首領(リーダー)が立ち上がって説明した今日の会議のテーマは、アジア製鉄所で空前絶後の大ストライキ(盟休)が起きようとしていること、さらにそのストライキには政治的な意味合いがたっぷりと含まれており、所長が大事に保管している某大国との秘密の契約書などを、今夜の深夜十二時ぴったりを狙って別の場所へこっそり移し替える必要があること、そしてそのために全会員がそれぞれの任務に就いてほしい、という内容でした。
団員たちは、それに対してただ「はい(諾)」か「いいえ(否)」のどちらかを示すだけでよかったのです。
首領以外の人は、会議中にお口チャックで一言もしゃべることを許されないという厳しいルールがありました。これはおそらく、それぞれの団員の正体が絶対にまわりにバレないようにするため、そして団員たちが普段はふつうの生活を送っていても、まわりの人から「あいつは海龍倶楽部のメンバーだ」と絶対に気づかれずにすむようにという、ものすごく徹底された決まりからきているのでした。
団員たちは、今回の会議で話し合われた内容のすべてに賛成しました。
首領はとっても大喜びしましたが、そのあとも引き続いて、メンバーの配置や作戦の詳しいやり方について、事細かな説明をずっと話し続けました。
そのときです。
突然、首領の目の前に置かれていた電話機が、けたたましくジリリリリと鳴り響きはじめました。
首領はサッと手を伸ばして受話器をガチャンと取り上げました。
電話の向こうから聞こえてきた内容は、首領をひっくり返るほど驚かせるには十分すぎるものだったらしく、彼は右手で机をグッと押さえつけ、崩れ落ちそうになる自分の体を必死に支えている様子でした。
電話がようやく終わると、首領は急にものすごくおそろしい顔つきに変わり、団員たちの顔を一人ひとり見渡してから、やがて静かに口を開きました。
「みなさん、今夜みんなで決めた計画は、すべてダメになってしまいました」
首領の英語は、いつもとは違ってまったく朗らかさを失っていました。
「アジア製鉄所では、すでに激しい暴動が起きてしまったのです。
製鉄所の建物は、今まさに燃えさかる猛火につつまれています――!」キューポラは大爆発を起こし、ものすごい熱のドロドロに溶けた鉄が、周囲の五百メートルもの四方にものすごい勢いで飛び散ったというのです。
この大暴動の群れの中に、ものすごく不気味で奇妙な人造人間たちがたくさん混じっていて、どの人造人間も自分の命を惜しまず、まるで決死隊のように建物の破壊をがむしゃらに続けていたということです。
「それでは、ここから大切なお知らせと命令です。
失礼ですがみなさん、両手をまっすぐ上に上げていただきたい。
もし手を上げてくださらないなら、この私が容赦なく銃弾をプレゼントすることになりますよ!」
その場にいた全員は、あまりの不意打ちにびっくり仰天したものの、すぐに両手をピンと上に挙げることをためらいませんでした。
なぜなら、首領の恐ろしいほど正確な射撃の腕前を、みんなはこの部屋の中で何度も目撃したことがあったからなのです。
「さて、みなさんにもう一つの大事なニュースをお知らせしましょう。
それは、わたしたちの副首領である『緑十八(みどりじゅうはち)』が、どこにも見当たらず行方不明になったということです。
緑十八は、さっきからあたりを見まわしてみても、この会議の席にはどうやら姿を見せていないようです。
しかしですね、ここにはとても不思議なことがあるのです。
この会議室にこうして集まって出席している人間の数は、いつもの人数と同じぴったりの十三人なのです。
ということは、この部屋には、本来のメンバーとは違う『一人の珍客』がこっそりお席にいらっしゃっているということになります。
みなさん、今すぐその黒い覆面をとってください。
その代わり、いまこの場にいる現在の倶楽部メンバーは、今この瞬間をもちまして全員クビ(解任)になったものと考えてもらいたい!」
僕は少しも迷うことなく、自分の覆面を力任せに引っぺがしました。
それと同時に、部屋のアッチコッチでも次々と覆面が脱ぎ捨てられ、そのたびに、誰もが予想していなかった意外な顔が次々とあらわれるのでした。
しかし、ただ一人だけ、どうしても覆面をとろうとしない団員がいました。
「あなたはどうして覆面をとらないのですか?」
その最後の一人は、両手を頭の上でぶんぶんと大きく振って、まるで助けてほしいと哀れっぽくお願いしているようでしたが、隣にいた男が素早くスルスルと歩み寄ると、手際よく覆面の布を力任せに剥ぎ取りました。
「キャッ、人造人間だ!」
その場にいた全員が、一斉にびっくりした声を上げました。
ピューンとサイレンサーのついた消音拳銃の音が鋭く鳴り響くと、狙いを少しも外すことなく、銃弾は人造人間の目の穴へとまっすぐ飛び込みました。
全身を真っ黒な衣装に包んだ人造人間が、ドタリと重い音を立てて床に倒れ込みました。
「人造人間が死んだぞ!」
誰かがそう叫びました。
本当に、一歩間違えば大ピンチの危ないところでした。
もし気づくのがあとほんの少しだけ遅かったら、この人造人間はこの部屋中に恐ろしい爆弾の花火を咲かせて、自分だけちゃっかり逃げ出してしまったに違いないと、誰もが心の中でゾッと思ったのでした。
「大変だ、血が垂れてきているぞ。
人造人間の血だ!」と、一人が裏返ったような大声で叫びました。
「人造人間の血だなんて、なんだかおかしいぞ」
「早くその中身を調べてみろ!」
みんなは人造人間をどうやって分解していいものかと戸惑いましたが、それは驚くほど簡単にとりはずすことができ、予想していた通り、鉄の外装がパカッと真っ二つに開きました。
その中には、歯車や電池などがギッシリと詰まっているかと思いきや、なんとびっくり、体には薄くて美しい絹のドレスをまとった若い女の人の遺体が入っていたのです。
そっと外に取り出してみると、それは紛れもなく劉夫人その人でした。
「ああ、緑十八……! われらの大切な副首領よ……!」
首領が自分自身の覆面を急いで脱ぎ捨て、夫人の冷たくなった遺体にすがりついてワンワンと泣き叫びました。
その正体は、これまでみんなが想像していた通り、あの×国の大使であるルディ・シューラー氏その人だったのです。
劉夫人の体は、まだほんのりと温かさが残っていました。
首領が改めて僕の姿を探し求めたときには、すでに僕は同志林田と一緒に、上海の夜空を高く飛ぶ飛行艇のなかに乗り込んでいたのでした。
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