初級翻訳・怪人二十面相 第4話

怪人二十面相

三分、二分、一分と、その時がジリジリと迫ってきます。二十面相はもう塀を乗り越えたかもしれません。今ごろは廊下を歩いているかもしれません……。いや、もうドアの外に来て、じっと耳を澄ましているのかもしれません。ああ、今にも、今にも恐ろしい音を立てて、ドアが破壊されるのではないでしょうか。「お父さん、どうかなさったのですか?」

「いや、いや、なんでもない。わしは二十面相なんかに負けやしない」

そうは言うものの、壮太郎氏はもう真っ青になって、両手で額を押さえていました。
三十秒、二十秒、十秒と、二人の心臓の鼓動を合わせるように、息が詰まるような恐ろしい時間が過ぎ去っていきました。

「おい、時間は?」
壮太郎氏が、うめくような声で尋ねます。

「十二時一分すぎです」

「なに、一分すぎた?……アハハハ……、どうだ壮一、二十面相の予告状もあてにならんじゃないか。宝石はここにちゃんとあるぞ。なんの異常もないぞ」

壮太郎氏は、勝ち誇った気持ちで大声で笑いました。しかし壮一君はニッコリともしません。

「ぼくは信じられません。宝石には、本当に異常がないでしょうか。二十面相は約束を破るような男でしょうか」

「なにを言っているんだ。宝石は目の前にあるじゃないか」

「でも、それは箱です」

「するとお前は、箱だけがあって、中身のダイヤモンドがどうにかなったとでもいうのか」

「確かめてみたいのです。確かめるまでは安心できません」

壮太郎氏は思わず立ち上がって、赤銅の小箱を両手で押さえつけました。壮一君も立ち上がりました。二人の目が、ほとんど一分ものあいだ、何か異様な様子でにらみ合ったまま動きませんでした。

「じゃあ、開けてみよう。そんな馬鹿なことがあるはずはない」

パチンと小箱の蓋が開かれました。と同時に、壮太郎氏の口から「アッ」という叫び声がほとばしりました。
ないのです。黒いビロードの台座の上は、まったく空っぽなのです。由緒正しい二百万円のダイヤモンドは、まるで蒸発でもしたかのように消え失せていたのでした。

魔法使い。

しばらくの間、二人とも黙り込んで、青ざめた顔を見合わせるばかりでしたが、やっと壮太郎氏は、ひどく忌々しそうに「不思議だ」とつぶやきました。

「不思議ですね」

壮一君も、オウム返しに同じことをつぶやきました。しかし妙なことに、壮一君は一向に驚いたり、心配したりしている様子がありません。唇の端に、なんだか薄笑いの影さえ見えます。

「戸締まりに異常はないし、それに誰かが入ってくれば、このわしの目に映らぬはずはない。まさか、賊は幽霊のようにドアの鍵穴から出入りしたわけではあるまいからね」

「そうですとも。いくら二十面相でも、幽霊に化けることはできますまい」

「すると、この部屋にいて、ダイヤモンドに手を触れることができたのは、わしとお前のほかにはいないのだ」

壮太郎氏は、何か疑わしげな表情でじっと我が子の顔を見つめました。

「そうです。あなたかぼくのほかにはありません」

壮一君の薄笑いがだんだんとはっきりして、ニコニコと笑い始めました。

「おい壮一、お前何を笑っているのだ。何がおかしいのだ」

壮太郎氏はハッとしたように顔色を変えて怒鳴りました。

「ぼくは賊の手並みに感心しているのですよ。彼はやっぱり偉いですねえ。ちゃんと約束を守ったじゃありませんか。十重二十重の警戒を、もののみごとに突破したじゃありませんか」

「こら、よさんか。お前はまた賊を褒め上げている。つまり、賊に出し抜かれたわしの顔がおかしいとでもいうのか」

「そうですよ。あなたがそうしてうろたえている様子が、実に愉快なんですよ」

ああ、これが子たるものが父に対して言う言葉でしょうか。壮太郎氏は怒るよりも、あっけにとられてしまいました。そして今、目の前でニヤニヤ笑っている青年が、自分の息子ではなく、何かしら得体の知れない人間に見えてきました。

「壮一、そこを動くんじゃないぞ」

壮太郎氏は怖い顔をして息子をにらみつけながら、呼び鈴を押すために部屋の一方の壁に近づこうとしました。

「羽柴さん、あなたこそ動いてはいけませんね」

驚いたことには、子が父を「羽柴さん」と呼びました。そしてポケットから小型のピストルを取り出すと、その手を低く脇に当てて、じっとお父さんに狙いを定めたではありませんか。顔はやっぱりニヤニヤと笑っているのです。
壮太郎氏はピストルを見ると、立ちすくんだまま動けなくなりました。

「人を呼んではいけません。声をお立てになれば、ぼくは構わず引き金を引きますよ」

「貴様はいったい何者だ。もしや……」

「ハハハ……、やっとお分かりになったようですね。ご安心なさい。ぼくはあなたの息子の壮一君じゃありません」お察しのとおり、あなた方が二十面相と呼んでいる盗賊です。」

壮太郎氏は、まるでお化けでも見るような目つきで、相手の顔をじっと見つめました。どうしても解けない謎があったからです。では、あのボルネオ島からの手紙は、いったい誰が書いたのか。あの写真は誰の写真なのか。

「ハハハ……、二十面相とは童話の中の魔法使いのようなもの。誰にもできないことを、実際にやってのけるのです。羽柴さん、ダイヤモンドを頂戴したお礼に、その種明かしをしましょうか。」

怪青年は、自分の身の危険などまるで気にしていない様子で、落ち着き払って説明を始めました。

「ぼくは、壮一君が行方不明になっていることを突き止めました。同君が家出する以前の写真も手に入れました。そして、十年の歳月が流れたら、壮一君はどんな顔に変わるだろうかと想像をめぐらせ、まあ、こんな顔を作り上げたというわけです。」

彼はそう言うと、自分の頬をペタペタと叩いてみせました。

「ですから、あの写真は、ほかでもない、このぼくの写真なのですよ。手紙もぼくが書きました。そして、ボルネオ島にいるぼくの友だちにその手紙と写真を送り、そこからあなた宛てに郵送させたわけです。お気の毒ですが、壮一君はいまだに行方不明です。ボルネオ島になんていやしません。あれはすっかり、最初から最後まで、この二十面相が仕組んだお芝居ですよ。」

羽柴一家の人々は、お父様もお母様も、懐かしい長男が帰ってきたという喜びにのぼせ上がっており、そこにこれほど恐ろしいカラクリがあろうとは、夢にも思っていなかったのでした。

「ぼくは忍術使いですからね。」

二十面相は、さも得意げに続けました。

「わかりますか? ほら、さっきのピンポンの玉です。あれが忍術のタネなんです。あれはぼくがポケットからじゅうたんの上に放り出したのですよ。あなたは、ほんの一瞬、その玉に気を取られてしまった。机の下を覗き込んだりもしましたね。その隙に宝石箱の中からダイヤモンドを取り出すのは、なんの造作もないことでした。ハハハ……、では、さようなら。」

賊はピストルを構えたまま後ろへ下がり、左手で鍵穴に刺さったままになっていた鍵を回すと、サッとドアを開けて廊下へと飛び出しました。廊下には庭に面した窓があります。

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