初級翻訳・怪星ガン 第32話

怪星ガン

「待ってくれたまえ。大事な品物を、ここへ置いていっては大変だ」
三根夫は、さっき目が回ったときに思わず下へ置いた、秘密のカメラと録音機が入っている四角い包みを、急いで手につかんで、脇の下にかかえ込みました。
ハイロは、前後へ気を配りながら三根夫の手をとって、環状橋の上を進みます。
三根夫のほうは、この吊り橋と天井の構造にすっかり気を奪われて、そのほうへきょろきょろと忙しく目を走らせています。
(あッ、あそこに階段がある。やっぱりそうだ。あの階段をのぼると、天蓋の外へ出られるんだな)
構築物はどれも同じ色をしていて、同じ明るさに照らされているので、よほどそばまで行かないと、階段や曲がり角や広間があることさえわかりません。
なるほど、これでは下界から見上げても、天井や吊り橋などが見分けられないはずです。
「ハイロ君。早くあの階段をのぼろうじゃないか」と、三根夫はずんずんと足を早めました。
「あ、お待ちなさい。これから先が危険なんですよ。あの階段の下まで行ったあとは、絶対に声を出すこと、それから足音をできるだけ立てないこと。黙って上まで上がり、それから一分間外を見て、それからまた黙って降りてくるのですよ。いいですか」
「わかったよ、ハイロ君」

   天蓋の頂上

ハイロと三根夫は、あたりを警戒しながら階段に近づきました。
幸いにも、誰もいないようです。
「いよいよ、ここから階段をのぼりますが、絶対に声をだしてはだめですよ、いいですか」
ハイロは、もう一度念を押しました。
そして万が一、監視隊員に見つかったときは、三根夫は口がきけず耳も聞こえないということにし、ハイロが監視隊員に応対するから、そのつもりでいるようにと三根夫に言い聞かせました。
それから階段をのぼり始めたのです。
その階段は、螺旋形にねじれて上へ上がっていくようになっていました。
階段の幅はかなり広かったです。
それをのぼりながら三根夫は、壁がどんな材料でできているのか注意して見ました。
その材料は、吊り橋や天井と同じものだと思われました。
灰色でした。
ちょっと指先で触ってみました。
冷たいかと思いきや、意外にも生温かかったのです。そして、弾力も感じられました。
(やはり、樹脂製らしい。しかしこんなに丈夫な樹脂にお目にかかるのははじめてだ)
地球にある樹脂とはだいぶ違って、高級品でした。
階段の高さは、三十メートルより低くはないと思われました。
この三十メートルは、同時にこの天蓋の厚さでもありました。
すばらしく厚い天蓋です。その天蓋が、するすると伸びていって大空を覆ったのを見たのです。
こんな厚いものが、どうしてあのような速さで伸びていったのでしょうか。その不思議な謎は、天蓋の構造にかかっているのです。
(いったい、天蓋はどんな構造になっているんだね)と、三根夫はハイロに尋ねたくなりました。
が、それはできませんでした。
ハイロの厳しい目つきにぶつかったからです。
(三根夫さん。一口も口をきいてはいけませんぞ。さっき注意しておいたでしょう)
と、ハイロは無言で三根夫を叱りつけているのです。
だからといって、三根夫はそのことを諦めることはできませんでした。
そこで、思い切って手まねでハイロに尋ねました。
通じるか通じないかはわかりませんが、壁を叩くまねをし、その構造はどうなっているのか、中はどうなっているのかを教えてくれと、一生懸命に手まねを工夫してハイロに尋ねました。
ハイロははじめ、あきれ果てたという顔つきで目を白黒させていましたが、やがてハイロも手まねで答え出しました。
手まねというやり方を、ハイロは面白く思ったから、三根夫に答えてやることになったのでしょう。
(なるほど、そうかい)
三根夫は、やはり手まねで相槌を打ちました。
ハイロの手まねのすべてがわかったわけではありませんが、そうしないとハイロが手まねのおしゃべりをやめてしまう恐れがあったから、ほどよく相槌を打ったのです。
そうしてハイロの手まねを解読し、わかったように思うことは、この天蓋を作っている壁体は、少なくとも三重になっているらしい、ということでした。壁の中は袋のような構造になっていて、その中には原子力であたためられた特殊なガスが詰まっているらしい。
そのガスは袋の中にぎっしりと充填されているため、触れると金属と同じくらい硬く感じられるのだ。
その外側には、さらに二重の樹脂のような生地の袋がかぶさっており、ガスが外へ漏れるのを防ぐと同時に、外部から砲弾などを撃ち込まれても跳ね返す強固な力を持たせているらしい。
「らしい」という推測ばかりで正確なことは分からないのが残念だが、いずれ町へ帰ってからハイロに問い直せばいいだろうと、三根夫は自分を納得させた。
そして、残りの階段を一気に駆け上がり、ついに一番高い場所に到達した。
そこには、丸い小さな天井がはめ込まれていた。
その小天井は透明だった。
その証拠に、天井越しに星々がきらきらと輝いているのが見えた。

(ああ、きれいだなあ。
久しぶりに星空を見た。
なんてきれいなんだ)

三根夫は、口から飛び出しそうな言葉をぐっと飲み込み、透明な天井を通して大空を仰いだ。
そして、その姿勢のまま体をぐるりと回転させ、ちょうど百八十度ほど向きを変えたとき、彼はまったく予想外の光景を目にした。
すぐ近くの宙に、ガスタンクほどの大きさの、銀色に輝く素晴らしい球体が浮かんでいるのを発見したのだ。
遊星だ。
なんと大きな星だろう。
彼は息を呑み、驚きと恐れを抱きながらその表面を眺めた。すると突然、三根夫は心臓が破れそうになるほどの、二度目の衝撃に見舞われた。
その星の表面には、模様のようなものがついていたからだ。
それは海と陸とがはっきりと区別されて見えた。
三根夫が驚愕したのは、その模様の一つが他のものよりも際立っており、それが南アメリカ大陸の形にそっくりだったからだ。
いや、似ているどころではない。あれは間違いなく南アメリカ大陸だった。
すると、いま目の前に見えている星こそ、地球なのだ。
地球だ。
地球がこんなに近くにあるなんて。

「うわーッ!
地球だ!
なつかしい地球だ。
これは一体、どうなっているんだ!」

三根夫は感激のあまり、ついに大きな声を上げてしまった。
ハイロがあわてて三根夫のそばへ駆け寄ったが、もう遅すぎた。

意外な相手

(しょうがないなあ。
だから、あれほど厳しく言っておいたじゃないですか)

そう言いたげに、ハイロは三根夫の口を必死で押さえつけた。そして三根夫の腕を強くつかみ、急いで階段を降りようとした。
しかし三根夫は、なつかしい地球に見とれていて、その場を動きたがらない。

(だめですよ。
今のうちにさっさと逃げないと、あんたの今の叫び声を聞きつけて、武装した監視隊員が逃げ道をふさいでしまいますぜ)

ハイロは、そんな思いでいっぱいだった。
彼は力を込めて、三根夫を階段の出口の方へ引きずっていこうとした。

「こらッ、何者だ!
そこを動くな!」

突然、ひとりの大柄なガン人が姿を現し、三根夫をつかまえた。

「しまった!」

三根夫は舌打ちをした。それが、さらに状況を悪くした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました