初級翻訳・怪塔王 第13話

怪塔王

今度は符号も読み取れそうです!」
「それはすばらしい!しっかり無線を受け取れ!」
さて、怪塔からの無線は、一体どんな内容を伝えているのでしょうか。塩田大尉は胸をワクワクさせながら、小浜兵曹長の報告を待っていました。

2

機上で、再び聞こえ始めた怪電波をじっと聞き入るのは、小浜兵曹長でした。
ト、ト、ト、ツー、ト。
ト、ト、ト、ツー、ト。
「ふむ、わかるぞ、わかるぞ」
兵曹長は片手で受話器を耳にしっかりと押し当て、一文字も聞き逃すまいと待ち構えていました。
すると、ついに怪電波がメッセージを綴り始めました。
さあ、何を言ってくるのでしょうか?
「――カイトウオウトワボクセヨ、ホムラ」
電文は、「怪塔王と和睦せよ、帆村」というものでした。
小浜兵曹長は、まったく予想外の内容に驚きましたが、すぐさま塩田大尉のもとへ報告しました。
驚いたのは塩田大尉です。
「なんだと?怪塔王と和睦せよだと?……帆村荘六は気が変になったのか?それとも、これは怪塔王による偽の電文かもしれない」
帝国海軍の誇る最大主力艦である軍艦『淡路』を、めちゃくちゃに破壊した乱暴者の怪塔王を、どうして許すことができましょう。
その怪塔王と仲直りしろという帆村探偵の電文は、どう考えても納得がいきません。帆村探偵はついに怪塔王の捕虜となってしまい、無理やりこんな電文を打たされているのではないでしょうか。
「おい、小浜兵曹長。今の無線は、この前軍艦『淡路』で聞いたのと同じ無線機から送られてきたのだろうか?」
「はい、同じものだと思います。音は大きくなりましたが、向こうの機械はよほど怪しい機械と見えて、音が酔っ払いのようにフラフラと揺れて聞こえます」
「ふん、まるで上陸した夜の、貴様の足取りみたいだな」
塩田大尉は驚きの中にも勇士らしい落ち着きを見せてからかうと、
「いや、どうも……」
と、兵曹長は頭をかきました。

3

機上の塩田大尉は腕組みをして、「怪塔王と和睦しろ」という無線を一体誰が出したのかと思案していました。
「すると、やはりこれは帆村探偵が出している無線に違いない。もし怪塔王が、塔に備え付けの無線機を使って電文を打ってくるのなら、こんな貧弱でフラフラした無線にはならないはずだ」
帆村探偵が怪塔王に降参したとしか思えませんでした。
その時、平磯基地を飛び立った爆撃機隊から連絡無線が入ってきました。
「本隊は、高度三千メートルを維持し、鹿島灘の上空で待機中。貴官の命令があり次第、ただちに爆撃行動に移る用意あり。隊長・松風大尉」
爆撃機隊は海上三千メートルのところを旋回しており、塩田大尉が命令を下しさえすれば、すぐにどこへでも爆撃するという連絡です。
いよいよ恐ろしい空からの爆撃戦の準備が整いました。
それでは、どこを爆撃すればよいのでしょうか。
怪塔のある場所を、一刻も早く見つけ出さなければなりません。塩田大尉は水戸の上空にかかったとき、全隊にそれぞれ偵察コースを知らせ、これからばらばらにちらばって、地上にかくれている怪塔をさがすことになりました。
さあ、手柄をあらわすのは、どの偵察機でありましょうか。
午後四時十分!
待ちに待った「怪塔が見えた!」の電文が一機から発せられました。
それっというので、塩田大尉ののっている機も、その方へ急いで向かっていきました。
小浜兵曹長は、「怪塔が見えた!」のしらせをうけると、自分が見つけそこなったのをたいへん残念に思いました。
この上はというので、望遠鏡を地上に向けて、怪塔のすがたを早く見ようと一生懸命です。
それは勿来関(なこそせき)よりすこし西にいき、山口炭坑と茨城炭坑の間ぐらいの山中に、なんだか五十銭銀貨を一枚落したような、まるいものが見えました。

