、あらためて、凶賊二十面相を、ひきわたします。
こんどこそ、逃がさないように、万全のしゅだんをこうじてください。」
明智のことばが、きれるかきれないうちに、ワッと言う声が、部屋じゅうに、ひびきわたり、課長、係長、刑事、小林少年、少年探偵団員、あわせて十人の人々が、イスにしばられた、にせ明智のまわりに、殺到していました。
そのいきおいに、犯人のしばられたイスがたおれ、怪人二十面相は、ぶざまなかっこうで、ゆかにころがっていました。
さすがの魔術師も、こうなっては、もう、どうすることもできません。まっさおな顔に脂汗を流し、唇をかみしめて、死人のように横たわっているばかりです。
かくして、あれほど世間をさわがせた、透明怪人の大事件も、ついに最後の幕をとじることになりました。
これよりして、名探偵・明智小五郎と名助手・小林少年の評判が、いよいよ高くなったことは、言うまでもありません。
しばらくは、どこへいっても、ふたりの手柄話ばかりでした。
初級翻訳・透明怪人 第34話
江戸川 乱歩
コメント