小さな活字の辞書なんかは、穴を一ミリくらいの少し大きめにして、十センチほどはなして見ると、おじいさんの老眼鏡とおんなじくらいに大きく見えちゃうんだ。
それでぼくは、厚紙を眼鏡の形にチョキチョキ切りぬいて、そこに穴を二つあけて、ひもをつけたら、おじいさんの眼鏡ができるなあって思ったんだ。
いつかおじいさんに作ってあげようってずっと考えていたんだよ。
そしたらちょうど、おじいさんが眼鏡をなくして困っていらっしゃるでしょう?
だからぼく、すぐにそれを思い出して作ってみたんだ!」
お父さんは一太郎くんのこの説明を聞いて、すごく感心してくださいました。
「なるほどねえ、よくそこまで自分で考えついたものだ。
目を細めて自分のまつ毛を見ることは誰にでもできるけれど、そこからさらに考えを進めて、虫めがねや老眼鏡の代わりになるものを工夫するなんて本当にえらいぞ。
世の中のえらい学者たちの発見や発明だって、みんなそうやって、一つのことから次へと根気よく考えを深めていったからこそ、できあがるものなんだよ。
たとえ小さなことでも、よく注意して観察してみること、そしてその考えをほかのものにもあてはめていろいろ試してみること、それが何よりも大切なことなんだ。
お前が工夫した『どうして針の穴が眼鏡の代わりになるのか』ということを調べる学問のことを『光学(こうがく)』と言うんだよ。
お前がもっと大きくなって難しい理屈がわかるようになったら、どうしてそうなるのかがちゃんと説明できるようになるはずさ。
今はそこまで難しく考えなくてもいいけれど、こういう素晴らしい発見をしただけでもう大はっぱ(大あっぱれ)の大手柄なんだよ!」
お父さんにあまりにもたくさんほめられたので、一太郎くんはなんだかちょっと恥ずかしくなって、顔をまっかに赤くしてしまいました。
「ふーむ、なるほど、一太郎は小さな発明家というわけだな」「それじゃ一つ、眼鏡のお礼に、何か御褒美を出さなくてはならないな」
お祖父さんも、一太郎君の頭をなでながら、目を細くして、おっしゃるのでした。
それ以来、明石君のお家では、この針の穴の軽便眼鏡に「一太郎の眼鏡」という名がつけられました。
そして、いつとなく、それが学校のお友だちまでに知れて、「一太郎の眼鏡」は、たいへんな人気ものになってしまいました。
みなさんも、古いハガキか何かで「一太郎の眼鏡」を作ってごらんになってはいかがですか。
老眼鏡には直径一ミリぐらいの少し大きい穴がよいのです。
針でそんな穴をあけるのがむつかしければ、錐の先を使うのです。
そして、読むものを十センチぐらいはなして、その上に明かるい光があたるようにして見るのです。
虫眼鏡に使うには、できるだけ、針の穴を小さくして、物を二センチぐらいに近づけて、明かるい光にあてて、のぞくのです。
近眼の方は、眼鏡をとって遠くのものをのぞいてためしてごらんなさい。
そうしていろいろ工夫をしてやっているうちには、一太郎君の思いもよらなかったような、おもしろい実験ができるかも知れませんよ。
お雛様の花びん
一太郎君は、ある日曜日に、また田舎の伯父さんの家へ遊びにいきました。
いつか蜘蛛の橋渡しの曲芸を見せて下さった、あの農学士の伯父さんの家です。
いつものようにごちそうになったり、庭の温室を見せてもらったりしたが、一番おもしろかったのは、やっぱり伯父さんのお話です。
そのお話の中で、伯父さんはニコニコ笑いながら、妙なことをおたずねになるのでした。
「一太郎、お前は、お前の体が二つも三つも入るような、大きなセメントの壺を、一人でつくることができるかい」
一太郎君は、このとっぴな質問に、びっくりしてしまいました。
「え、セメントの壺ですって」
「そうだよ。
口のところが徳利のような形をした、まんまるな壺だよ」
「とても一人でなんかできっこありませんよ。
まず型をつくらなければならないし、第一僕はセメントと砂のまぜ方さえ知らないんですもの」
「そうだろう。
大人だって、そんな大きな壺を、一人でつくるのはちょっとむずかしいからね。
ところがね、一太郎、そういう大きな壺を、たった一人で、なんの道具も使わなくて、やすやすとつくるやつがいるんだよ。
しかも、その壺が実にいい形をしているんだ」
「へえ、それ、どこの人ですか」
「いや、人間じゃないんだ。
今のはたとえ話だよ。
いつかの蜘蛛と同じで、やっぱり虫なんだ。
そういう壺つくりの名人の虫があるんだよ」
そういって、伯父さんは研究室へ入って行って、小さな木の枯枝を、さもだいじそうに持って、出てこられました。
「これだよ。
ごらん、ここにその壺が三つもくっついているんだよ」
その枯木の枝には、さくらんぼぐらいの大きさの白いまるいものが、少しずつ間をおいて、三つくっついていました。
よく見ますと、その丸いものは、いかにも人間がつくった徳利のように、うまくできているのです。
まんまるな胴に、細い口がついて、その口のはしが花でも開いたように、ひろがっているのです。
「やあ、かわいい徳利だな。
これ僕の家の一輪挿の花瓶とそっくりですね。
この口のところなんか、ほんとうにそっくりですよ」
一太郎君は、お雛様の花瓶のような、かわいらしいセメント細工のようなものが、すっかり気に入ってしまいました。
「うまくできているだろう。
ところで、これをつくった虫は何だと思うね」
一太郎君は、首をかしげて考えましたが、どうしてもわかりません。
まだそんな虫のことは、教わったことがないのです。
「蜂だよ。
これはトックリバチという蜂の巣なんだよ」
伯父さんが種あかしをして下さいました。
「へえ、蜂ですって? 蜂がこんな白い巣をつくるんですか」
「そうだよ、蜂といえば、誰でも蜜蜂や山蜂を思いだすけれども、ほかにもいろいろな蜂があるんだ。
蜂の種類によって、みんな巣のつくり方がちがうのだよ。
蜜蜂の巣は見たことがあるだろう。
あれも実に見事なものだね。
正しい六角形の筒を数かぎりなくよせあつめた、大きな房のような、あのお家もほんとうにりっぱなものだ。
しかし、あれは誰でも知っている。
都会の人は、蜂の巣といえば、どれでもあんな形をしているのだと思っているくらいだからね。
ところが、蜂の巣には、いろんなのがあるんだよ。
土の中へ穴をほって巣をつくる蜂もある。
それから細い枯木の中へもぐりこんで、その中をがらんどうにしてしまって、幾段にもわけて巣をつくるのがある。
かたつむりのからを占領して、その中へ巣をつくるやつもある。
又、家の天井などの太い材木をくりぬいて巣をつくるのもある。これはまるで大工さんのようだというので、ダイクバチという名がついているのだよ。
それから、サカンバチというのもある。
屋根の瓦の下や、石がけなどに、小石をしっくいでぬりかためたような巣をつくる、人間でいえば、ちょうど壁をぬる左官と同じだね。
だからサカンバチっていうのだよ。
このかわいいセメントの壺をつくるやつは、徳利製造の名人だから、そこでトックリバチというわけさ。
この蜂はからだまで徳利みたいな恰好をしているんだよ。
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