4

「あっ、あれだ」
「そうだ、怪塔が見える」
偵察機上の塩田大尉も小浜兵曹長も、思わず席からからだをのりだしました。
「爆撃機隊へ連絡!」
大尉が叫んだので、通信員はすぐさま無電装置のスイッチを入れ爆撃機隊の司令をよびだしました。
「はい、爆撃機司令です」
塩田大尉は、マイクを手にとって、眼下に見える怪塔のありさまを知らせました。
そしてすぐさま爆撃をするように頼んだのでありました。
「承知しました。すぐ全機で急行いたします」
「頼みましたよ」
それからものの十分とたたないうちに、東の空から爆撃機隊の翼がみえてまいりました。
両隊の無電は、しきりに連絡をはじめました。
そのうちに打合わせは、すっかりすみました。
爆撃機体は二隊にわかれ、いずれも四千メートルの高度をとり、怪塔の上にしずかにすすんでいきます。
塩田大尉も、小浜兵曹長も、偵察機の上からかたずをのんで、その行動を見守っています。
そのうちに先にとんでいる爆撃機隊の編隊長機がまず機首をぐっと下げました。
あとの僚機もそれにならって、順番に機首を下にしました。
急降下爆撃です。
機体の胴中から、まっくろいものが五つ六つ、ぱっと放りだされました。
爆弾です。
爆弾は仲よく一しょにかたまって、ぐんぐん下におちていきます。
第二番機の爆弾群が、またあとをおいかけて、ぐんぐん地上の怪塔に追っていきます。
さあどうなるのでしょう。
あと数秒で、いよいよ土をふきとばし、黒煙が天にまきあがる大爆発がおこる――と思っていましたが、ところが実際は、そうなりませんでした。
まことに不思議、いつまでも爆発がおこりません。

5

怪塔の中には、「怪塔王と和睦せよ」という無電をうった帆村荘六もいるはずですし、一彦少年も一しょのはずです。
それにもかかわらず爆弾を怪塔の上に落すのは、まことに気のすすまないことでしたが、帝国海軍に仇をなす怪塔は、たとえ一日でも、一時間でもそのままにしておけませんから、それゆえ塩田大尉は、涙をふるって爆撃隊に爆弾を落すよう命じたのでありました。
その爆弾が、下にぐんぐんおちていったきりで、そのまま音沙汰なしになってしまったものですから、爆撃員はすっかり面くらってしまいました。
「爆弾を投下したが、爆発しない!」
と、妙な電文が、塩田大尉のところにとどきました。
「爆弾を投下したが、爆発しない――というのか。そんなばかなことがあってたまるか。なあ小浜兵曹長」
「はあ、わからんでありますな。爆弾が昼寝をしているわけでもありますまい」
爆撃機六機の落した爆弾は、ことごとく不発におわりました。
一体どうしたというのでしょう。
塩田大尉は、偵察機を急降下させて、地上の様子をさぐろうと決心いたしました。
「急降下、高度百メートル附近! 南北の方向に怪塔を偵察」
そういう命令を出しますと、偵察機はただちに、獲物をめがけてとびおりる鷹のように地上めがけてまいおりていきました。
塩田大尉は、双眼鏡をとってしきりに、怪塔のあたりを見ています。
そのとき大尉は、小首をかしげ、
「ああっ、あれはなんだろう。おい、小浜あそこを見ろ」
「どこです。塔の上ですか」
二人の双眼鏡の底には、一体どんな不思議な光景がうつったでありましょうか。

6

低空におりた偵察機上にあって、塩田大尉と小浜兵曹長の見たものは、怪塔がへんな傘をきていることでありました。

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