初級翻訳・怪星ガン 第8話

怪星ガン

しかし、とうとう我慢ができなくなって、三根夫は帆村荘六に訴えました。
「おじさん。どうも退屈ですね」
帆村荘六は、本から顔を上げて、目をぐるぐると回してみせました。
「そんなことは言わない約束だったがね。それにミネ君は、いろんなおもちゃを艇内へ持ち込んでいるじゃないか」
「それと遊ぶのも、もう飽きてしまったんです」
オルゴール人形、パチンコ、車を回す白ネズミたち――これだけのものを持って乗り込んだのですが、もう飽き飽きしていたのです。
白ネズミの小屋の掃除をするのが一番の暇つぶしになります。
といっても、これをいくら丁寧にやったところで、ものの二十分とはかかりません。
白ネズミは、はじめ七匹でしたが、まもなく三匹死んで四匹になりました。
しかしその後はどんどん子ネズミが生まれて、一時は五十匹近くになったのです。
五十匹にもなると、エサの量や場所の問題があって、それ以上は増やせなくなりました。
そこで、それ以上増えた分は、かわいそうですが処分することにしました。
白ネズミが運動するのを見ているのは楽しい時もありましたが、地球を出発してからもう百日に近くなります。
白ネズミの回し車に見飽きてしまったのも無理はないでしょう。
「ねえ、帆村のおじさん」「いったい、いつになったら『宇宙の女王』号に追いつくんですか」
「さあ、それはいつになるか分からないが、『宇宙の女王』号が消息を絶った現場までは、あと二、三日でたどり着けるはずだよ」
「えっ、それは本当ですか!」
三根夫は、それまでずっと『宇宙の女王』号の姿ばかりを追い求めていました。
しかし、よく考えてみると、今その船がどこにいるのか誰にも分かりません。もし遭難せずに動き続けていたとしても、あれから四ヶ月近くも経っているのですから、その間にどこまで飛んでいったか見当もつきません。また、遭難して自力で動けなくなったとしても、地上とは違って宇宙空間ですから、四ヶ月もの長い間、同じ場所にじっとしているとは考えにくいのです。どこかの星の重力に引き寄せられ、動き続けていることでしょう。それも、ゆっくりとではなく、谷底に石を投げ落とすときのように、どんどん加速しながら飛んでいったかもしれません。
しかし、帆村のおじさんの言葉によって、そんな遠くまで探しに行く前に、まずは遭難地点の周辺を調べる仕事があるのだと気づき、三根夫は急に退屈から救われたような気持ちになりました。あと三、四日で『宇宙の女王』号の遭難地点に到着するとは、なんという耳よりな話でしょう。
三根夫は、今やすっかり機嫌がよくなりました。このところさっぱり顔を出していなかった操縦室へも、たびたび足を運ぶようになりました。
その甲斐があったのです。翌日のこと、操縦士のもとへ遠距離レーダー係から「前方に宇宙艇らしき影をキャッチしました。方位は……」という連絡が入り、艇内はにわかに活気づきました。
もちろん隊長のテッド博士も操縦室に姿を現し、手際よく僚艇へ知らせて監視を厳重にさせました。艇内は、その話題でもちきりです。
「やっぱり『宇宙の女王』号は、遭難現場の近くにいたんだな」
「どんなことになっているだろう。生き残っている人はいるのかな」
「それはどうだろうね。でも、全員が死んでしまったわけではないだろう」
「すると、このあたりに『怪星ガン』もうろついているはずだね」
「カイセイガンって、なんだい?」
「こいつ、呆れたやつだな。怪星ガンを知らないのか?『宇宙の女王』号が最後に送ってきた無電の中で、恐ろしい怪星ガンが近づいてきていると知らせていただろう」
「ああ、あれのことか。知っているよ。『宇宙の女王』号を襲った宇宙の海賊――というのも変だけど、恐ろしい宇宙の悪党だろ。君の発音が悪いんだよ」
「そんな負け惜しみを言っているよ」
そんな軽口を叩き合っているうちに、救援隊の九台のロケット艇は、どんどん宇宙を突き進んでいきました。やがてテレビジョンのモニターに、例の宇宙艇らしき姿が映し出されました。
「おや、これはどうも違うな。『宇宙の女王』号ではないようだ」
テッド博士は、誰よりも先にそう言いました。
「そうですね。形が違います。もう少し横を向いてくれると、はっきり分かるのですが……」
まもなく、その宇宙艇は進路を変えて横向きになりました。
「なあんだ。あれは『ギンネコ号』じゃないですか。宇宙採取艇の……」
「そうだ、確かにギンネコ号だ。救援の無電を受け取って、現場へ急いでくれたんだな。なかなか義理堅い船だ」
「ギンネコ号に聞けば、何か有力な手がかりが得られるはずです」
「無電で連絡を取ってくれ」
隊長が命令を下しました。果たしてギンネコ号は、何を伝えてくれるのでしょうか。『宇宙の女王』号について、ギンネコ号は何を知っているのでしょう。また、怪星ガンについてはどうでしょうか。恐ろしい魔の空間は、もうすぐそこまで迫っています。いや、実はもう目と鼻の先にまで迫っているのです。テッド博士以下、誰がそのことに気づいているでしょうか。「ミイラ取りがミイラになる」という諺もある通り、怪星ガンの魔力はいよいよ救援隊の上にのしかかろうとしているのです。

宇宙採取艇

いよいよギンネコ号との距離が縮まりました。救援隊長のテッド博士は、九台の艇に対して全艇照明を命じました。この号令が各艇に届くと、九台の救援艇は全身を光り輝かせ、その巨大な姿を明るく浮かび上がらせました。つまり、艇の外側が強い照明を浴びて輝き出したのです。九台の救援艇の編隊は三つのグループに分かれていましたが、このとき、まばゆいほど美しくその姿を見せつけました。各艇の乗組員は、それを見ようと丸窓に集まり、代わる代わる外を覗いては僚艇の姿を懐かしがりました。ああ、もし今、六号艇もこの編隊の中に姿を見せていたら、どんなに嬉しいことだろうか。ゲーナー少佐をはじめ、遭難した六号艇の元乗組員たちは、同じ思いで胸を痛めました。それにしても憎いのは、艇内に時限爆弾を仕掛けていった、あの謎の悪漢です。やつは、どうやら社会事業家ガスコ氏に変装し、松葉杖をつき、緑色のスカーフで顔を隠してテッド隊長たちをあざむいたのだ。
『宇宙の女王』号を助けに行く救援隊の邪魔をするなんて、その悪漢はいったいどんな人物なのであろうか。
いま、司令艇のテレビモニターの中には、ギンネコ号の姿が豆粒ほどの大きさで映し出されている。
ギンネコ号も、こちらの救援隊の方へ艇首を向けて走っているのだが、あと一時間もしないとお互いに出会うことはできない。
モニターを見上げている人々の中に、三根夫少年も混じっていた。
そばには帆村荘六も、静かに椅子に腰を下ろしていた。
「帆村のおじさん。ギンネコ号は宇宙採取艇なんですってね」
三根夫が帆村に話しかけた。
帆村は少年のほうへ振り返り、黙ってうなずいた。
「その宇宙採取艇というのは、どんなことを仕事にするロケットなんですか」
「ああ、それはね」
と帆村は低く、しかししっかりとした声で甥の方へ顔を近づけて語り出した。
「この宇宙には、わが地球にはない鉱物などを含んだ星のかけらが無数に浮かんでいるんだ。その星のことを『宇宙塵(うちゅうじん)』と呼ぶ学者もいるがね。

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