そしていちばん外側の輪は、しっかりと艇のかべにとりつけられている。
つまり、昔からあるらしん儀のとりつけかたとおなじである。
そのとりつけかたをすると、船がどんなにかたむいても、らしん儀の表だけはちゃんと水平にたもたれるのだ。
――カモシカ号の操縦者とともに、いつも重力の方向にじっとしていて、横にかたむいたり、さかさになったりしないようにたくみに設計されているのであった。
だから宇宙艇カモシカ号がまっすぐに上昇しようと、水平方向にとぼうと、あるいはまた宙がえりをしようと、操縦席はいつも直立不動で、操縦席にいる人間は家の中でいすに腰をかけてじっとしているのと同じであって、たいへんらくである。
そのかわり宇宙艇の頭は、すきとおったあつい有機ガラスと、じょうぶな鋼鉄のわくとをくみあわせて、半球形になっていて、操縦席がどっちへむこうとも、いつでも艇の外が見られるようになっている。
艇は、垂直に上昇をつづけている。
太陽の光りはあかるく円屋根の左の窓からさしこんでいる。
高度は、今しがた七千メートルを高度計のめもりがしめした。
下界は、はばのひろい濃いみどり色のもうせんをしいたように見え、そのもうせんの両側にガラスのような色を見せているのは海にちがいない。
まるで白い綿をちぎったような小さな雲のきれが、艇と下界のあいだに浮いて、じっと、うごかないように見える。
「千ちゃん、たいくつだね。
下界のラジオでもかけようか」
「うん。
どこか軽快な音楽をやっている局をつかまえてくれよ」
「ああ、さんせいだね」
ポコちゃんが短波ラジオのダイヤルをぐるぐるまわしていると、アメリカのラジオ・シチーの明かるい放送がはいってきた。
二人がそれにききいっているうちに、高度はどんどんあがっていく。
そして空がだんだん暗さをます。
やがて星がきらきらかがやきはじめる。
「ポコちゃん、いつのまにかほくたちは成層圏へたっしたよ。
ほら、空が暗くなってまるで夕方になったようだ」
千ちゃんが指をてんじょうの方へむけていう。
が、ポコちゃん、へんじをしない。
それもそのはず、ポコちゃんは音楽をききながらいい気もちになってねむってしまったのだ。
「おやおや、のんきな坊やだなあ」
そういっているとき、へんなこえが頭の上にした。
「もしもしカモシカ号。もしもしカモシカ号……」
あ、下界からの超短波の無線電話のよびだしだ。
「ああ、こちらはカモシカ号です。
山ノ井万造です。
あなたはどなたですか」
「おお、カモシカ号ですね。
ぶじですか。
みんなしんぱいしていたところです。
こっちは東京放送局の中継室ですが……」
「ぼくたちは元気です。
しんぱいはいらんです」
「でもね、さっきから――そうです、四十分ほど前からこっちへずっとカモシカ号からのテレビジョンがとまっているのです。
だからカモシカ号は空中分解でもしたんじゃないかと、しんぱいしていたわけです。
だから超短波の無電でちょっとよびだしをかけたんです」
「こっちからのテレビジョンがとまっていますって。
それは知らなかった。
そんなはずはないんですがね。
念のためにちょっとしらべますから、待っていてください」
千ちゃんはふしぎに思って、テレビジョンの空中線回路へ監視燈をつっこんでみると、燈がつかない。
なるほど電流が通っていない。
やっぱりそうだったんだ。
故障の箇所はどこだろうかと、千ちゃんは座席から立ちあがってはしごで下へおり、テレビジョン装置をしらべてみた。
しかしアイコノスコープも発振器もどこもわるくなさそうである。
しかしテレビジョン電流はさっぱり出ないのだ。
いよいよこれはへんである。
千ちゃんはふたたびはしごをのぼって操縦席へもどってきた。
このうえは、いい気持のポコちゃんをねむりからさまして、二人して故障箇所を早くさがそうと考え、となりの席で、ていねいに、おじぎをしたようなかっこうでいねむっているポコちゃんの肩へ手をかけようとしたとき、故障の原因がたちまちはっきりわかってしまった。
「なあんだ。
ポコちゃんが、自分のおでこで、テレビジョンのボタン・スイッチをおして“テレビ休止”にしているじゃないか。
困った坊やだ。
おいポコちゃん、ポコちゃん。
そうしていちゃこまるじゃないか」
と、千ちゃんはポコちゃんの肩をもって、自動式操縦ボタンのパネル(盤)からひきはなした。
しかしポコちゃんは、まだ目がさめないで、座席に深くおちこんだようなかっこうで、むにゃむにゃ、ぐうぐうぐう。
千ちゃんはあきれながら“テレビ動作”のボタンをおす。
するとテレビジョンはすぐさま働きだした。
「ああ、もしもしカモシカ号。
そっちから送っているテレビジョンが受かるようになりました。
ありがとう、ありがとう」
下界の放送局のこえである。
「いや、どういたしまして。
ぼくの顔が見えていますか」
「ああ、よく見えます。
笑いましたね、いま。
あなたは山ノ井君ですね」
「そうです、山ノ井です」
「もう一人の川上一郎君は健在ですか」
「はあ、健在です」
「では、川上君にちょっとテレビへ出てもらって、何かしゃべってもらってくれませんか」
「はいはい。
しょうちしました」
千ちゃんはそうこたえて、テレビジョンの送影口をポコちゃんの方へむけて大うつしにして、
「おいおい、ポコちゃん。
放送局のおじさんが、君になにかしゃべれってさ」
と、肩をゆすぶって起しにかかる。
「……うん、むにゃむにゃむにゃ……。
もうおイモはたくさんだよ。
ナンキンマメがいい。
あ、そのナンキンマメ、まってくれ。
むにゃむにゃ……」
と、ポコちゃんは、ねごとをいう。
「はははは、これはゆかいだ」
と、放送局のアナウンサーは笑って、
「では、もう時間がきましたから、このへんでさよならします。
次の連絡時間は十時かっきりということにねがいます。
エヌ・エィチ・ケー」
飛ぶ火の玉
ポコちゃんがしぜんに、ねむりからさめたときには、艇の外はもうまっくらであった。
「あっ、あああーッ。
いい気もちでねむった。
――おやおや、もう日がくれたぞ。
早いものだ。
さっき朝だと思ったのに……」
そういうポコちゃんの横の席では、千ちゃんがしきりに日記をつけている。
「あ、千ちゃんがいたよ」
と、ポコちゃんはつまらないことを感心して、
「千ちゃん、今何時だい」
「今、十時三十分だ」
「十時三十分? 午後十時半かい」
「ちがうよ。
午前十時三十分だよ」
「へんだね、それは……だって、外はまっくらで、星がきらきらかがやいているぜ。
ま夜中の景色だよ、これは……」
「おい、しっかりしてくれ、ポコ君、いつまでねぼけているんだよ」
「ねぼけているって、このぼくがかい。
ぼくがどうしてねぼけるもんか。
千ちゃんこそねぼけているぞ。
ぼくはねぼけてなぞいないから、たとえば、この高度計でもさ、はっきり読めるんだ。
……おやおやおや」
ポコちゃんは目をこすったり高度計のガラスぶたをなでたり。
「へえ、ほんとうかなあ、高度二万五千メートルだって……。
すると成層圏のまん中あたりの高度だ……。
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