ですから、怪塔王の言われるままにロケットを分捕る決心を固め、階段を駆け降りました。
「どちらへお出かけになりますか」
と、黒人が心配そうに尋ねました。その時、怪塔ロケットは故障箇所が直り、まもなく出発できるようになっていました。ですから黒人たちは、兵曹長との約束で、ようやく自由の身になれる時が近づいたと喜んでいたところだったのです。
「いま着陸するロケットがあるから、あれを分捕ってくる。ちょっと待っておれ」
「は、そうですか」
と言ったものの、黒人は小浜兵曹長があまりに大きなことを言い出したのでびっくりしてしまい、それ以上言葉が出てきません。
「じゃ、ちょっと待っているんだぞ」
と言い捨てて、小浜兵曹長は外へ飛び出しました。その時、兵曹長の耳をつんざくような、ロケットの尾から吹き出すガスの激しい音! それとともに、あたりはもうもうとした白い煙のようなもので、すっかり覆われてしまいました。兵曹長はロケットを見失ったかと思いましたが、その瞬間、ヒュウッと一陣の風とともに、灰色のロケットの巨体が砂を蹴散らしながら、四、五百メートル先の草原に着陸しました。
「おのれ、分捕ってくれるぞ!」
兵曹長は、猟犬のように駆け出しました。
2
ついに、生き残りの隊長機ロケットが着陸したのです。小浜兵曹長は、そこまでの四、五百メートルの距離を、一秒でも早く駆け抜けようと大地を蹴ったその途端、
「おやっ、あぶない!」「これは大変だ!」
と叫ぶなり、兵曹長は、地面にぺたりと伏せました。
だだだぁん、どんがらからから。
ものすごい光が走ったと思った瞬間、世界が崩れ去るような爆音が轟きました。
ひゅうっ、バラバラと風を切って飛んでくるのは、爆弾の破片に違いありません。
兵曹長は、頭上から降り注ぐ爆弾の危険をいち早く察知したので、その破片を避けるために地面へ身を投げたのです。
猛烈な爆撃は、なおも続いています。
一体、何が起きているのでしょうか。
実は、これは隊長機の最期の場面だったのです。
隊長機は、これまで秘密艦隊やその空中部隊と懸命に戦い抜いてきましたが、「あべこべ砲」の攻撃を受けて無残に破壊され、命綱とも言える磁力砲も壊れて使えなくなっていました。
それでもなんとか逃げ帰ろうと、根拠地の白骨島へ着陸したところを、追跡してきた空中部隊によってさんざんな目に遭わされているのです。
磁力砲が壊れてしまえば、もはや爆弾や砲弾を跳ね返す力は残っていません。
その隙を狙って、わが空中部隊は爆弾の雨を降らせたのでした。
小浜兵曹長は、間一髪で命拾いをしました。
そのとき彼の頭の中に、もう一つのロケットのことが浮かびました。
兵曹長が振り返ったとき、煙の向こう側に、目に焼きつくほどはっきりと見えたのは、怪塔ロケットが出発する光景でした。
ばばぁん、ばばぁん。
「あっ、しまった! 待て!」
と叫びましたが、もう遅い。怪塔ロケットは隊長機と入れ替わるようにして、大空へと飛び立ってしまいました。
3
「黒人のやつ、降参したようなふりをして、とうとう俺をだまして怪塔ロケットで逃げてしまったか」
小浜兵曹長は、悔しさのあまり、地面に腹ばいになったまま何度も大地を叩きましたが、もはやどうすることもできません。
しかし、みなさんは既にお気づきでしょうが、怪塔ロケットを急いで出発させたのは黒人ではなく、大利根博士だったのです。
博士は、まさにこのような好機を待っていたのでした。
しかも、ぐずぐずしていれば、秘密艦隊の爆撃に巻き込まれてとばっちりを受けないとも限りません。
だだだーん、ひゅーっ、どどどん。
地上からは、半ば壊れながらも、隊長機がしきりに空中に向かって砲弾を撃ち上げています。
敵ながらあっぱれな最期を遂げる隊長機でした。
それに応じて、わが空中部隊も、ここを勝負所とばかりに勇ましい急降下爆撃を繰り返します。
地上は硝煙に包まれ、あたりは真っ暗になりました。
「これは、とんでもないことになったぞ」
こうなっては、兵曹長も、この先自分の運命がどうなるのか、全くわからなくなりました。
次から次へと続く爆発、雨のように飛んでくる爆弾の破片。それがあまりに激しく、兵曹長は、一時怪塔ロケットを取り逃がした悔しさすら忘れるほどでした。
それから数分後のことです。
地上にあった隊長機は、ついに一大音響を上げて爆発しました。
そしてロケットは、巨大な火の塊となり果て、その炎は天を焦がすほど高く燃え上がり、すさまじい光景となりました。
この大爆発の衝撃で、小浜兵曹長は体に二つ三つ傷を負ったようで、ヒリヒリと痛みだしました。
が、調べてみると幸いにもかすり傷ばかりでした。
どこまでも強い武運に感謝しつつ、兵曹長は煙の中からすっくと立ち上がりました。
4
小浜兵曹長の無念さといったら、何に例えようもありません。
せっかく占領したはずの怪塔ロケットが、いつの間にか兵曹長を置き去りにして、空へと飛び去ってしまったのです。
硝煙にむせびながら、兵曹長は何度も空を見上げましたが、そこには怪塔ロケットの姿はなく、ただロケットの怪奇な響きだけが、ごうごうと聞こえるばかりです。
「なんてことだ。とうとううまく逃げられちまった。残念!」
兵曹長は、痛みに屈せず立ち上がりました。
この上は、空に向けて信号を送り、戦友たちに自分や帆村がこの島にいることを知らせたいと思いました。
そこで、帆村のいる丘の上へ登るのが一番いいと考えて歩き出したとき、突然、煙の中から一人の人物が飛び出してきました。
「おお、小浜さん!」
小浜さんと自分の名を呼ばれて、兵曹長はハッとしてその方を見ました。
「やあ、帆村さん。まだ爆撃中だから、あまり動くと危ないよ。どうしてあなたは、こんなところへ?」
帆村探偵は、全身ずぶ濡れです。
「いやあ、大変な目に遭いました。この上の洞窟の中でね。例の大利根博士に会ったんですが、博士のために、あやうく命を落とすところでしたよ」
「ああ、大利根博士。博士なら、さっきここへも来たが――」
「えっ、博士は来ましたか! そして、博士はどうしました?」「小浜さんは、なんの危害も受けなかったのですか」
そう言われて、兵曹長は、いまいましそうに舌打ちをしました。
「やられたよ。うまくやられてしまった。せっかく怪塔を占領していたのに、博士が来て、うまいことを言われて俺は外へ飛び出した。すると待っていましたとばかり、怪塔は空へ飛び出してしまったよ」
意外な通信筒
1
硝煙のなかで、ふたたび手を取り合うことのできた帆村探偵と小浜兵曹長は、お互いに勇気が百倍にもなったような気持ちでした。
「小浜さん、これからどうしますか」
「それはわかっている。あくまで怪塔王をやっつけるのさ。そして、この根拠地をすっかり占領してしまうのさ」
「わかりました。では、われわれはさしあたり何をすればいいのでしょうか。戦いは空中で始まっています。それなのに、われわれには飛行機もなければロケットもない。これでは、空へ飛び上がろうと思ってもできないのが残念ですね」
「うむ、さっきから、それを残念がっているところだ。
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