ヨハンネスは「さようなら」の気持ちを込めて、妖精に向かってペコリと頭を下げました。
すると、そのちっちゃな妖精も、赤い帽子を振って応えてくれたり、胸に手をあてて何度も何度も投げキスをしてくれたりしました。
こうして、ヨハンネスが幸せでいられるように、そして楽しく素敵な旅ができるようにと、心を込めて応援してくれたのです。
「こんなに大きな、素晴らしい世界に出ていったら、きっとどれほどたくさんの綺麗なものが見られるんだろう!」と、ヨハンネスは胸を躍らせました。
そして、前へ前へと、ずんずん歩みを進めました。
気がつくと、これまで一度も足を踏み入れたことのない、遠い場所までやって来ていました。
通り過ぎる街も見たことがないところばかりですし、すれ違う人たちも、誰ひとりとして知らない顔ばかりです。
こうしてヨハンネスは、とうとう遠い知らない国へとやって来たのでした。
最初の夜は、野原のまん中にある、干し草を積み上げた山の上で眠ることにしました。
だって、ほかにベッドになるものが何もなかったからです。
けれども、このベッドはとびきり最高でした!
「どんな偉い王様だって、こんなに素敵なベッドは持っていないだろうな」と、ヨハンネスは思いました。
サラサラと小川が流れる広々とした野原、ふかふかの干し草の山、そして見渡すかぎり広がる青い空。
これ以上ないほど素晴らしい寝室です。
赤い花や白い花が咲く緑の草原は、ふかふかのじゅうたんです。
ニワトコの茂みや野バラの垣根は、豪華なお花畑です。
顔を洗うためには、冷たくて清らかな水が流れる小川がありました。
小川のほとりではアシの草がゆらゆらとおじぎをして、「おやすみ」や「おはよう」と挨拶をしてくれているようでした。
空にぽっかり浮かぶお月様は、青い天井から吊るされた大きな大きなランプです。
このランプなら、うっかり部屋のカーテンに火が燃え移る心配もありません。
だから、ヨハンネスはすっかり安心して眠ることができました。
そして、あまりにもぐっすり眠ったので、次の日の朝、目が覚めた時にはすっかりお日様が高く昇っていて、周りでは小鳥たちが楽しそうに歌っていました。
「おはよう、おはよう! まだ起きてこないの?」
そのとき、遠くの教会からゴーン、ゴーンと美しい鐘の音が響いてきました。
今日はちょうど日曜日だったのです。
街の人たちは神様のお話を聞くために、教会へと向かっていました。
ヨハンネスもみんなの後ろについて行き、一緒になって歌をうたい、神様の大切なお話に耳を傾けました。
そうしていると、自分が小さかった頃に洗礼を受け、それからもずっとお父さんと一緒に歌をうたった、あの懐かしいふるさとの教会にいるような温かい気持ちになってきました。
教会の裏手にある墓地には、たくさんの墓石が並んでいました。
その中には、誰もお手入れをしていないのか、雑草がぼうぼうに生え放題になっているお墓もいくつかありました。
それを見たヨハンネスは、大切なお父さんのお墓のことを思い出さずにはいられませんでした。「僕のお父さんのお墓も、いつかはこんな風に荒れてしまうかもしれないな……。だって、今の僕は遠くへ旅に出ていて、自分で雑草を抜いたり、お掃除をしてあげたりすることができないんだもの」
そう思ったヨハンネスは、その場にぺたりと座り込むと、伸び放題の草を抜き、倒れていた木の十字架をしっかりと立て直し、風でどこかへ吹き飛ばされていたお花輪を拾い集めて、元あった場所へと丁寧に直してあげました。
ヨハンネスは心の中で、「こうしておけば、僕がいない間、誰かが同じように僕のお父さんのお墓をきれいにしてくれるかもしれないよね。今の僕には、自分でお世話をしてあげられないんだから」と祈っていました。
墓地の門の前に差し掛かると、ひとりの年老いた貧しい人が、松葉杖に寄りかかって立っていました。ヨハンネスは、持っていたシリング銀貨を残らず全部、そのおじいさんにあげました。そして、心もすっきり晴れやかに、元気に広い世界へと再び歩き出しました。
夕方になると、恐ろしいほどの嵐になって、天気が大荒れになりました。どこか雨風をしのげる泊まる場所はないかと、ヨハンネスは急いで歩いていきました。けれども、あっという間にあたりは真っ暗になってしまいました。
それでも、なんとかがんばって歩いていくと、丘の上にたったひとつポツンと立っているお堂(小さな教会)へたどり着くことができました。本当にありがたいことに、扉が少しだけ開いていました。ヨハンネスはそこから中へ入り、激しい嵐が過ぎ去るまで、ここで雨宿りをさせてもらうことにしました。
「このすみっこに腰を下ろそうかな」と、ヨハンネスは言いました。「すっかり疲れちゃったな。少し体を休めなくちゃ」
そう呟きながら、ヨハンネスはその場にひざまずいて手を合わせ、夜のお祈りを捧げました。知識も心配もすっかり忘れて、いつの間にかすやすやと眠りに落ち、楽しい夢を見ていました。外ではその間も、ピカピカと稲妻が走り、ゴロゴロと雷が響き渡っていました。
ヨハンネスが目を覚ました時には、もう真夜中になっていました。あんなにすごかった嵐はすっかり過ぎ去っていて、窓からは優しいお月様の光が、ヨハンネスの足元まで明るく差し込んでいました。
お堂の真ん中には、まだフタがされていないお棺が置かれていて、その中に亡くなった人が横たわっていました。この人は、まだちゃんとお葬式をしてもらっていなかったのです。でも、ヨハンネスはとても素直で心の正しい子だったので、それを見てもちっとも怖くありませんでした。それに、亡くなった人は決して誰にも悪いことをしないと、よく分かっていたからです。私たちを困らせたり迷惑をかけたりするのは、いつだって生きている悪い人たちだけなのですから。
するとまさに、その「良くない生きている人間」が二人、亡くなった人のお棺のそばに立っていました。この二人組は、本当にひどいことをしようとしていたのです。亡くなったかわいそうな人を棺の中で安らかに眠らせてあげず、お堂の外へ放り出そうとしていたのでした。
「どうしてそんなひどいことをするの?」と、ヨハンネスは尋ねました。「そんなの悪いことだよ。どうかその人を、そのまま静かに休ませてあげてください!」
「うるさい、黙っていろ!」と、二人の乱暴な男たちは言いました。「こいつは俺たちを騙したんだよ! 俺たちから金を借りておきながら、返しもしないうちに勝手に死んじまいやがった。俺たちには一文も戻ってこねえんだ。だから、その仕返しをしてやるのさ。こいつを犬みたいに外へ放り出してやるんだよ!」
「僕には、五十ターレルしかありませんが」とヨハンネスは言いました。「でもこれは、亡くなったお父さんが残してくれた全財産なんです。もし二人のおじさんが、そのかわいそうな人をそっとしておいてあげると約束してくれるなら、このお金を全部あげます。僕は、お金がなくなっても平気です! 僕にはこんなに丈夫で強い手足があるし、それに神様がいつだって僕を助けてくださいますから」
「ふん、そうかよ。
コメント