恐竜は三人の姿を見たか見ないか、あるいは見たとしても少しも邪魔にならない存在として無視したのか、モレロたちの脇を通り過ぎていきました。
びりっ、びりっと地響きが収まったかと思うと、ズズーンという大きな音が響きました。恐竜が海に飛び込んだのです。続いて、ズズーン、ズズーンと大砲を撃ったような音が続きます。あちこちの洞窟からも、恐竜たちが飛び出したのでしょう。猫のような、また猿にも似た鳴き声がやかましく響いてきました。
「さあ、奴らは出かけたぞ。この間に探るんだ」
三人はさらに穴の奥へと進んでいきました。
「親方、親方。あれは何でしょう?」
「どれのことだ」
「ほら、あそこにぶよぶよしたものがいますぜ」
「兄貴、あれは恐竜の赤ん坊だよ」
卵からかえったばかりらしい恐竜の赤ん坊が四匹ばかり、長い首を振ったり、絡ませ合ったりしてじゃれついていました。
「おい、兄貴」
「なんだ、ラルサン」
「あれはいいな。金の卵もいいが、卵よりあの方が高く売れるぜ」
「うん、俺も今、それを考えたところだ」
「どうだい、ちょうど二匹ずつに分けようじゃないか。恨みっこなしでいこう」
「うん」
二人がそんな相談をしている間に、モレロはあたりを嗅ぎ回るようにして探しものをしていました。
「おい、フランソア、ラルサン。来てくれ、ちょっと手を貸してくれ」
モレロは岩肌を叩きました。
「なんです?」
「ここをごらん。字が書いてある。二人のうち、読める者はいないか?」
「さあ、どうも俺には文字というやつが苦手でね」
「うん、英語なら少しはわかるんだが、こいつはどこの国の言葉だか知らんが、俺にはさっぱりわからねえ」
「宝、死と共にここに眠る」という謎のようなスペイン文字をモレロが読めたら、彼も少しは考えたことでしょうが、残念ながら彼には読めませんでした。
「キッドの宝はここに隠されていると書いてあるに違いない。おい、手を貸してくれ!」
しかし、岩はびくともしません。三人の力ではどうにもなりませんでした。
「うん、この岩さえどけりゃいいんだがなあ。ここまで来て空しく戻るというのは、どうしても癪に障るな」
モレロは腕を組んだまま、しゃがみ込んでしまいました。
「親方、ピストルをお持ちでしょう」
「うん、持っている。だが、ピストルの弾丸じゃこの岩はびくともしねえよ」
「ピストルで撃つんじゃないんです。弾丸から火薬を抜いて……」
「うん、うん、わかった、わかった。手前はなかなか利口だな」
モレロはにこにこと笑いました。ピストルの弾丸の火薬で、岩を爆破しようというのです。こういうことは彼らにとって手慣れた仕事でした。モレロは弾を抜き出し、その作業に取りかかりました。向こうの隅からは、恐竜の子供たちが首を揃えてこちらを見ています。ミャア、ミャアと悲しそうな鳴き声を上げていました。
突然、「ダーン!」という音がしました。
音は岩の洞窟の中を走り回り、あちらこちらの岩肌に跳ね返り、ぶつかり合ってだんだんと大きくなっていきました。そのため、海の外にこの音が流れ出た時には、地雷が爆発したような凄まじい音を立てたのです。海水を浴びて朝の空気を楽しんでいた恐竜たちはびっくりして首を上げました。中の一匹が、わずかに漂ってきた火薬の匂いを嗅ぎつけたのか、三人が潜んでいる洞窟に首を突っ込みました。
「グアッ!」
そいつは怒りの叫び声を上げて、穴の中に突進していきました。あっ、爆音だ!
人と怪獣の戦い。いや、戦いではありません。怪獣に追い回されて逃げ切れない人間が、最後の苦闘を続けている図です。惨憺たるありさまでした。恐竜は穴から、その長い首の先にモレロをくわえて出てきました。その隙に、ラルサンとフランソアが穴から転がるようにして逃げ出しました。仲間の他の恐竜が、長い首と、樽ほどもある大きな目で二人を追いかけました。
穴から抜け出しても、一息つくひまさえありません。
二人は腰のあたりをガブリとくわえられると、ぽーんと海の向こうへ投げ飛ばされました。
他の恐竜が、海からやっと姿を見せたフランソアの体をくわえあげます。
まるでボール遊びをしているかのような様子です。
くわえられながらも、モレロはピストルを撃ちました。
これがまた、恐竜のいらだたしい神経を余計に刺激したようです。
モレロの体は、フランソアの二倍も三倍も遠くの後方へ放り飛ばされました。
ダビットは崖の上の岩陰から、それらの様子をすっかりカメラに収めていたのです。
玉太郎たち三人が山肌の小道を転がるようにして谷の方へ降りてゆく様子も、もちろんカメラに収められていました。
一番先に降りていったのは、ラウダです。
彼は五年間もこの島に住んで、朝から晩まで寂しい山道を往来しています。
ですからケンが登山でならした腕だと自慢しても、また玉太郎が体が軽く敏捷(びんしょう)だと威張っても、ラウダには到底かなわないのです。
ラウダは崖の上に立ちました。
下では恐竜がモレロたちの体をまりのようにしてもてあそんでいるところでした。
「ピー、ピー、ピイヒョロ、ヒョロ」
ラウダが口笛を吹きました。
恐竜に聞かせるように、それは何かの合図のような音色を奏でていました。
すると、恐竜の首が一斉に、崖の上のラウダの姿へと向けられました。
恐竜たちが、ラウダの口笛から何かの合図を受けたことは間違いありません。
ケンがやってきました。
玉太郎もやってきました。
「ラウダ、不思議なことが起こったな」
「不思議でもなんでもない。彼が恐竜に命令したんだ」
「命令?」
「うん、つまらん遊びはよせと言ったのだ」
ラウダは恐竜を操ることを知っているに違いありません。
「君は恐竜を自由にできるのか?」
「いや、自由にはできない。だが、彼らを喜ばせることはできるんだ。僕の口笛がそれだ」
そう言って、ラウダは高らかに口笛を吹き鳴らしました。
恐竜は酔ったように、聞き惚れています。
モレロ、フランソア、ラルサンの体は、三匹の恐竜の口から、ぼとん、ぼとんと海の中に捨てられました。
三人の体は一度沈みましたが、再び浮かび上がって、潮に流され始めました。
「死んでいるかもしれない。もしかすると気絶をしているだけかもしれない。僕はここで恐竜をおさえているから、岬の向こう側に行ってくれたまえ。三人の体は潮の流れに乗って、あっちへ届くのだ」
「オーケー」
ケンと玉太郎は、ラウダに言われるままに再び山に登り、大きく回り道をして、岬の端へと急ぎました。
「おや、あそこにボートがある」
「うん、誰が乗ってきたのだろう。今の我々にはなんといっても絶好の味方だ。拝借しよう」
二人は滑るように崖を下っていきました。
ボートはモレロたちが作った丸木船です。けれども、もちろん二人はそれを知りません。
「さあ、玉ちゃん乗れ。君は舵を、僕はオールを持つ」
ボートは波に乗って、恐竜に見つけられないように注意しながら待ちました。
「おや」
ケンがオールの手をとめました。
「玉ちゃん、聞こえないかい?」
「何がですか?」
「ほら、あの音」
玉太郎も耳をすませました。
「ああ、虫の羽音のようですね。
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