初級翻訳・怪塔王 第6話

怪塔王

「なんだな、貴様たちは一度この塔に入れば、もう二度と外へは出られないということを知らないのだな。わっはっはっ!」
一彦はこれを聞くと、もう我慢できなくなって帆村の腰にしがみつきました。
帆村は危険だと判断し、ピストルを構え直すと、寝床の上に伸ばしている怪塔王の足を狙って、引き金をエイッと引きました。

5

怪塔王を狙って帆村が引き金を引くと、轟然と一発、弾丸が怪塔王の足をブツリと撃ち抜いた――かと思いきや、予想に反して怪塔王は煙の中から顔を出し、ニヤニヤと笑っています。
「おや、これはうまくいかないな」
続いてまた一発!
しかし怪塔王は、ニヤニヤと笑っているだけです。
三発目を帆村が撃とうとすると、怪塔王は手を上げて止めました。
「これ、無駄に弾を使うなよ」
「なんだと!」
「何でもないよ。ほら見るがいい、貴様が撃ったピストルの弾は、こんなところに宙ぶらりんになっているじゃないか」
そう言って怪塔王は、寝床の上から長い指を帆村の方へ向けました。
最初は帆村も何のことかさっぱり分かりませんでしたが、よくよく怪塔王の指さした場所を見ると、なるほど奇怪なことに、二発の弾丸が確かに宙ぶらりんになっています。
それはちょうど、帆村と怪塔王が向き合っている真ん中のあたりでした。
二発の弾丸は下にも落ちず、お行儀よく頭を揃えて向こうを向いているではありませんか。
「おじさん、怪塔王は魔法を使っているんだよ」
一彦が早口で帆村にささやきました。
「あっはっはっ、そのチンピラ小僧は魔術と言ったな。魔術なんて下品なものではない。これこそ、わしの得意とする『磁力術』じゃ」
磁力術? 磁力術とは一体、何のことなのでしょうか。鉄を吸いつける磁石の力のことらしいのですが、そんなに強力な磁石なんてあるのでしょうか。
「ほら見なさい。貴様が撃った弾丸は、わしが作り出している目に見えない磁力の壁を通り抜けることはできないのだよ。さあどうだ、降参するか?」

6

あまりにも不思議な怪塔王の力に、帆村も一彦も、ぼんやりと立ち尽くしてしまいました。
ピストルを撃っても、弾丸が途中で壁の中に埋まったかのように止まってしまうのですから、ピストルなんて何の役にも立ちません。
軍艦「淡路」を引き寄せたというのも、これと同じ力を使ったのだと怪塔王は秘密を漏らしましたが、なんという恐ろしい力を持っていたものでしょう。
また、ここはなんという気味の悪い塔でありましょう。
といって、帆村も一彦も、ここで怪塔王に降参するつもりは毛頭ありません。
そんな弱気な考えは少しも持っておらず、力のあらん限り、どこまでもこの怪人をやっつけなければならないと、かたく決心をしていました。
「ははあ、二人とも難しい顔をしているじゃないか。まだ何か、わしに手向かう方法はないかと考えているのだな。あっはっはっ、そうはいかないよ。今度は、わしがお前たちを片づける順番だ。覚悟をするがいい」
と言うと、怪塔王は寝台から降りようとして、後ろを向きました。
(今だ!)
帆村探偵は、大胆にも怪塔王が背を向けた隙を見逃さず、後ろから「やっ!」と掛け声をかけて飛びかかりました。
「な、何をする!」
怪塔王はせせら笑いました。そして後ろを向いたまま片手を伸ばすと、帆村をドシンと突き飛ばしました。
「あっ――」
怪塔王の力のおそろしさといったら、まるで自動車に跳ね飛ばされたような衝撃でした。さすがの帆村も、ゴロゴロと転がって後ろの壁に激しくぶつかりました。
するとそれが合図でもあったかのように、ガチャリと大きな音がして、天井から何か黒くて大きなものがドッと落ちてきました。
帆村は一彦の名を呼びました。そして二人は抱きついたまま、思わず首をすくめました。

鉄の檻

1

天井から落ちてきた黒くて大きなものは、一体なんであったでしょうか。怪塔の正体がいよいよ現れて、怪また怪の展開です。
「あっ、これは鉄の檻だ!」
帆村は身の回りを見回して、びっくりしました。天井から落ちてきたのは、間違いなく鉄の檻でした。
それは天井から床まで届く鉄の棒が、直径五メートルほどの円形に並んでいる鉄の檻でありました。こうなると、出ようとしても出られません。鉄の檻をもう一度天井に引き上げてもらわない限り、この檻から外に出ることはできないように思われます。
ピストルを撃ってももう怪塔王には届かないし、その上、思いがけない鉄の檻に取り囲まれたのですから、帆村も一彦も手も足も出ません。
「一彦君、ここへ入るのには、もっとよく調べてからにすればよかったね。これでは、僕たちは怪塔王につかまるためにわざわざやってきたようなものだ」
と言うと、一彦少年は思いのほか元気な顔を上げて言いました。
「おじさん、だめだなあ。こんなことになってからいくら弱音をはいても、なんにもならないじゃないか。それよりは元気を出して考えるんだよ。一生懸命になって考えると、またすてきなことが見つかるよ」
「よく言った、一彦君。おじさんが弱音をはいたのは悪かった。さあ元気を出して、怪塔王と戦うぞ!」
すると近くでクスクス笑う声がしました。ハッと目を上げてみると、それは怪塔王が檻の中を覗き込みながら、心地よげに笑っているのでありました。
「あっはっはっ、何を言っている。お前たちはもう、この塔から出られないのだ。あきらめるがよい」

2

「何と言おうと、この塔から立派に出ていってみせるぞ!」
帆村探偵は、鉄の檻の中から怪塔王をじっと睨みつけました。
「ほう、それは勇ましいことだ。じゃあ、まあよく考えてみるがいいさ。これからお前たちを、考えるのにはもってこいという場所へ送ってやろう」
考えるのにはもってこいの場所? それは一体どんなところなのでしょうか。
怪塔王はニヤリと笑うと、また寝台のところへ歩いていって、後ろを向きました。
「あっ、わかった。あそこに秘密のボタンがあるんだ!」
と一彦が叫びました。
「秘密のボタン――そうかもしれない」
と、帆村は檻につかまって、怪塔王の背中をジロジロと見つめています。
秘密のボタンを押したから、この檻が天井から降りてきたのでしょう。発射されたピストルの弾丸が空中で止まるのも、その秘密のボタンを押したためでしょうか。
さて今度、怪塔王はどんなボタンを押すつもりなのでしょうか。「あっはっはっ」
と、寝台にとりついている怪塔王が、二人の方をむいて笑いました。
「なにを――」
と、帆村と一彦とが、睨みかえしました。
そのとき、二人の立っている床がごくんと揺れたかと思うと、ああら不思議、そのまますうっと下にさがりはじめました。
まるでエレベーターで下りるような工合です。
「あっ、僕たちをどうするのだ」
と叫んだが、もうどうにもなりません。
二人の立っている床は、どんどん下って、やがて十四五メートル下のまっくらな部屋へおりていって、止りました。
どうやら、三階から一階へおりたらしいのです。
「あっ、止った」
「まっくらで、なにも見えない」
「手提電灯をつけてみよう」
帆村は、ポケットから手提電灯を出すと、かちりとスイッチをひねりました。

3

手提電灯は、ぱっと真暗の一階をてらしました。

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