怪人がそこからにげだすのを、ふせぐためです。
玄関の戸は、なんなくひらきました。
家の中はまっくらで、ガランとしていて、まるであきやのようです。
みんなはスイッチをおして電燈をつけながら、へやからへやと、しらべてまわりました。
しかし、どこにも人かげはありません。
ひとつだけ、みょうなへやがありました。
どのへやもあきやのように、からっぽなのに、そのへやだけは、いっぱいものがおいてあるのです。
「や、これはどうだ。
よくもこんなにあつめたな」
中村警部が、びっくりしたような声をたてました。
それは人形のへやでした。
洋服屋のショー・ウィンドーにあるような、男や女や子どものマネキンが、おもいおもいの衣しょうをつけて、二十個ぐらいも立ちならんでいるのです。
人形怪人といわれるだけあって、人形をあつめるのが道楽なのかもしれません。
一方には、ガラスばりの陳列だなのようなものが、おいてあって、その中に、いろいろな宝石や金銀のかざりものが、ピカピカと光っています。
人形怪人が、ぬすみためたものでしょう。「あっ、あの人形、うごきましたよ」
小林君が、一番にそれに気づいて声をあげました。
すそのひろがったドレスをきた、かわいい少女人形が、かっこいいスーツをきた紳士人形につかまえられて、もがいています。
たしかに動いているのです。
「ははははははは、人形に化けるとは、いい隠れ場所だったね。
しかし、もうおしまいだよ。
そのお面をとって、こっちに出てきなさい。
きみがつかまえているのは、野村みち子ちゃんだね?」
明智探偵がわらいながら言うと、紳士人形はあきらめたように、顔につけていたお面をとって、こちらへ歩み出てきました。
「しかたねえな。
こいつが逃げ出そうとするもんで、つい動いちまったよ。
おい、おめえもお面をとるんだ」
すると、人形のすきまから、もうひとり、モーニング姿の男がお面をとって、おずおずと出てきました。
人形に化けていたのはこのふたりの男と少女だけで、あとは本物の人形でした。中村警部がひとつひとつさわってまわって、たしかめたのです。
「きみは、野村みち子ちゃんだね?」
明智探偵が少女の手をとってたずねると、少女はうなずいてみせました。
「この人たちは、きみのお父さんをおどかしていたんだよ。
わたしはお父さんからそうだんを受けていたから、よく知っているんだ。
だから、きみを助けに来たんだよ」
こうして、野村みち子ちゃんは無事に助け出されました。
また、怪人が盗みためていた宝石なども、とりかえすことができたのです。
「きみたちふたりのうち、デパートで宝石を盗んだのはどちらだね?」
明智探偵がふたりの男をにらみつけてたずねると、スーツの男がくやしそうに答えました。
「おれたちは何も知らねえよ。
ただの雇われ人にすぎねえんだ。
親分はとっくに逃げちまったよ。
おまえさんたちにつかまるわけがねえさ」
うそをついているようには見えません。
ふたりともそんなに頭がよさそうな顔をしていないので、これがあのすばしっこい怪盗だとはとても思えないのです。
しかし、もし逃げたのだとしたら、見張りの警官につかまるはずです。
まだそんな知らせがこないところを見ると、どこか家の中に隠れているのではないでしょうか。
かすかな足音
地下室の水の中では、井上君とポケット小僧が、もう一時間も泳ぎつづけていました。
泳ぐといっても、ふつうにスイスイ泳ぐわけではなく、両手でコンクリートの壁につかまって体を浮かせていればいいのですが、じっとしていると沈んでしまうので、ときどき足を動かさなければなりません。
水の冷たさで体がしびれきって、今にも気を失いそうでした。
「おやっ……井上さん、聞こえるかい?」
とつぜん、ポケット小僧が元気づいた声で言いました。
「なにが?」
「ほら、足音だよ。
上のほうをだれか歩いているよ。
ひとりじゃない、大勢の足音だ」
「あっ、本当だ!
少年探偵団のバッジの電波がとどいて、ぼくたちを助けに来てくれたんじゃないかな?」
「うん、きっとそうだ!」
まっくらな水の中のふたりはうれしそうに言葉をかわしましたが、やがて足音はだんだん遠ざかっていって、また元のシーンとした静けさにもどってしまいました。
「おーい、ぼくたちここにいるよ!
助けてくれーっ……!」
ポケット小僧が、死に物狂いの声をはりあげました。
しかし、みんなは遠くへ行ってしまったらしく、何の反応もありません。
地底の声
明智探偵と小林少年と中村警部、そして大勢のおまわりさんたちの活躍によって、怪人の家に閉じ込められていた野村みち子ちゃんは無事に救い出されました。
これで、もう怪人がみち子ちゃんのお父さんをおどかして宝石を手に入れることはできなくなったわけです。
怪人の家の一室には、盗みためられた宝石や金銀の美術品がたくさん置いてありました。
これもすっかり取りもどしたので、すぐに元の持ち主にかえすことができます。
ところが、肝心の怪人がどこへ隠れたのか、まだ見つかっていません。
手下はふたりつかまりましたが、怪人の隠れ場所はこのふたりも知らないと言うのです。
それに、井上君とポケット小僧をまだ助け出さなければなりません。
この少年たちがどこに閉じ込められているのかも、まだまったくわからないのです。
そこで、再び家さがしがはじまりました。
いくつものチームに分かれて、あちこちの部屋をさがしまわるのです。
明智探偵と小林少年と3人のおまわりさんが懐中電灯を手にして、1階の部屋から部屋へと調べていました。
「あっ、なんだか、かすかな声がしましたよ!」
小林少年がすばやくそれを聞きつけて、明智探偵の顔を見上げました。
たしかに、下から声が聞こえてくるのです。かすかに、かすかに、
「助けてくれえ……、ぼくら、ここにいるんだよう……」
小林君は、なにを思ったのか、いきなり床に身をふせて、床板に耳をつけました。
その声は床の下からくるように感じられたからです。
「ぼく井上だよう……」
「ぼくポケット小僧だよう……」
「水の中にいるんだよう。
死んじまうよう……」
ほそい声が、はっきりと聞こえました。
「先生、井上君と、ポケット小僧です。
水ぜめにあっているらしいのです」
しかし、そこへ行く道がわかりません。
「この床板を破りましょうか」警官のひとりが、どなりました。
「いや、待ってください。
破るのには時間がかかる。
もっといい方法があるかもしれません」
そのへやのまん中に、大きな机と、りっぱないすが置いてありました。
そのほかには、なんの道具もないのです。
小林君は、いきなり、懐中電燈を持って、その大机の下へ、もぐりこみました。
いままでの、たびたびのけいけんで、床のおとし穴を開くボタンが、机の板の下がわに、ついているかもしれないと思ったからです。
「あっ、あったぞっ……」
机の色と同じで、ちょっと見たのではわからないような、小さなポッチが見つかったのです。
小林君はグッとそれを押しました。
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