コンクリートの大仏ならば、いかにも灰色の巨人にちがいありません。
人間のあだなだとばかり思って、大男などをさがしていたのですが、じつは賊のすみかの名まえだったのです。
そのとき、明智がむこうの方を指さして、みょうなことをいいました。
「中村君、見たまえ。
ほら、あすこの木のねもとの草が、ユラユラ動いている。」
みんなは、その木のねもとを見ますと、たしかに、一ヵ所だけ、異様に草がゆれています。
モグラでもいるのでしょうか。
いや、モグラにあれほどの力はありません。
もっと大きな動物が、地下から土をおしあげているのです。
「みんな、木のかげにかくれて、あすこを、よく見てください。」
明智はそういって、じぶんも大きな木のみきにかくれました。
ほかの人たちも、それぞれ、木のかげにかくれました。
見ていますと、草の動きかたは、ますますはげしくなり、やがて、さしわたし五十センチほどの土が、草といっしょに持ちあげられ、その下に黒い穴ができました。
そして、その穴の中から、ニューッと人間の顔が、あらわれたではありませんか。
その人間は、地面から顔だけ出して、あたりを見まわしていましたが、だれもいないと思ったらしく、やがて、穴の外へ全身をあらわしました。
セーターをきて、大きな黒めがねをかけた、二十五―六の若ものです。
「あいつは賊の手下だ。
しばってくれたまえ。」
明智がそっとささやきますと、中村警部は、部下の刑事にあいずをしておいて、まっさきに、木のかげからとび出していき、若ものの方へ、つかつかと近づくと、いきなりピストルを出して、「待てっ。」とどなりつけました。
若ものは、このふいうちに、びっくりして、両手をあげて立ちどまりましたが、すると、ひとりの刑事が、うしろからとびついて、カチンと、手錠をはめてしまいました。
「足をしばるんだ。
それから、さるぐつわだ。」
警部のめいれいで、刑事は若ものをおしたおしておいて、ほそびきで、その足をグルグルまきにしばりあげ、てぬぐいで、さるぐつわをかませました。
そして、若もののからだを、ゴロゴロころがして、木のしげみの中にかくしてしまいました。
「おどろいたね。
あの中が、コンクリート大仏の体内への出入り口になっているんだね。」
中村警部がいいますと、明智は、うなずいて、
「そうだよ。
けさもこの穴から出てきたやつがある。
ぼくはそいつをとらえて、その男の服をきて、賊の手下にばけて、賊のすみかへ、しのびこんだのだ。
そして、にせの宝冠と、ほんものの宝冠と、とりかえてきたんだ。
そのときの賊の手下は、そのまま、ここの警察の留置場にほうりこんだよ。
あの穴をはいると、せまいトンネルのような地下道が、大仏の下までつづいている。
そこに広い部屋があって、賊の首領がいるんだ。
長い白ヒゲをはやした、じいさんだよ。
きみたちは、そいつをとらえてくれたまえ。
部下もいっしょに、つかまえるんだね。
いま、あすこにいるのは、三人か四人ぐらいのものだ。
ぼくは、ほかに、ちょっと仕事があるので、ここでわかれるよ。」
「え、きみはどっかへ、いってしまうのか。」
警部が、おどろいて聞きかえしました。
「うん、むろん灰色の巨人にかんけいのある仕事だよ。
それはね……。」
明智は警部の耳に、なにごとか、ささやきました。
すると、警部は、いよいよ、おどろいた顔になって、
「ふうん、きみは、そこまで、しらべたのか。
いつもながら、ぬけめがないね。
よし、それじゃ、ぼくたちは、安心して、賊を攻撃する。
きみのほうも、しっかりやってくれ。」
ふたりは、ちょっと、あくしゅをして、わかれました。
そして、中村警部と、五人の刑事は、地下道の穴の中へ、はいっていきました。
その中には、土の階段があって、それをおりると、まっ暗な、長い横あなが、つづいています。
立ってあるけないほど、せまいトンネルです。
人びとは、せなかをかがめ、はうようにして、そこを進んでいました。
黒い曲芸師
コンクリート大仏の体内の、広い部屋には、まっかなガウンをきて、大僧正のような姿をした、白ヒゲの首領が、りっぱないすにもたれて、洋酒をのんでいました。
前のテーブルには、めずらしい西洋のお酒のびんが、いくつもならべてあります。
首領はそれを、つぎつぎと、グラスについで、さもうまそうに、ちびりちびりと、やっているのです。しんりょうは、グラスを口に近づけようとしたけれど、思わずその手を止めました。
なんだかへんな音が聞こえてきたからです。
その音は、部屋のすみにぽっかり開いている、地下道の入り口のほうから聞こえるようだったので、しんりょうはびっくりしてぎょっとしながらそちらをふりかえりました。
すると、そこには、見たこともない道路工事のおじさんのような男が六人、だまってどっしりと立っていたではありませんか。
「だれだっ!
きみたちは、いったい、なにものだっ!」
しんりょうは立ちあがって、身をかまえながら大声でどなりつけました。
「警視庁の者だ!
きみをむかえにきたのさ!」
中村けいぶが言いかえすと、五人の刑事たちは、ものすごいスピードで、わるものの首領のまわりをすばやく取りこみました。
「警視庁からのおむかえか……。
ははは……、そいつは光栄のいたりだな。
だが、おれになんのつみがあると言うんだ?」
白ヒゲの首領は、びっくりするほど落ち着きはらっています。
宝石がちりばめられたまっかなガウンがキラキラと光って、なんだか近づきがたいほどの、立派なすがたです。
「『灰色の巨人』の意味がわかったのだ!
それをわれわれは、人間のあだなだとばかり思っていたが、そうではなかった。
きさたち、わるものたちのすみかの名前だったのだ!
このコンクリートの大仏は、たしかに『灰色の巨人』にちがいない。
こんなへんなところに住んでいるだけでも、きさまは警察につかまる値うちがある。
ましてや、いま世間をさわがせている宝石どろぼうだとわかっているのだから、もうにげきれるわけがないぞ!
見ろ、この部屋のガラスのケースの中にある宝石は、みんなきさまが盗み出したものばかりじゃないか!
おとなしく手錠をうけろっ!」
中村けいぶが目で合図をすると、ひとりの刑事くんがスタスタと前にすすみ出て、首領に手錠をかけようとしました。
「待ってくれ!
こうなったからには、おれももうひきょうなまねはしない。
だが、ちょっと言いたいことがあるんだ。
この二階に、子どもがひとりかくしてある。
おれや部下たちがつかまってしまうと、その子どもがうえ死にしてしまうんだ。
子どもをたすけ出すあいだ、ちょっと待ってくれ!」
首領はなんだかへんなことを言いだしました。
「うそをつけ!
子どもはきのう、『にじの宝冠』とひきかえに、園井(そのい)さんに返したじゃないか!」
「いや、園井正一(そのいしょういち)じゃない!
じつは、もうひとりの子どもを盗み出していたんだ。
その子どもが秘密の部屋にかくしてある。
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