初級翻訳・幸福のうわおいぐつ 第6話

アンデルセン ハンス・クリスチャン

そうすれば、みんなが見つけて鍛冶屋を呼びにやってくれて、鉄の格子をやすりで切って助け出す、という展開になるでしょう。
でも、そんな作業はすぐに終わるものではありません。
すぐ前の貧民学校から総出でやってくるだろうし、すぐそばの海員地区からも人がつながってくるでしょう。この「お仕置き台」に首を挟まれているさらし者を見物しようと、去年、竜舌蘭(リュウゼツラン)の大輪が咲いた時とはまた違う、大変な人だかりになることでしょう。
「うう、苦しい。血が頭に上るようだ。俺は気が狂う。――そうだ、もう気が狂いかけている。ああ、どうかして自由になりたい。それだけでもういいんだ!」
これはもう少し早く言えばよかったことでした。
こう思った通りに口に出した途端、頭は自由になったのです。「幸福のうわおいぐつ」の恐ろしい効き目にびっくりして、助手は夢中で家へ駆け込みました。
しかし、これで一切済んだと思ってはいけません。
これからもっと大変なことになるのです。
その晩はそれで過ぎて、次の日も無事に暮れました。
誰も「うわおいぐつ」を取りに来るものはありませんでした。
その日の夕方、カニケ街の小さな朗読会の催しがあるはずでした。
小屋は人でぎっしり詰まっていました。
朗読会の番組の中に、新作の詩がありました。
それを私たちも聞きましょう。
さて、その題は、

   おばあさんのメガネ

ぼくのおばあちゃん、名代の物知り、
「昔の世」ならばさっそく火あぶり、
あったことなら、なんでも知ってて、
その上、来年のことまでわかって、
四十年先まで見通しの神わざ、
そのくせ、それを言うのが嫌い。
ねえ、来年はどうなりますか、
何か変わったことでもないか、
お国の大事か、ぼくの身の上、
やっぱり、おばあちゃん、なんにも言わない。
それでもせがむと、おいおいご機嫌、
はじめの頑張り、いつものとおりさ、
もうひと押しだ、かわいい孫だ、
ぼくの頼みを聞かずにいようか。
「ではいっぺんなら叶えてあげる」
やっと承知でメガネを貸した。
「さて、どこなりと大勢のひとが
集まる中へ出かけていって、
ごった返しを、メガネで覗くと、
とたんに、それこそカルタの札の
占いみたいに、なんでもわかる、
先の先まで、手にとるように。」

お礼もそこそこ、見たいが先で、
すぐ駆け出したが、さてどこへ行く。
長町通か、あそこは寒い、
東堤か、ペッ、くされ沼。
それでは、芝居か、こりゃ思いつき、
出し物もよし――お客は大入り。
――そこでまかり出た今夜の催し、
おばばのメガネをまずこうかけて、
さあ眺めます――お逃げなさるな――
ほんに、皆さま、カルタの札で
未来の占い、当たればなぐさみ――
ではよろしいか。
ご返事ないのは承知のしるし。
さて、ご好意のお礼ごころに、
メガネで見たこと申し上げる。
では、皆さまの、自分のお国の、未来の秘密、
カルタの表に読みとりまする。
(メガネをかける)
ははん、なるほど、いや、笑わせる。
珍妙不思議、お目にかけたい。
カルタの殿方、ずらりと並んで、
お行儀のいい、ハートのご婦人。
そちらに黒いは、クラブにスペード
――ひと目にずんずん、ほら、見えてくる――
スペードの嬢ちゃま、ダイヤのジャックに、
どうやらないしょの打ち明け話で、
見ているこっちが酔うようなありさま。
そちらはたいしたお金持ちそうな――
よその国からお客が絶えない。
だが、つまらない――どうでもよいこと。
では、政治向。
お待ちなさいよ――新聞種だ――
のちほどゆっくり読んだらわかるさ。
ここでしゃべると、業務の妨害、
晩のごはんの楽しみなくなる。
そんならお芝居――初演の新作。
おこのみ流行。
いけない、これは――支配人と喧嘩だ。
そこで自分の身の上のこと、
誰しもこれが、いちばん気になる。
それは見えます――だがまあ言えない、
いずれそのときにゃ、自然とわかる。
ここにはいるひと、誰がいちばん幸せものか。
いちばん幸せもの。
そりゃあ、まあ、わかります。
さようさ、それは――いや、まあ、ご遠慮申し上げましょう。
こりゃあ、がっかりなさる方が多かろう。
では、どなたがいちばん長生きなさるか、
こちらの殿方か、あちらの奥さまか、
いや、こんなこと申さば、なおさらご迷惑。
すると、これか――いや、だめだ――あれか――だめだな、
さあ、あれもと――どうしていいか、さっぱりわからん。
なにしろ、どなたかのご機嫌にさわります。
いっそ、皆さまのお心の中、
それならメガネも見通しだ。
皆さん、考えていますね。
いや、なにか望んでおいでかな。
くだらなすぎるというように。
きさま、あんまりばかばかしいぞ、
くだらぬおしゃべりもうやめろ、
それが一致のご意見ならば
はいはいやめます、黙ります。

この詩の朗読はなかなかりっぱな出来で、演者は面目をほどこしました。
見物の中には、例の病院の志願助手が、昨晩の大事件はけろりと忘れたような顔をして混じっていました。
誰も取りに来るものがないので、「うわおいぐつ」は相変わらず履いたままでした。
それになにしろ往来は道がひどいので、これはとんだ重宝でした。
この詩を助手はおもしろいと思いました。
何よりもその思いつきが心を引きました。
そういうメガネがあったらさぞいいだろう。
上手に使うと、そのメガネで、人の心の中を見通すことができるわけだ。これは来年のことを今見るよりも、ずっとおもしろいことだと考えました。
なぜなら、先のことはその時になれば分かりますが、人の心なんて滅多に分かるものではないのです。

「そこで、おれはまず一番前の紳士や貴婦人諸君の列を眺めることにする。
――いきなり、あの人たちの胸のなかに飛び込んだらどうだろう。
まあ窓だな、店を広げたようにいろいろな物が並んでいるだろう。
どんなにおれの目は、その店のなかをきょろきょろすることだろう。
きっと、あそこの奥さんのところは大きな小間物屋に入ったようだろう。
こちらのほうはきっと店がからっぽだろう。
だいぶ掃除が行き届いていないな。
だがたしかな品物を売る店だってありそうなものだ。
やれやれ。」

と、助手はため息をつきながら、また考え続けました。

「なんでもたしかな品ばかり売るという店があるのだが、そこにはあいにくもう店番がいる。
それが傷さ。
こちらの店もあちらの店も『だんな、どうぞお入りください』と言いたそうだ。
そこで可愛らしい『考え』の精のようなものになって、あの人たちの胸のなかを覗き回って見てやりたい。」

ほら、うわおいぐつにはもうこれだけで通じました。
たちまち助手はからだがちぢくれ上がって、一番前側の見物の心から心へ、実に不思議な旅行をはじめることになりました。

まっさきに入っていったのは、ある奥さまの心で、整形外科の手術室に入り込んだように思いました。
これはお医者さまが、かたわな人の余分な肉を切りとって、からだの格好をよくしてくれる所をいうのです。
その部屋には、かたわな手足のギプス型が壁に立てかけてありました。

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