初級翻訳・怪塔王 第28話

怪塔王

操縦をやっている三人の黒人を叱りつけ、「もっと左へ避けろ」だの、「もっと高く上がれ」だのと、体中汗びっしょりになって号令をかけています。
が、怪塔ロケットはだんだん空中で身動きがとれなくなってきました。

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怪塔ロケットが宙ぶらりんに進み出したと見て、小浜兵曹長は、
「おお、今だ!」
と叫びました。
なにが今だというのでしょうか。
そのとき小浜兵曹長は、青江三空曹に向かって風変わりな命令を発したのです。
「おい、青江、怪塔ロケットの周囲を連続宙がえりだ!」
連続宙がえりとは、たいへんな命令です。
しかも怪塔ロケットの周囲をぐるぐる回れというのですから、これはなかなか難しい。
このへんが、操縦士の腕の見せどころです。
「怪塔ロケットの周囲を連続宙がえり、始めます!」
と復唱するなり、青江三空曹は操縦桿をぐっと引きました。
すると、青江機はぐっと機首を上げるなり、空中に美しい大きな曲線を描いて、怪塔ロケットに迫りました。
怪塔ロケットは、わが偵察機ににらみすくめられたようになって、その銀色の巨体をぶるぶると震わせました。
青江三空曹は、ここぞとばかりに巧みな操縦ぶりを見せて、怪塔ロケットの周りを、上になり下になりとぐるぐると回るのでした。
錨のついた長い麻縄は、だんだん輪のように丸くなりました。
小浜兵曹長は、麻縄をありったけ伸ばしました。
錨はだんだん後れをとって、やがて偵察機の正面に来ました。
麻綱を伸ばすと、その錨はさらに偵察機に近づきました。
「青江三空曹、もっと小さく回れ。そして錨の先に、こっちの麻綱をひっかけろ!」
と小浜兵曹長は叫びました。
「えっ、錨にこっちの麻綱をひっかけるのですか?」
青江三空曹は、自分の耳を疑うように聞き返しました。

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青江機があとに引きずる錨付きの麻綱が、怪塔ロケットの周りを環のように取り巻くと、小浜兵曹長は、錨の先にこちらの麻綱をひっかけろと命令したのです。
ものに動じない青江三空曹も、この変わった命令には驚きの色を隠すことができませんでした。
「そうだ、錨の先に、こっちの麻綱をひっかけるんだ。早くしろ。しかしうまくやれよ」
小浜兵曹長は、励ますように言いました。
「はい。やります」
青江三空曹は頼もしい語気で、言葉少なに答えました。
そして、操縦桿をさらに手前へ引いたのです。
機はぐっと傾きました。
錨はふわりと機首のところを飛び越えて、後ろの方へ流れました。
空中の投綱(なげなわ)だ!
なんという難しい曲技でしょう。
小浜兵曹長は、窓にかじりついて、窓の外を夢中になって眺めています。錨の先に結びつけた麻縄と、飛行機から繰り出している麻縄の二本が、空中で並んで見えています。

「うむ、あと少しだ! 落ち着いて、しっかり、そして大胆に!」

小浜兵曹長は、もういてもたってもいられず、伝声管を通じて操縦士の青江三空曹に声援を送りました。青江三空曹はそれには答えません。操縦桿を握りしめる彼は、今まさに緊張の絶頂にいたからです。彼の目も、耳も、心も、反射鏡に映る錨と麻縄のほかに、何も見えず、聞こえず、感じていませんでした。

錨と麻縄は、どんどん近づいてきました。

「あと少しだ。青江、しっかりやれ!」

ぴしり!

空中で錨と綱が、激しくぶつかり合いました。火花が散ったのがはっきりと見えたと思った瞬間、錨はぶうんとはじき飛ばされてしまいました。

「ちぇっ……!」

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空中の曲技!

錨の先に、こちらの綱がうまくかかったと思ったその刹那、綱は錨をぽーんとはじき返してしまいました。

「しまった!」

と叫んだのは、操縦していた青江三空曹です。

「うむ、残念」

と呻いたのは、同乗していた小浜兵曹長です。空中の曲技が、おしいところで失敗してしまいました。

「上官、やり直します!」
「うむ、落ち着いてやれ」

このとき弾かれた錨は、せっかく空中に作った美しい輪を壊してしまいました。青江三空曹は、怪塔ロケットを追いかけながら、再び綱を怪塔の胴体のまわりに、ぐるぐると輪っか状に作り直さなければなりません。小浜兵曹長は、ただ呻くばかりです。

やがて再び麻縄は錨を素直に引き戻し、再び美しい輪が空中に描かれました。何度かこの綱の下を抜け出そうとして、ついに抜け出せなかった怪塔ロケット! ここぞとばかりに、青江三空曹は機体をひねり、こちらの綱を向こうの錨のそばへ近づけていきました。

立て続けの宙返りに、さすがの二人の勇士も、このときは激しい頭痛を感じるようになりました。これ以上あまり宙返りを続けると、意識が遠のき、やがては命を落とす恐れがあります。しかし青江三空曹は、あくまで強い精神力で、そうなるのをこらえています。

「ああ、もう少しだ!」

小浜兵曹長が思わず叫んだその瞬間、錨はうまく綱をひっかけました。青江三空曹のお手柄です! 綱は錨にひっかかったまま、するすると滑ったので、綱の輪はどんどん小さく絞られていきます。

さあ、これからどうなるのか。

遂に現る

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錨にひっかかった綱は、するすると滑って、巧みに怪塔ロケットの胴体を締めつけてしまいました。綱はいま、怪塔ロケットの舵の上から、ぎゅっと締め上げています。青江機は、その長い綱の先にぶら下がっている状態です。

「エンジン、止め!」

小浜兵曹長が号令をかけました。エンジンを止めろというのです。ここでエンジンを止めると、どういうことになるのか。

とにかく驚いたのは怪塔王です。飛行機に追い越され、先回りされて飛行を邪魔され、「なんて意地の悪いやつだ!」と舌打ちをしているところへ、このような綱がぐるっとロケットの胴体を縛ってしまったのです。しかも、大事な舵の上を綱が押さえてしまったので、ロケットの飛行はますます苦しくなりました。

これでは、まるで歩いている人間の両腕と両足を縛ってしまったようなもので、走るに走れず、歩くことさえままなりません。しかし、なんと乱暴で、なんと大胆な青江機のやり方でしょう。

いま青江機は、完全にエンジンを止めました。そのため、ロケットに引っ張られて、まるで大きな船の後ろに綱で結びつけられた小舟のように、ロケットの飛ぶがままに、あとからついていくことになりました。

「ちぇっ、あんなことをしてぶら下がりやがって」

怪塔王は、窓の外の光景をテレビジョンで見ながら、何度も大きな舌打ちをしました。

「こうしていては、いつまでたっても目的地まで逃げられやしない。なんとかしてあの飛行機をぶっつぶす方法はないものか」

怪塔王は、険しい目をぎょろりと光らせ、映写幕に映る宙ぶらりんの青江機を、いまいましそうににらみつけました。

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小浜・青江の二勇士が、思い切った決死の大冒険をして、麻縄をもって愛機を怪塔ロケットに結びつけたので、怪塔王は大腹立ちです。このままでは、怪塔ロケットが行くところへ青江機がどこまでもついてくるわけで、邪魔で仕方ありません。

怪塔王は窓から首を出して、青江機をいまいましそうににらみつけていましたが、

「うん、よしよし。そうだ。あの飛行機をやっつけるいい方法があったぞ」

と言って、顔を窓から引っ込めました。

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