初級翻訳・山椒大夫 第11話

山椒大夫

鳥だって命あるものだから、
早く早く逃げなさい、私が追いかけなくてもいいように」
正道はうっとりとしたようになって、この言葉にすっかり聞きほれてしまいました。
そのうち、体の内側が煮えかえるように熱くなり、まるで獣のような叫び声が口から飛び出しそうになるのを、歯をくいしばって必死こらえました。
次の瞬間、正道は体に巻きついていた縄がプツンと解けたかのように、生け垣の中へ勢いよく駆け込みました。
そして、足でむしろの上の粟の穂を踏み散らしながら、女の人の前にバタリとひれ伏しました。
右手には大切なお守り本尊を高く掲げ持ち、ひれ伏したときにそれを自分の額にギュッと押し当てました。
女の人は、スズメではなく、もっと大きな生き物が粟を荒らしに来たことに気づきました。
そして、いつも唱えていた歌をやめて、見えない目でじっと目の前を見つめました。
そのとき、まるで干し貝が水にひたされてふやけるように、乾いていた両方の目にみるみる潤いが戻ってきました。
女の人の目があいたのです。
「厨子王……!」
という叫び声が、女の人の口から飛び出しました。
二人はしっかりと、ぴったりと抱き合ったのでした。

(大正四年一月)

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