初級翻訳・怪塔王 第27話

怪塔王

あたりはすっかり晴れ、視界広し」

と打てば、やがて本部からは返電があって、さらに報告をさいそくして来るのでありました。兵曹長はいそがしい。青江三空曹を励ましたり、怪塔ロケットを監視したり、それからまた本部へ無線電信をうったり。そのうちに、青江三空曹必死の追跡のかいがあり、とうとう機は怪塔ロケットと平行になりました。敵と味方の二機は横に並び、まっしぐらに空を飛んでいきます。
怪塔の窓の様子がよく見えます。
小浜兵曹長は望遠鏡を目に当てました。

5

小浜兵曹長と青江三空曹の乗った偵察機、たった一機が、猛烈な勢いで怪塔ロケットに追いすがっています。
怪塔ロケットと偵察機は、今まさに並んで高度一万メートルに近い高空を飛んでいます。
小浜兵曹長は、休むことなく怪塔ロケットの様子を見ては、本部へ向けてくわしい報告を無線電信で送っています。
「ただいま、怪塔の窓から怪塔王が顔を出した。
恐ろしい目つきでこちらをにらんでいる。
あっ、顔を引っ込めた」
小浜兵曹長の報告は、なかなか詳細なものです。
怪塔王が顔を引っ込めたのは、また何か偵察機の方へ危害を加えるつもりだろうと思われましたが、果たして間もなく、偵察機のエンジンの調子がおかしくなってきました。
「青江三空曹、なんだかエンジンが止まりそうじゃないか。
がんばり方が足りないぞ」
「そうじゃないんです。
がんばってはいるのですが、エンジンが言うことを聞いてくれません。
まだ参るには早い時間なのですが、変ですね」
「そうか、さては――」
小浜兵曹長はハッと気づいて、怪塔ロケットの方をにらみつけました。
間違いなく、あの怪塔ロケットから出ている例の怪力線が、こちらのエンジンの鼓動を止めようとしているらしいのです。
さっそく危険信号が、小浜兵曹長の手によって本隊へ向けて発せられました。
「怪塔ロケットが発する怪力線によって、エンジンが止まりそうだ。
これ以上の追跡は、あるいは難しいと思う」
すると本隊の方から、すぐさま返信が入りました。
「あと三十分、がんばれ。
こちらでも救援隊を手配しているところだ」
あと三十分がんばれ! エンジンのこの調子では、その三十分がうまく持つでしょうか。

奇計

1

あと三十分がんばれ!
怪塔ロケットを追う青江機の上で、偵察士の小浜兵曹長は歯ぎしりをしました。
青江三空曹の、人間業とは思えないがんばりにもかかわらず、エンジンの調子は重病人の目つきのように悪くなっていくのでした。
(怪塔ロケットにせっかく追いついたのに、このままでは、ぐんぐん遅れて引き離されてしまう)
どうにかして、あくまで怪塔ロケットに食らいついていたいものだと思った小浜兵曹長は、いろいろ頭をひねって計略を考えました。
そのとき、小浜兵曹長の頭にひらめいたことがありました。
それは、愛機に積んでいる長い綱のことでした。
これは救助作業のときに使うもので、どの軍艦も持っている丈夫な麻綱でした。
兵曹長は、その綱の一番端に鋼鉄で作った錨を結びつけました。
その錨は、スイカくらいの大きさの小型のものでした。
兵曹長はそれを作り上げると、青江三空曹に彼のすばらしい計画を打ち明けました。
青江三空曹は、まったく驚きました。
しかし、今のところこうした試みでもしない限り、怪塔ロケットのすぐ近くに三十分間もくっついていることは難しいので、結局、青江三空曹もこの計画に従うことにしました。
「じゃあ頼むよ。
この上は、貴様の操縦術に頼るほかないのだ。
しっかりやれ」
と小浜兵曹長が励まします。
「だ、大丈夫です。
私は、死んでもがんばるつもりなのです。
さあ、どうか錨をおろしてください」
青江三空曹はりっぱに引き受けました。
そこで小浜兵曹長は、錨を先につけた綱を、そろそろと機体の外へおろし始めました。

2

天空高く逃げのびようとする怪塔ロケットです!
逃がしてはなるものかと、青江機は猛追撃をしています。
偵察席にいる小浜兵曹長は、ありったけの知恵を絞って、錨のついた麻綱をまずおろしました。
麻綱は長く長く伸びていきます。
その先についている錨の重さで、麻綱はぶらんぶらんと揺れています。
そして錨はだんだんとはげしく振れていきます。
「おお、右旋回だ!」
小浜兵曹長が、伝声管の中に叫びますと、
「はい、右旋回!」
青江三空曹は舵を引きました。
すると飛行機は翼を傾けると見る間に、見事に右へぐるりと回っていきます。
怪塔ロケットの先へ回ったのです。
怪塔ロケットはまたスピードを落としました。
そしてやっとすれすれに、青江機の垂らしている麻綱のそばをすり抜けました。
「はっ、はっ、はっ、怪塔ロケットもそろそろ困ってきたようだ。
こうなると危なくて、スピードが出せないというのだろう。
無理もない、もともと怪塔ロケットは、舵が半分ほど利かなくなっているのだからな」
先に小浜兵曹長は、体当たり戦術によって怪塔ロケットの舵を半分ほど壊しておいたのでした。
それからというもの、この怪塔ロケットは、思うようにまっすぐ飛べなくなっていたのです。まっすぐ飛ぼうとすればぐるぐる回り、下りようとすればロケットの頭が上を向いてしまう。まるで酔っぱらいが自動車を運転しているのと同じ状態です。
これには怪塔王も、ひどく困り果てていました。
そこへ今、錨(いかり)をぶら下げた麻綱が、とんでもないタイミングで鼻先にぬっと現れるものですから、ロケットはますます飛びにくくなってきました。
スピードを落としておかないと、急に方向を変えることができないのです。

3

怪塔ロケットは、そろそろ目が回り出したように見えました。
しかし追撃中の小浜兵曹長は、まだまだそんなことで手をゆるめるつもりはありません。
「おい、青江。いよいよこのへんで、貴様の高等飛行の手並みを見せてもらうぜ!」
「はい、それを待っておりました。必ず敵を征服いたします!」
青江三空曹は、はりきった声で返事をしました。
「うん、その調子でしっかり頼むぞ。では、俺が命令するとおりに操縦をしてみてくれ」
「はい、承知しました!」
「では命令を発するぞ。――まず急上昇!」
「はい、急上昇!」
声の終わらないうちに、青江機は空中に垂直に立ちました。
エンジンは激しい爆音を立てます。機はぐんぐん上る!
「ああ、怪塔ロケットが右へ逃げ出したぞ。逃がしてなるものか。――宙がえり、急降下で右へ!」
青江機は空中に美しい輪を描いて、くるりと一転しました。
そして、そうするが早いか、たちまち機首を下に向け、のろ牛を襲う鷲のように、猛烈なスピードでさっと舞い降りるのでした。
「うまいうまい。立派な手並みだ、まるでおれの若いときのようだ。いや、おれの方がもうちょっと上手だったがね」
と、小浜兵曹長がいいました。
操縦中の青江三空曹は、ほめられたのか、それともからかわれたのか、どっちだろうかと目玉をくるくるさせます。
そのうちにも錨綱は、不思議な揺れ方をして、空中を大蛇のようにのたうちます。
驚いたのは怪塔王です。
危なくて、ロケットを飛ばしていられません。

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