「真の犬とは、マダム。そのルーツを辿れば、ゴールデン・ジャッカル、つまり『カニス・アウレウス』だったのです……。彼らは愛し、愛されなければなりません。さもなければ、死んでしまうのです」
「ロシア犬、生きたまま月に到着」――ドラッグストアの店先に山積みになった新聞に、そんな見出しが踊っていました。
その記事に目を通そうと、レザージャケットを着た男が足を止めました。
道路の向こう側では、裁判所の芝生が寒々と霜に覆われ、茶色の斑点がある一匹の白犬が、まるで暖をとろうとするかのように、キッチンスツールの上に両前脚を乗せていました。
しかし、旗を降ろすのに夢中になっている四人の婦人たちは、そんなことは気にも留めません。
旗を吊るすロープ(ハリヤード)を操っていたのは、ペルシャ子羊のコートを着たマーサ・ストーナリーでした。真っ赤なマスカラを塗ったモニカ・フリントと、ブラウン・フォックスの毛皮をまとったポーラ・ハートが旗をつかみ、濡れた地面に触れないよう慎重に折り畳んでいきます。
通りかかった郵便屋とレザージャケットの男が、歩道に立ち止まってその様子を眺めていました。
マーサは鼻眼鏡の下でぞっとするほど顔を膨らませると、ロープのフックの一つに金属の輪を固定しました。そこには、テープとワイヤーで犬の右脚がしっかりと縛り付けられていたのです。
「さあ、みんな、引き上げるわよ!」
マーサが旗を押さえている間、モニカ、ポーラ、そしてヌートリアの毛皮を着たアビゲイル・サイラックスが声を揃えました。
犬は前脚をバタバタと動かし、狂ったように吠え立てました。なんとか逃れようともがくその姿は、まるで鐘が鳴るような悲痛な吠え声を響かせます。女たちは疲れ果ててブツブツと文句を言っていました。
芝生の先から人が集まり始め、裁判所の窓にはいくつもの青ざめた顔がのぞいています。
マーサは言いました。「二ブロックも離れているのに、みんな『やめろ』だなんて大騒ぎね」
彼女は旗竿のそばに引き寄せたキッチンスツールに乗り、胸の高さまである棚ごしに、集まってきた小さな群衆と向き合いました。車が次々と止まり、四方八方から人が押し寄せてきます。
盛り上がった灰色の髪を手で軽く押さえ、薄い唇をオウムのくちばしのように尖らせて、彼女は叫びました。
「アメリカの仲間たち! 我々の指導者は腰抜けです。我々全員がロシア人に寝首をかかれる前に、今こそ人民が行動すべき時が来ました! ここに我々『愛犬婦人連盟』は、ロシアの犯罪行為に断固抗議いたします。信じ、愛すべき犬を月へと追いやり、孤独のうちに飢えさせ、凍えさせ、窒息させ、死なせるなどという行為に! 我々の頭上で絶叫するこの犬は、犬と人との間に結ばれた信義をロシア人たちが破ったことを、世界に向けて告発しているのです!」
「とんでもない!」レザージャケットの男が近づいてきました。
「マーサ!」アビゲイルが叫びます。「あの男、犬を下ろす気よ!」
モニカが男の腕をつかみ、ポーラは男の顔をひっかきました。「このケダモノ! 腰抜け野郎!」と金切り声が響きます。マーサがスツールから飛び降りて男を蹴り飛ばすと、男は腹を押さえながら後ずさりしました。
「やめてくれ、ご婦人方」と男は息を切らしながら言いました。「頼むから――」
「おいおい、それは公的なものだぞ」群衆をかき分け、太った男が進み出てきました。ワイシャツの袖をピンクのバンドで留めたその男は言いました。「一体何事だ? 誰か、その犬を下ろせ!」
「ダメよ!」マーサが食ってかかりました。彼女はロープの固定具の前に立ちはだかり、旗を広げて自分の体に巻き付けました。灰色の髪が顔に散らばります。
「あんたがそんなに大物で勇敢なら、ロシアの犬を地上に戻してみなさいよ!」彼女はデブ男を冷たく言い放ちました。
「だから、話を聞けってば、ご婦人」と太った男は困り果てています。
『クラリオン』紙のカメラマンが広場を横切って駆け寄る中、灰色のビジネススーツに身を固めたジョージ・ストーナリーが、不安げにのっぽの体を屈めていました。
「なるべく早く来ました」彼は、書類が散らかった傷だらけの木机の向かいに座るブリーン保安官に言いました。「倉庫の一つを調べていたものですから」
「保釈なら二分で済む。ホールのすぐ向こうだ」下あごを掻きながら保安官が言いました。「あの女、自分からは保釈を求めないだろうな。『あんた達は私を自分たちのスプートニク(人工衛星)に閉じ込めるべきだった』なんて抜かしているんだから」
「で、今はどこに?」
「スプートニクの中さ」
机の上の電話が鳴り、保安官はガミガミと答えました。「ああ畜生、四十三号線、ロイ農場の少し先だって? 分かった。今朝こっちの芝生で起きたことは耳に入ってるだろう?」
電話から興奮した声が聞こえてきます。保安官の赤い眉は信じられないとばかりに上がり、大きなあごが力なく落ちました。彼は受話器を戻すと、ストーナリーに言いました。
「市のお役人からだ。市を出てすぐの木に、犬がぶら下げられているという苦情だよ。後脚一本でな」「だが、町中あらゆるところで同じことが起きてるんだぜ――犬がぶら下がっているんだ。木に、窓に、外の物干し竿に――駐車中の車も全部やられた。あんたのカミさんは何かをおっぱじめたんだよ!」
「女房は何をしでかしたんですか?」悲痛な声でストーナリーが訊いた。
保安官は彼に告げた。
「犬を痛めつけてる現場で、ついでにデブった代議士を蹴り飛ばしたのさ。結局の所、留置場には入ってもらうことになるな。あんたのカミさんがいうには、自分は犬のナントカ連盟の総裁様だとよ。」
「愛犬婦人連盟です。」と痩男が修正した。「会合を開いたりなんだりで。ロシア人たちがスプートニク二号を打ち上げたときに始めたんです。」
「わかった。あのご婦人方の誰一人としてこの国にいなきゃいいと願うよ。」保安官はこう言って立ち上がった。「ストーナリーさん、あんたは保釈にいってこい。俺は代議士を送ってくるから。」
夫を従えて旗竿の脇を通り過ぎる時、マーサ・ストーナリーは得意満面だった。「全米の犬がロシアの犯罪に抗議して叫ぶでしょう」と彼女。「私は炎となって燃えてるの、ジョージ、この炎はクレムリンまで焼き尽くすでしょうね。私のようなか弱い女性が……」
彼女は新車で買った自分のステーションワゴンを運転して帰るんだといって聞かなかった。その日の夕方、帰宅しようとしたジョージ・ストーナリーが車を走らせている間、サイレンを鳴らしたパトカーが三台追い越していった。ユークリッド・アヴェニューにある漆喰作りの農場風の家の外に、入り口を塞ぐ形で車が数台駐めてあり、芝地の上に人だかりがしていた。ストーナリーはカーブの所のオークの木陰に車を駐めて外に出た。
マーサはリヴィングルームの見晴らし窓に立ち、網戸のついたサイドパネルから群衆に向けて熱弁を振るっていた。窓の真ん中には飼い犬のスパニエル、フィッファーロが大きな金メッキのフロアランプから後脚でぶら下げられて身悶えし、悲しくキャンキャン鳴いていた。マーサはハリスツイードのスーツを着てダイヤモンドのブローチを下げていた。
コメント