きっと、ほかの人たちと、同じようなめに会いますよ」と、みんなは、口をそろえて言って聞かせました。
旅の仲間も、あきらめるようにすすめました。
けれども、ヨハンネスは、「ぜったいに、うまくいきます」と言って、靴や着物にブラシをかけたり、顔や手をあらって、きれいなブロンドの髪の毛に、くしを入れたりしました。
それから、たったひとりで、町の中へはいって、御殿をさして行きました。
ヨハンネスが、御殿のとびらを、トントンとたたくと、お年をとった王さまが、「おはいり」と、言いました。
――ヨハンネスがとびらをあけると、お年よりの王さまが、長いガウンを着、ししゅうをしたスリッパをはいて、出てきました。
頭には金のかんむりをいただいて、片手に、しゃくを持ち、もう一方の手には、金のたからの玉を持っていました。
「ちょっとお待ち」と、王さまは言って、金の玉をわきの下にかかえてから、ヨハンネスに手をさし出しました。
けれども、ヨハンネスが、ぼくは、お姫さまに結婚の申しこみをしにきました、と言うのを聞くと、はらはらと涙をこぼして、思わず、しゃくも金の玉も、床に落してしまいました。
それから、ガウンで目の涙をふきました。
なんという、お気の毒な、お年よりの王さまでしょう。
「それだけはよしなさい」と、王さまは言いました。
「おまえも、ほかのものたちと同じように、ひどいめに会いますぞ。まあ、これを見てごらん」
こう言って、王さまは、ヨハンネスを、お姫さまの庭に連れていきました。
見れば、身の毛もよだつような、おそろしい光景です!
木という木には、お姫さまに結婚を申しこんで、なぞを、うまくとくことのできなかった王子が、三人、四人と、つるされているのです。
風が吹いてくるたびに、がいこつが、カタカタと鳴っているではありませんか。
小鳥たちさえも、こわがって、この庭の中へは、はいってこようとしないのです。
花は、どれもこれも、人間の骨にゆわえつけてあります。
植木ばちには、人間の頭の骨が植わっていて、歯をむき出しています。
ほんとうに、なんということでしょう。これが、お姫さまの庭なんですからね。
「わかったかね」と、お年よりの王さまは言いました。
「おまえも、ここにいるほかの人たちと、同じめに会うことになるのだよ。だから、どうか、やめておくれ。おまえに、もしものことがあったら、わしは、ますます悲しくて、いっそう不幸になるのだよ」
ヨハンネスは、やさしいお年よりの王さまの手にキスをして、言いました。
「だいじょうぶ、うまくいきますよ。ぼくは、美しいお姫さまが大好きなのです」
そのとき、お姫さまが、侍女たちを連れて、ウマに乗って、中庭へはいってきました。
王さまとヨハンネスは、お姫さまをむかえて、あいさつしました。
お姫さまは、ほんとうに美しい方です。
いま、ヨハンネスにむかって、やさしく手をさしのべました。
ヨハンネスは、前よりももっと、お姫さまが好きになりました。
このお姫さまが、みんなの言うように、たちのわるい魔女だとは、どうしても考えられません。
みんなは、広間へはいりました。
小姓たちが、砂糖づけのくだものだの、コショウのはいったクルミ菓子だのを持ってきました。
しかし、お年よりの王さまは、悲しすぎて、なんにも食べることができませんでした。
もっとも、クルミ菓子は、お年よりの王さまにとっては、すこしかたすぎましたがね。
ヨハンネスは、あくる朝、もう一度、御殿へ来るように言われました。
そのときには、裁判官と顧問官が、みんな集まって、ヨハンネスがどんな答えをするか、聞くわけなのです。
うまくなぞがとければ、あと、もう二度、御殿へ来ることになっていました。
といっても、いままでのところでは、さいしょのときに、なぞがとけたものは、ひとりもありませんでした。
第一回めで、みんな、命をなくしてしまったのです。
ヨハンネスは、自分がどうなるかということなどは、まるで考えてもみませんでした。
それどころか、心から楽しそうに、いまはただ、美しいお姫さまのことばかり考えているのでした。
そして、神さまが、きっとおたすけくださるものと、思っていました。
でも、どういうふうにして、助けてくださるのかということは、さっぱりわからないのです。
そこで、そのことは、考えないことにしました。
ヨハンネスは、大通りを、小おどりしながら、旅の仲間の待っている宿屋に帰っていきました。
ヨハンネスは、お姫さまがとっても親切にしてくれたことや、びっくりするほど美しい方だったということを、くりかえしくりかえし、話しました。
そして、あしたが待ち遠しくてなりませんでした。あしたは、いよいよ、お城へ行って、なぞをといて、自分の運をためすのです。
ところが、旅の仲間は、頭をふって、いかにも悲しそうなようすで、こう言うのでした。
「わたしは、おまえさんのことが大好きだよ。
だから、もっといっしょにいたいんだが、ああ、もう、別れなければならないのかい。
かわいそうなヨハンネスさん。
わたしは、本当に泣きたいくらいだよ。
だが、今夜は、きっと、ふたりでいっしょにすごす、さいごの晩になるんだから、おまえさんのよろこびをぶちこわしたくはないんだ。
ゆかいに、うんと楽しくすごそうよ。
あした、おまえさんが出かけてしまったら、そのときは思いきり泣けるんだからね」
町の人たちは、すぐに、まただれかがお姫さまに結婚を申しこんだということを知りました。
それで、町じゅうが、深い悲しみにつつまれました。
芝居小屋はしまってしまうし、菓子屋のおかみさんたちは、砂糖菓子の子ブタに、黒い喪章をまきつけました。
王さまと牧師さんたちは、教会でひざまずいて、神さまにお祈りをしました。
ほんとうに、どこもかしこも、悲しみでいっぱいでした。
むりもありません。
ヨハンネスが、いままでの人たちよりも、うまくやるだろうとは、だれにも考えられませんでしたからね。
夕方になると、旅の仲間は、大きな鉢に、ポンス(お酒の飲み物)をいっぱい作りました。
そして、ヨハンネスにむかって、
「さあ、ゆかいにやろうよ。
お姫さまのために、かんぱいしようじゃないか」と、言いました。
ヨハンネスは、ポンスを二杯飲むと、どうにも眠たくなって、目をあけていることができなくなりました。
そして、とうとう、ぐっすりと眠りこんでしまいました。
旅の仲間は、ヨハンネスを椅子からそっとだきあげて、ベッドの中に寝かしてやりました。
やがて、夜がふけて、あたりはまっ暗になりました。
すると、旅の仲間は、白鳥から切りとってきたあの大きな二つのつばさをとり出して、自分の肩にしっかりとゆわえつけました。
それから、いつか足をくじいたおばあさんからもらった、三本のむちの中でいちばん大きいのを、ポケットに入れました。
それから、旅の仲間は、窓をあけて、お城をめざして、町の上をとんでいきました。
お城につくと、お姫さまの寝室の窓のすぐ下のすみっこに、ちぢこまってかくれました。
町じゅうが、しーんと、しずまりかえっていました。
時計が、十二時十五分前をうちました。
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