初級翻訳・恐竜島 第14話

恐竜島

我々も行く」
 マルタンに同意して、ケンとダビットの撮影班も腰を上げた。ツルガ博士は娘のネリの手をやさしくなでて、これから始まる探検に一緒に来るように言い聞かせた。それを横から見ていて、玉太郎は胸が熱くなった。こんな小さな少女が恐竜島の探検についてくるなんて、なんて無謀なことだろうと思った。
「子供は、ここへ置いておくべきだ。恐竜は子供の泣き声を聞きつけると、喜んで現れる。こっちが危険なときに、わあわあ子供に泣かれては大迷惑だ。なにしろ命がけの仕事なんだから……」
 そう言ったのは、強気な紳士モレロだった。彼は顔つきも口調も、まるでネリに噛みつきそうな勢いだったので、少女はびっくりして父の胸に抱きついた。
「ネリちゃん、僕と一緒にここでお留守番をしていようか」
 玉太郎は気の毒に思ってそう言った。するとツルガ博士は、玉太郎の言葉には挨拶一つ返さず、娘の髪を静かになでながら、「恐竜なんて愚かな獣ですよ。ちっとも怖くありません。ネリはお父さんと一緒に行くのだから大丈夫です」と諭した。
 伯爵団長は下唇を突き出し、灰色の頭を左右に振った。詩人の張子馬は目を細め、まるで夢を見ているように微笑んでいる。フランソアとラルサンの二人は示し合わせて、こそこそと後ずさりを始めた。この場から姿を消して、第一回の探検には参加せずに済ませたいという魂胆だった。
「団長、子供は連れて行かないと、はっきり宣言してくれ」
 モレロが吠える。
「まあ、なんだね。各人の自由行動としておこう。強制するのは好ましくない。それに、最初から些細なことでせっかくの隊員同士が睨み合うのは嫌だからね……」
 団長は反対の言葉を口にした。
「おいおい、いくら老人の団長でも、そう耄碌(もうろく)されては困るぜ。問題は我々の命にかかっているんだ。危機一髪のところで子供がわあっと泣いたせいで、恐竜に居場所を突き止められて飛びかかってこられたらどうするんだ! 我々の安全のために、子供の同行には反対する。さあ団長、はっきり宣言してくれ!」
「それは困る」
「なにを……!」
「まあ、待ってくれ。団長、モレロ君。恐竜島へ上陸した途端に、はるばる仲良くやってきた隊員の間で争いが起きるなんて、見ていて面白いものじゃない」「とにかく話し合って、お互いが納得できる点を見つけてくださいよ」
「命に関わる問題なんだ。妥協して死ぬなんて真っ平だ」
「今さら、隊員の自由を縛るようなことはしたくないんだ」
「どちらの言い分ももっともです。ならば、こうしてはどうでしょう。ツルガ博士が出かけるときは、モレロ君はあとに残る。次回はモレロ君が出かけ、ツルガ博士はあとに残る。それでいいでしょう」
 マルタンの仲裁に、モレロはまだ不満げにぐずぐず言っていましたが、ついに説き伏せられ、ようやく承諾しました。
 こうして、第一回目の探検にはツルガ博士が参加し、第二回目にはモレロが参加するという形で、二人は一緒に行動しないという妥協点に落ち着いたのです。しかし、その後もモレロは恐ろしい形相でぶつぶつと文句を言い続けていました。

探検隊員出発

 その日の午後二時過ぎ、シー・タイガ号の探検隊は第一回目の探検に出発しました。
 もちろん、率いるのはセキストン伯爵団長です。
 ツルガ博士の娘ネリも加わりましたが、モレロの姿はありません。二人の水夫も第一回には参加しないことになりました。さらに、中国人の詩人・張子馬も留守番をすることになりました。
 つまり、留守番はモレロ、張、二人の水夫の計四名。出発したのは玉太郎少年に加え、伯爵団長、マルタン、ツルガ博士と娘、ケンとダビットの映画撮影班の計七人でした。
 玉太郎は団長と並んで先頭に立ち、密林の中へと入っていきました。
 やがて道が狭くなると、玉太郎が先頭になり、そのあとに団長が続きました。続いてツルガ博士と娘、そのあとにマルタンが護衛のように従いました。二人の映画班はいつも遅れがちでしたが、これはもちろん途中で興味深いものを見つけては、十六ミリの天然色映画を撮影していたからでした。
 密林を進む間、玉太郎は伯爵団長に、彼が以前試みたというこの恐竜島の探検のことや、さらに昔の、例の水夫ヤンが残した写生画のことなどについて質問しました。
 セキストン団長は、はじめのうちは元気に語っていましたが、そのうち激しい暑さと強い湿気に息が上がり、苦しくて喋れなくなったのか、「また別の時に話そう」と言って物語を中断してしまいました。
 このとき玉太郎が聞いた内容は、団長が以前シー・タイガ号の船長たちに語っていたのと大差なく、深い核心に触れるところまでは至りませんでした。
「おーい、待ってくれーッ!」
「おーい!」
 映画班が、ときどき後ろから声をかけます。
 そのたびに、玉太郎、団長、博士、ネリ、マルタンの五人は足を止めて、彼らが追いつくのを待たなければなりませんでした。
 そんなことが、沼のほとりに出るまでに六、七回もありました。最初は伯爵団長もぶつぶつ文句を言っていましたが、後半になると、追いつくのを待つ時間が「救いの時」とばかりに足を止め、腰を叩き、汗をぬぐい、体にたかってくる蚊を叩き殺していました。
 ついに沼が見えてきました。前回と同じく、岸をぐるりと右へ回っていったときのことです。今度はツルガ博士と娘、そしてマルタンが遅れだしました。いや、遅れたどころではありません。ツルガ博士は沼を見るやいなや大興奮といった様子で、岸のところにしゃがみこんでしまったのです。
 博士はその服装には不釣り合いな立派なプリズム双眼鏡を取り出し、沼の面を念入りに、何度も何度も繰り返し眺めています。
「ツルガ博士。詳しい観察は後にして、まずみんなと一緒に、行けるところまで行ってみようじゃありませんか」
「しーっ、静かに……」
 マルタンの言葉に対する博士の返答は、叱責でした。
 娘のネリまでがマルタンに対して大きな丸い目を見開き、「お父さんのお仕事を邪魔しないでよ」と抗議するような態度です。
 常識があり礼節を重んじるマルタン氏は、決して腹を立てたりはしませんでした。しかし、この博士の一行と、先に行っている先行組との間で板挟みになり、困り果ててしまいました。とはいえ、どんなことがあっても老博士と幼い女の子だけをここに置いていくわけにはいきません。自然とマルタン氏も、博士が動き出すまではこの沼の岸を離れることができず、いやでも博士の行動に注意を払わざるを得ませんでした。
 ツルガ博士の観測はいつまで経っても双眼鏡で沼の面をなめ回すばかりだったので、しまいにはマルタン氏も退屈して、こっくりこっくりと居眠りを始めてしまいました。

絶好の舞台

 先行組の四人は、以前ラツールがよじ登っていった崖の下に立ち、上を見上げていました。
「もしもし、団長さん、早く恐竜を出してくださいよ。どのあたりから出るんですか?」
 映画監督のケンが、伯爵団長に催促しました。
「冗談を言ってもらっては困る。恐竜は私が飼っているわけじゃないんだ」
「夜間撮影はできないんですよ!」「昨日のように出られても、こっちは撮影ができませんからね。

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