初級翻訳・怪塔王 第47話

怪塔王

「ちぇっ、日本軍といま戦をはじめるというときになって、こんな騒ぎがおこるなんて、なんというまずいことだ。おい、わしは戦況をきいているから、はやく悪者をさがしだすんだぞ」
あまりの忙しさに怪塔王は、体が一つしかないことを、どんなにか不便に思ったことでしょう。
「もしもし。わしだ。どうだ戦況は?」
すると向こうから返事があって、
「ああ団長ですか。日本軍はいますっかりわがロケット隊を取り囲みました。上へあがれば、敵の飛行隊がいますし、下へおりれば敵の艦隊がいます。そして今前方から大型の飛行機が三十機ほど、ものすごいスピードでこっちへ向かってきます」
と、これは副司令に任命した団員の報告でありました。
「なんだ。そんなに日本軍に圧迫せられてはしようがないじゃないか。すぐさまわが無敵磁力砲でもって、どんどん日本軍の飛行機や軍艦をやっつけろ。ぐずぐずしていて、こっちの白骨島へ攻めこまれると、ちょっとやっかいなことになるじゃないか。はやく磁力砲をぶっぱなせ」
「ええ、その磁力砲ですが、その磁力砲がどうも……」
「なんだ。なにを言っている。磁力砲がどうしたと? はやく話せ」
怪塔王の顔が、またさっと青くなりました。
「はい、磁力砲が、ちと変な工合でございまして……」

4

「磁力砲が、ちと変な具合だって? おい、それは本当か。はやくくわしいことを話せ!」
怪塔王は、おもわずマイクにしがみつきました。
さきにはモーターが故障で、いままた磁力砲の具合が悪いとは、泣き面に蜂が飛んできて刺したように、災難つづきです。
「いや、実はさっきから磁力砲をさかんに撃っているのでございます。が、飛行機や軍艦が、それにあたってとろとろと溶けるかとおもいきや、どうしたものか、敵は一向平気なのでございます」
「そんなばかな話があるものか。きっと磁力砲の使い方がわるいのだろう。あれだけ教えておいたのにお前たちは駄目だなあ」
「いや、私どもは、間違いなく磁力砲を撃っています」
「間違いなく撃って、相手の飛行機や軍艦がどうかならぬはずはない。たちまち赤い焔をあげて溶けだすとか、うまくいけば、一ぺんに爆発するとか……」
「あっ、困った。敵機がすぐそばまでやってきたそうです!」いよいよ死ぬか生きるかの戦闘をはじめます。報告はあとからにいたします。ちょっと無電をきります」
「よし、しっかりやれ。わしは懸賞を出そう。飛行機を一機おとせば、二千円やる。軍艦なら一隻につき一万円だ」
 その返事は、ありませんでした。副司令は、日本軍と戦闘をはじめたのでしょう。どうなるのでしょうか。戦に勝つか負けるか、怪塔王は気が気でありません。
「ちょっと至急、おいでをねがいます」
 とつぜん耳もとで、ルパシカ男の声がしました。
「なんだ。モーターをこわした悪者をひっとらえたか」
「いや、そうではございません。あのう、縛っておきました小浜兵曹長がおりません」
「なんだ、あの日本軍人がいないのか」
「それからもう一つ、驚くべきことがございます」

     5

「もう一つのおどろくべきことって、それは一体なんだ」
 怪塔王は、かみつくような顔をして黒人にききました。
「はあ、それは――それは第三機械筒の中につないでおいた帆村探偵がいなくなったのでございますよ」
「えっ、帆村が、第三機械筒の中にいないって。それじゃ第三機械をうごかす者がいないではないか」
「はあ、そうでございます」
「そいつは困った。なにもかもめちゃくちゃだ。このロケットは死んでしまったも同じことだ。戦を目の前にして、とびだせないなんて、こんな腹立たしいことがあろうか」
 怪塔王は、どすんどすんとじだんだをふんでくやしがりました。
この話によると、帆村探偵はこの怪塔ロケットの第三機械筒につながれ、その機械をうごかす役をあたえられていたことがわかります。これは勿来関の上空で、わが海軍機と戦っているうちに黒人の一人が死んだのです。そこでその黒人にかわり、かねて捕えられていた帆村荘六がむりやりに第三機械筒の中に入れられ、その機械をうごかす術をむりやりに教えこまれたのでありました。
かしこい帆村は、筒の中につながれていると見せかけ、じつはいつの間にか筒を自由に出入りできる身になっていたのです。小浜兵曹長を海底牢獄からすくいだしたのも彼ですが、兵曹長を山の上にかくしておいて、その夜また行くつもりでいたところ、怪塔王にさとられ、ついに行けませんでした。しかし、こんど彼はとうとう兵曹長をうまくすくいだしました。そして怪塔内のモーターを焼切ったりなどして、怪塔王をすっかり閉口させています。
さてその帆村探偵と小浜兵曹長は、いまどこにかくれているのでしょうか。
ちょうどそのとき、怪塔王と黒人とが、大困りで顔と顔とを見合わせているうしろで、ことりと音がしました。

二勇士

     1

 怪塔王と黒人の立っているうしろで、ことりと物音!
 怪塔王は、それを聞きのがしませんでした。
「何者か?」
 と、うしろをふりかえった怪塔王の眼にうつったものは、何であったでしょう。それは外ならぬ帆村探偵と小浜兵曹長の二人の雄姿でありました。
「うごくな、怪塔王!」
「降参しろ! うごけば命がないぞ」
「なにを!」
 怪塔王は、いかりの色もものすごく、とつぜんにあらわれた二勇士へ叫びかえしましたが、何を見たか、
「あっ、それはいかん。あぶない。ちょっと待ってくれ」
 と、俄に怪塔王はうろたえ、ぶるぶるふるえ出しました。
「あははは。これがそんなに恐しいか。だが、これは貴様がつくったものではないか」
 小浜兵曹長はあざ笑いました。
彼がいま小脇にかかえて、怪塔王に向けているのは、怪塔王秘蔵の殺人光線灯でありました。この殺人光線灯は、かねて帆村がその在所をさがしておいたものです。このたびはこっちが失敬して、逆に怪塔王の胸にさしつけたというわけです。ピストルも小銃も、一向に恐しくない怪塔王ではありましたが、この殺人光線灯を見ると、まるで人間がかわったように、ぶるぶるふるえだしました。それもそのはず、殺人光線灯がどんなに恐しいものであるかは、それをこしらえた怪塔王が一番よく知っているわけですから。
怪塔王は、(困ったなあ。たいへんなものを、盗まれてしまった!)と、歯ぎしりをしましたが、もう間にあいません。小浜兵曹長は、ゆだんなく殺人光線灯の狙を怪塔王の胸につけ、もしもうごいたら、そのときは引金をすぐ引くぞというような顔をしています。
「そこで、怪塔王どの」
 帆村は、横の方から怪塔王のそばに一歩近づきました。

2

「そこで怪塔王どの」
 と帆村に呼びかけられ、怪塔王は額ごしにおそろしい目をぎょろりとうごかし、
「なんだ、帆村。お前たちは卑怯じゃないか。わしの大事にしていた殺人光線灯を盗んで、わしをおびやかすなんて、風上にもおけぬ卑怯な奴じゃ」
「こら、何をいう」
 と小浜兵曹長はおこっていいました。
「卑怯とは、どっちのことだ。」「貴様こそ、卑怯なことや悪いことを数えきれないほどやっているじゃないか。中でも、あの勇敢な青江三空曹を殺した罪をおぼえているか。

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