神様、どうぞそうなりますように……」
「待っていてくれ」
ケンはそろりそろりと岩を伝いながら、歩き出していきました。
「ケン、神様は我々に幸せを運んできてくれたかい?」
しばらくして、ダビットが尋ねました。
「まだだ」
闇の中で返事が返ってきました。ケンはそろり、そろりと岩肌を伝って出口を探しているに違いありません。
「あった! あったぞ!」
「助かったね!」
「アーメン」
一同はほっとしました。
「どこだ!」
「ここだ。君らのいるところから五、六歩のところだよ」
三人はお互いに手をしっかりとにぎりあいながら、水の中を歩き出しました。
怪船と怪人
その穴は、人一人がやっと通り抜けられるような小さい穴でした。
一人ずつ、身体を横にして這っていかなければなりません。まずケンが飛び込みました。続いて玉太郎、それにダビット、しんがりは張です。前の人の足を左手で押さえながら、右手で進まなければならないので、大変な重労働でした。
しかし、この努力の先には助かるという希望があったので、これくらいの苦しみは、四人にとって何でもありませんでした。
しばらくすると、四人のほおに冷たい風が吹いてきます。風というよりも空気の流れです。その流れの中に、かすかではありますが、例の恐竜の生臭いにおいが混じっているのです。
したがって、この穴の出口に恐竜がいるのかもしれません。あるいは恐竜の巣につながっているのでしょう。そうした危険は十分にありました。しかし、そんなことを心配してはいられません。出たとこ勝負でぶつかっていくより、今の四人にはどうすることもできなかったのです。水中に張ってあったその綱は、まさに命綱と呼ぶべきものでした。
綱を引いたことで、まずは水にのまれる恐怖から逃れ、次にこの脱出用の穴を見つけ出すことができたのです。
しかし、それよりももっと大きな幸福が、この四人だけでなく、探検隊の全員の上に訪れようとしていることを、この時は誰も知る由もありませんでした。
それが一体どのような幸福なのかは、この物語を最後まで読んだ読者のみなさんにはきっと分かるはずです。
それはまた後の話として、今は洞窟を抜けていく四人の様子に戻ることにしましょう。
「ケンおじさん。何か人の声が聞こえませんか?」
玉太郎がケンの足をトントンとたたいて合図しました。
「うむ、君の耳にも聞こえたのか。僕は自分の耳のせいかと思っていたが……」
「おい、ストップだ」
ダビットが言いました。
みんなは息を殺して、じっと耳を澄ませました。
水にぬれた衣服を通して伝わってくる岩肌の冷気が、五体をきゅうっと緊張させます。
ほんのかすかな音でした。どこから聞こえてくるのか、見当もつきません。
四人はそれぞれ、八つの耳をいっぱいにそばだてました。
聞こえる、確かに聞こえるのです。
「フランス語だ」
「いや、英語らしいぞ」
声は空気の流れに乗って聞こえてくるわけではありませんでした。
ダビットが頭上の岩肌に耳をぴたりとつけると、声はよりはっきりと聞こえました。つまりその声は、岩を伝わって響いてくる振動だったのです。
読者のみなさんも、二階にいるときに階下の話し声を聞こうと思ったら、窓を開けるより床に耳をつけた方がよく聞こえるでしょう?
階下の声の音は二階の床を振動させて、直接耳に伝えてくれるからです。
こんなことをするのは危険ですが、遠くを走ってくる汽車も、姿が見えないうちから線路に車輪の響きが伝わってくるのと同じ理屈です。今、四人が耳にしたのは、まさにその響きでした。
「とすると、この近くに誰かがいるんだな」
「そうだよ、ダビット。ひょっとするとこの洞窟の上が道路になっていて、そこに誰かが来ているのかもしれない」
「あ、ラツールさんの声だ!」
玉太郎がとつぜん叫びました。
「えっ、ラツール? じゃあ、あのフランスの新聞記者のラツール君かい?」
「そうです! 僕、信号を送ってみます」
玉太郎は岩の破片を拾い上げると、頭上の岩肌をコツコツとたたき始めました。モールス信号です。
返事はありません。
コツコツ、コツコツと玉太郎は信号を送り続けます。
まだ返事はありません。しかし、今度は話し声がぱったりと止まりました。どうやらこちらの信号に気づいたようです。
玉太郎は続けて信号を送りました。
『ラツールさんですか。こちらは玉太郎です』
今度は返信が来ました。
『玉ちゃんかい! どこにいるんだ?』
『どこだか分かりません。海に出るらしい洞窟の中です』
『どこから入ったんだ?』
そこで玉太郎は、これまでの道すじを時間をかけて説明しました。
『ちょっと待っていてくれ』
信号はそこで切れました。
「やっぱりラツールさんだった。早く会いたいな。どうしているんだろう」
「さっきは僕らがラツール記者を助けたけれど、今度は向こうに助けてもらう番みたいだな」
「おいダビット、神様はまだ僕たちを見捨ててはいないってことさ」
「そうだねケン。天国行きのバスのガソリンが切れたんだよ、きっと」
ダビットはすっかり元気を取り戻し、いつもの冗談を口にしました。
トントン、ツーツー、トンツー。
再び信号が響いてきました。
『君らのいる横穴をさらに十メートル進め。すると大きな洞窟に出るはずだ。日の光もさしているだろう。階段も見えているに違いない。僕はこの島の住人を連れて迎えに行く』
ラツールの信号はそう伝えてきました。
「ありがたい。ところで、その島の住人って何者だろうね?」
玉太郎が信号の内容をみんなに伝えると、ケンがたずねました。
「その住人とは何者なのか?」
玉太郎はすぐに信号を送りました。
『会えば分かる。不思議な人物だよ。僕は恐竜の口から彼に救われたんだ。いずれ大洞窟でお目にかかろう』
「O・K!」
そろり、そろりと再び進軍が始まりました。
「もう何メートルくらい進んだかな」
「まだ三メートルくらいだよ」
「あと七メートルだ。元気を出していこうぜ!」
ダビットは足をばたばたさせました。
「クロールじゃないんだから、足を動かしても進みませんよ。お静かに、お静かに……」
張さんも笑っています。
みんな元気です。思えば昨日から何も食べていません。お腹はぺこぺこで、疲れは極限まで達して体もしびれています。しかし、助かるという希望が目の前で輝いているのです。だから四人は元気一杯でした。
「あ、あれだ! 明るいぞ!」
先頭にいたケンが言いました。
「もう一息です!」
玉太郎が振り返りました。
かすかではありますが、確かに明るい光が見えます。頭をぶつけたり、肩をこすったり、細い洞窟の旅は大変な難行苦行でしたが、それももうすぐ終わりです。
「さて、このあたりの様子もカメラにおさめておこうか」
ダビットはすっかり商売モードです。
明るい出口を目指して、そろりそろりとはい出していくケン監督の姿を、ダビットは後ろからカメラに収めたのでした。「ああ、遂に救われた!」
ケン、玉太郎、ダビット、張という順番で、四人は穴から外へと出ました。
そこは大きな洞窟になっていて、頭上の岩と岩の間からは、明るい光が差し込んでいました。
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