外からカギがかかっているから、おれたちがいなくなったら、子どもは本当におなかをすかせて死んでしまうんだよ!」
「その秘密の部屋は、いったいどこにあるんだ!」
「二階のてんじょうの上だ!
そこは、おれでなければひらけない。
ひらきかたに秘密があるんだ。
だから、きみたちはこのおれについてきて、しっかり見はっていればいいだろう?
けっしてにげやしないさ。
にげようにも、地下道のほかににげ道はないじゃないか!」
「よし、それなら二階へ行くがいい。
ぼくたちがきびしく見はってやるぞ!」
中村けいぶはそこで、刑事たちに命令を下しました。
「こっちはぼくと、もうひとりの刑事だけでいい。
あとの四人は、そのへんにかくれている手下のやつらをのこらずひっくくってくれたまえ!」
四人の刑事たちは、パッと四方にわかれて家さがしを始めました。
首領がつかまってしまったので、部下たちはもう逆らう元気もありません。
二階や下にかくれていた四人のわるものたちも、あっという間につかまってしまいました。
中村けいぶとひとりの刑事は、白ヒゲの首領といっしょに二階へ上がりました。
そこは、ただのふつうの二階ではありません。
コンクリートの大仏のなかに板をはりめぐらせ、鉄の階段をつけて、上と下の二つに部屋をわけただけだったので、二階の部屋はてんじょうがはるか上に見えるほど高く、上の方はうす暗くてよく見えません。
それに、大仏の首から上の内側はぐっとせまくなっていて、まるでほら穴のようなふん囲気です。
「秘密の部屋はどこにあるんだ?」
けいぶがたずねると、首領はそこの鉄のはしごを指さしました。
それはコンクリートのかべにそってまっすぐに取り付けられた細いはしごで、大仏の肩と首の境目(さかいめ)あたりまでズーーッとつづいているのです。
「ここからは見えないが、あのはしごの上に秘密のドアがあるんだ。
それはおれでなければひらくことができない。
きみたちはこのはしごの下で待っていてくれ。
すぐに私めが子どもをつれてりおりてくるからさ」
首領はそう言うと、いきなりはしごをのぼりはじめました。
白髪(しらが)のおじいさんとは思えないほどのものすごいすばやすさです。
中ごろまでのぼったとき、足にまとわりついていたガウンを、パッとぬぎすてました!
するとガウンは、まるでまっかな大きな鳥のようにふわっと空中にうかびあがり、けいぶたちの目の前にひらりと落ちてきました。
なんと首領は、ガウンの下に、体にピタッとすいつくような黒いビロードのシャツとズボンをきていたのです!まるでサーカスの曲芸師のような格好です。
それが、サルのように身軽に、まっすぐのはしごを登っていく様子は、とても老人とは思えません。
はしごの下にいた刑事は、それを見て、なんだか心配になってきました。
「あんな高いところに、秘密の部屋があるなんて、うそじゃないでしょうか。
あいつ、はしごをのぼってどこかへ逃げるつもりじゃないでしょうか。」
刑事は中村警部にささやきました。
「うん、そうかもしれない。
なんだか様子がおかしい。
ぼくらも登ってみよう。」
警部はそう答えたかと思うと、すばやくはしごにとびつきました。
そして、賊のあとを追ってスルスルと登り始めたのです。
刑事もすぐそのあとにつづきました。
なかほどまで登って上を見ますと、はしごの頂上に何か黒い穴のようなものが見えました。
電灯が暗いので、はしごの下からはよく見えなかったのです。
賊の首領は、その穴に向かってまっしぐらに登っていきます。
「待てっ!
きさま、逃げるつもりだな。
止まれっ、止まらぬと撃つぞっ!」
警部がピストルを出して銃口を上に向け、さけびました。
そこまで登ると、はしごの頂上にさしわたし六十センチほどの丸い穴があいていることがよくわかったからです。
首領はその穴から大仏の外側へ逃げだそうとしているのです。
警部がさけんでも首領は知らん顔でますますスピードを上げて登っていきます。
そしてついに頂上まで登りつき、穴のふちに手をかけました。
「待てっ!」
さけぶと同時に警部はピストルを発射しました。
しかし殺すつもりはないので、わざと的をはずしたのです。
曲芸師のようなまっ黒な賊の姿が、コンクリートの穴の外へパッととびだしていきました。
その穴は大仏の首のへんにあるのですから、地上数十メートルの高さです。
もしそこからとびおりたとなれば、賊の命はありません。
彼ははたしてとびおりたのでしょうか。
それとも……。
天空の曲芸
怪老人が穴から外へ逃げだしたときには、中村警部はまだはしごの中ほどにいたので、とても相手をつかまえることはできません。
天井の小さな穴から大仏像の肩の上にともだした怪老人は、そこに腹ばいになって穴の外から手をいれ、鉄ばしごのてっぺんがコンクリートの壁にとりつけてあるのをはずし、両手でがしごをユサユサとゆすぶりはじめました。
「あ、あぶない!
係長、はしごがたおれますよっ!」
下にいる刑事が大声をたてました。
怪老人はひとゆりごとに弾みをつけて、はしごを壁からつきはなそうとしています。
中村警部はふりおとされないように両手ではしごにしがみついていましたが、だんだんはげしくゆれだして、はしごといっしょにたおれそうになるので、とうとう中段から下へとはねおき、どさっとしりもちをつきました。
ほとんどそれと同時でした。
長い鉄ばしごがおそろしい音をたててサーッとたおれてしまったのです。
そのとき天井の穴から怪老人の顔がのぞき、白ヒゲの中のまっかなくちびるが大きくひらき、キチガイのような笑い声が響いてきました。
「ワハハハ……、ざまあみろ!
子どもがかくしてあるなんてでたらめだよ。
ここが俺の最後の逃げ道さ。
これから俺は天国にのぼるんだ。
きみたちがどんなにくやしがってもついてこられない。
高い高い空へ、のぼるんだ!」
そして老人の顔がパッとひっこんだかと思うと、パタンと音がして天井の穴がまっ暗になってしまいました。
外からふたをしめたのです。
そこは大観音像の肩の上でした。
怪老人はコンクリートの大きな肩の上をヒョイヒョイと歩いて、仏像の巨大な頭へとよじのぼりはじめました。
観音さまの頭のかぶりものにうねうねしたひだがあるので、それを足場にしてのぼるのですが、垂直の崖ですからまるで登山のロック=クライミングみたいなものです。
よほど冒険になれた人でなければのぼれるものではありません。
しかし白ヒゲの怪老人はまるで青年のようなすばやさでそこをよじのぼり、とうとう観音さまの頭のてっぺんにあがってしまいました。
コンクリートの巨大な頭の上にスックと立ちあがった怪人の姿!
ぴったりと身についた黒のビロードのシャツとズボン、そのすらっとした姿が、何のさえぎるものもない広い広い青空の中に立ちあがっている景色は、じつに異様な感じのものでした。
怪人は両手を高くあげて、なにか合図のようなことをしました。そして、目の下に見える森をこえて、そのむこうの広っぱの方を、じっと見つめています。
そこに賊の仲間が、隠れてでもいるのでしょうか。
その仲間に向かって、手を上げて合図をしたのでしょうか。
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