「おどろいたなあ。どこへ行っても、からくりだらけの屋敷だぞ」
めったなことではおどろかない五井少年さえも、今度ばかりはおどろいた様子です。
「なんなんだ、この部屋は。まるで錬金術師の部屋みたいだ。おい、四本くん、これはきみの得意分野じゃないか」
六条が、四本の背中を軽くつっつきます。
「ふん、すごく興味がわいてくるねえ。でも、ぼくにはこれが何をする部屋だか、さっぱりわからないよ。どこから調べたらいいのかなあ」
四本は部屋の中を歩きまわります。
もう一人の二宮少年は、次から次へと起きるおどろきの事件ですっかり心臓をつかれきったのか、ふだんのおしゃべりがすっかり影をひそめ、青ざめた顔でみんなのそばを離れまいと、ハァハァ息を切らせながらついてきます。
「ははあ、こんなものがあったぞ!」
四本が突然、おかしな大声をあげたので、残りの少年たちは彼のほうへかけよりました。
「これが何かわかるかい?」
四本は棚にならんでいたガラス瓶の一つをとりあげて、みんなに見せました。
中には、黄色みをおびた、少し光沢のある、結晶の石が入っていました。
「わからないなあ。いったいそれは何なんだ?」
「これは、昔から日本にもあるといわれていたけれど、そのありかなかなかわからなかった『水鉛鉛鉱(すいえんえんこう)』だよ!」
「すいえんえんこう、だって? それは何だ?」
こうなっては、四本の説明をだまって聞くよりほかありません。
「これは昔、ものすごく貴重なものとしてあつかわれた鉱石なんだ。つまり、この中にはモリブデン――水鉛とも言ったことがあるけれど――そのモリブデンが含まれているのさ。ここまで言えばもうわかっただろ? モリブデンのごくわずかを鋼にまぜると、ふつうの鋼よりもずっと硬いものができるんだ!」
「ああ、モリブデン鋼のことか!」
「大昔は、刀鍛冶(かたなかじ)たちが行き先をだれにも告げず、ひとりで山の中へ入りこんで、一か月も二か月も家に帰らないことがあったんだ。それは刀鍛冶が、この水鉛の鉱石をさがすために山深く入りこんでいたからなのさ。そして、その場所を見つけてもだれにも教えず、自分だけの秘密にしていた。だけど、その刀鍛冶が年をとって死にそうになると、ひそかに自分のあとつぎの者に教えることもあったそうだ。とにかく、この水鉛鉛鉱が、この部屋にはあっちにもこっちにも置いてあるんだ。この謎を、きみたちはどう解くかな?」
たずねる少年の瞳も、聞かされている少年たちの瞳も、ともにキラキラと輝いて、水鉛鉛鉱の山に注がれました。
「ふん、わかったぞ! この屋敷を建てた混血児のヤリウスは、この水鉛鉛鉱を売って大もうけしたんだな。貿易もやったにちがいないよ」
「そうだろうねえ」と、四本も相づちをうちます。「なにしろ水鉛鉛鉱なんて、世界でもめずらしい鉱石だからね……。さて、それから、もっと謎が解けないかな?」
「そのヤリウスが、そんなうまい商売をほうり出して、いったいどこへ行ってしまったんだろう?」
「そこなんだよ。ぼくの想像では、ヤリウスは水鉛鉛鉱がまだまだたくさん取れる場所を知っていたんだと思うんだ」その証拠には、この部屋だけでも、あっちにもこっちにも、たくさんの標本や見本の鉱石が無造作においてあるからね。
ほら、そこの隅には、樽(たる)に入っているよ」
なるほど、小さな酒樽だったが、その中に鉱石がいっぱい入っていたのだ。
少年たちが、感心して樽の中をのぞきこんでいるとき、大時計の音が、ゆっくりと、カチカチと聞こえてきた。
ところが、あと五分足らずで、この屋敷は大爆発を起こすことになっていた。
四人の少年の中には、それに気づいている者は一人もいない。
あと、たった五分だ。
大いなる危険が迫っている。
それなのに、その大ピンチの時刻を知っている八木少年はどうしたのであろうか。
牡牛の扉
八木少年は、ふと我に返った。
彼は、薄暗い階段の下に倒れていたのだ。
気がつくが早いか、さっと頭をかすめたのは、怪囚人から教えられたことだった。
特に、この屋敷がもう一時間もたたないうちに大爆発をするという、おそるべき危険のことである。
大時計を、すぐにとめなくてはならない。
そのために、自分は怪囚人と別れて、急いでガラス張りの通路を、怪囚人に教えられたとおり走りだしたはずだった。
それにもかかわらず、なぜ自分はこんなところで倒れているのか、わけが分からなかった。
足もとを見ると、そこにはやはり厚いガラスがはってあった。
すると、怪囚人のいたところからここまで、ずっと同じガラス張りの通路がつづいているにちがいない。
彼は後ろをふりかえった。
怪囚人の姿が見えるかもしれないと思ったからである。
怪囚人は、自分がこんなところで滑るなどして倒れたままでいるのを、遠くから見ながらヤキモキしているのではないだろうか。
そう思って奥をすかして見たのだが、奥はいよいよ暗く、そのうえ通路が曲がっているため、怪囚人の姿を見ることはできなかった。
そこで八木少年は、前進することに決めて階段をかけあがった。
階段をのぼりきったところに、頑丈な扉が閉まっている。
鍵が下りているとみえて、押しても叩いてもびくとも動かない。
「困った!」
だが、そのとき彼は救われた。
扉の上に、牡牛の像がうき彫りにつけてあったからだ。
彼は背伸びをして、牡牛の舌を指先でつきあげた。
すると、奇妙なことに彫刻の中の舌が引っ込んだ。
と同時に、ギーッと音がして重い扉が向こう側へ開いた。
「あッ、ありがたい!」
牡牛の舌を下からつきあげると扉が開く。
このことは、怪囚人が教えてくれたことの一つだったのだ。
そこを急いで越えて前方を見ると、少し通路を進んだところに、またもや上へのびる石の階段があった。
八木少年は、どんどん階段をあがった。
階段の上には、頑丈な扉があった。
前と同じようだった。
その扉の上には、やはり牡牛のうき彫りにとりつけられていた。
前に見た二つの牡牛の像もそうだったが、どれも少しずつ牛の姿勢が変わっていた。
だが、どの牛も舌をだらりと出していた。
それを上へ押し上げると扉が開くことは、今度も同じだった。
同じようなことを五、六回くりかえすうちに、さすがの八木少年も息が切れ、頭がフラフラになって倒れそうになった。
しかもまだ、教えられたとおり、大時計の歯車と振り子のあるところまでたどり着いていなかったのだ。
このとき八木少年は知るよしもなかったが、大時計は四つの鐘を打つ五分前のところをさしていたのである。
そして八木くんが、大時計の振り子と歯車のあるところに出るには、あと四つの扉を開いて急階段をかけあがらなくてはならなかったのだ。
果たして今はフラフラの八木少年は、間に合うだろうか。
時計屋敷の崩壊を前にして、大時計はますます落ち着いた調子で、コツッ、コツッと時を刻んでいく。
もしこの時計屋敷がああと五分足らずの間に爆発すれば、少年たちも、その前にいた村人たちも、また八木くんを救った怪囚人も、みんな死んでしまうことになる。
また、時計屋敷の秘密もすっかり失われてしまうのだ。
残された時間は、あと四分ばかり。
さて、どうなることであろうか。
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