暗黒星に突き破られた太陽の傷口が、恐ろしい噴出を起こして火炎を吐くのだ。
その火炎が刻一刻に、より大きく、より明るく成って行く。
絶え間なく嵩が増し、幅が広がり、僅かに半時間の後には、まるで扇とも彗星の尾とも見らるる形となった。
四十七 地球の表面は、今まで見た事の無いほど明るくなり、ただギラギラと眩しい思いがせられて、砂や小石などがダイヤモンドの如く輝き始めた。
やがて米国の東の海岸に沿うた地方は日が暮れた、その時は早や火焔の大きさが、半時間前よりは二倍になり、その明るさは先ず四倍とも云うべき様になっていた。
夜に入っても空気は次第に熱くなり、西海に日の入る頃は、その辺の人々いずれも、日の当たらぬ所を求めて隠れる程であった。
四十八 まず日が没したので休戦の許しを得た様なものだ、この後の太陽の光景は見る事が出来ないけれど、
間もなく天に、争うべからざる恐ろしい凶兆が現われた。
この時は丁度火星が地球と対面の地位に在ったが、無論、日の暮れて間も無く、この火星は東の天に、しかして更に西の天にはかの「宵の明星」と知られている金星が現われた。
ああ金星、ああ火星、双方ともに今までに無い光り方だ。
金星の方は電気の如く輝いている。
確かに白熱だ。
火星の方は石炭の燃える火団の如しだ、全く燃えている様だ。
四十九 これは何の為だろう、誰でも知っている。
太陽の光が強くなったから、同じ割合にその反射が強くなったのだ、大いなる火事に照らされている景色を、暗い所から望見する様なものである。
こう思うと明日の日が思い遣られて、人々の心には益々恐ろしさが湧くばかりだ。
今は米国が夜だからアジアやヨーロッパは日中に在るはずだが、どの様な状だろう、時々刻々増す大火熱に――ああこう思うと、思うだけで戦慄する。
この同じ光景が、夜の開けると共に米国へも廻って来るのだ。
人心は絶望して沈着した。
実に憐れである、何にも言わずに禍いを待っているのだ、待つ外に道が無いのだ。
五十 地球の回転に従って、海も陸も東から西へ順々に沸騰して行きつつあるに相違無い。
その中にアジアやヨーロッパから凶報の電信が続々と達し始めた。
中国でもインドでも、二三分間しか戸外に出ている事が出来ない、午後に及んでは一歩も外へ踏み出す事が出来なくなったと云う事だ。五十一 ヨーロッパのほうは、もっと大変なことになっていました。ロンドンから、刻一刻と緊迫した電報が届きます。その内容によると、
電信局はこれまでの建物の地下室へ、事務局を急きょ移したとのことでした。
市民たちは、燃えやすいものは何でもすべて、日光の当たらない場所へ必死に隠しています。
街中のポンプ車が総出で稼働し、建物の屋根めがけて水をかけ続けています。
午前十一時、そんな懸命の警戒もむなしく、チープサイドの通りのある屋根からついに出火しました。
それに続くように、街のあちこちで太陽の猛烈な熱に焼き尽くされて家々が火を噴き始めました。
火事の数は数え切れません。消防士たちは、空からのすさまじい熱と身近に迫る炎の両方に攻め立てられ、まるで焼き殺されそうな極熱のなかで必死に戦っています。
これでは間もなく、この街で生き残る者は一人もいなくなってしまうでしょう。
五十二 それから数分後、次のような電報が届きました。
なんと、思いがけない救いが訪れて、人々は一気に生き返ったような気持ちになったというのです。
いったい、どんな救いが天から舞い降りたのでしょうか。
十五 欧米両大陸の実況
突如として天から降ってきた思いがけない救いとは、いったい何だったのでしょうか。
どうしてヨーロッパの人々は、あのすさまじい大熱波のなかで生き返るような思いができたのでしょうか。
次の電文を読んでください。
大空の温度が激変したためでしょうか、大西洋のほうからものすごい突風が巻き起こり、ものすごい勢いでヨーロッパへ襲いかかり、激しく吹き荒れました。
これと同時に、滝のような大雨がザァザァと降り注ぎ、あちこちで燃え上がっていた炎を次々と消し止めたのです。
このあとの展開がどうなるかは恐ろしくて想像もできませんが、とにかく、この風とこの雨が少しでも弱かったら、すべてのものは炎のなかに灰となり、人々はこの熱さのなかで命を落としていたに違いありません。
ほんの一時的ではありましたが、人々はすっかり蘇ったような心地がしたのです。
この灼熱地獄のなかで、強い風と大雨に出会えたのは、どれほどありがたく、気持ちのいいことだったでしょう。
五十三 しかし、その次に来た電報は、その大風と大雨が、さきほどの猛暑よりもさらに恐ろしいものであることを知らせてきました。
天から降ってきた「救い」そのものさえも、実は神様が人間に下すお仕置きの道具だったのです。
新たな恐怖が、さらなる勢いで巻き起こりました。
大風はどんどん激しさを増して暴風となり、ついには台風となり、世界の始まり以来、一度も記録されたことのないような狂ったような風になりました。
家がペチャンコに押しつぶされる数は数え切れません。どんなに頑丈で倒れないはずの家でも屋根はすっ飛ばされ、無事でいられる家は一つもありません。
大空には、家々の大きな屋根が何枚も何枚も、まるで木の葉のようにぐるぐると舞い上がっています。
雨もまた、天を真っ二さに切り裂いて落ちてきているのではないかと疑うほどの勢いです。
「雨が降っている」というよりも、「まっすぐな洪水が空から降ってきている」と表現するほうがぴったりでした。
屋根がすっかり吹き飛んでしまった場所では、そんなすさまじい洪水の直撃を受けて、人道はどこにも身を隠すことができません。
五十四 午後の三時になると、また次のような電報が届きました。
もちろん、この三時はヨーロッパの時間であり、アメリカの時間ではありません。
太陽のすさまじい猛烈な熱さは、空を覆っていた厚い雲を照らし破り、再び地上の世界を容赦なく照らし始めました。熱さはさきほどよりもさらに強くなり、しかも刻一刻と増していっています。
電報局も、もはや仕事を続けることはできず、閉鎖するよりほかに道はありませんでした。
五十五 この知らせを最後に連絡が途絶えてしまったため、ヨーロッパはもう全滅してしまったのではないかと心配されましたが、夜になって再び電報が届きました。
ありがたいことに再び激しい暴雨が降り出してくれたおかげで、人々が全員焼き尽くされてしまう最悪の事態からは免れることができたとのことでした。
太陽は再びその恐ろしい威力を思う存分発揮し始めましたが、幸いなことに西の空へと沈んでいきました。
ヨーロッパの空と地は夜を迎え、これによって一時的な「休戦」が与えられたような形となりました。
明日になれば休戦も終わりですが、その朝がどのように私たちの頭上にやってくるのか、想像もつきません。
今日一日のあいだに受けた物的被害の金額は数え切れないほどで、死傷者の数も膨大です。それでも生き残った人々は、明日のことを考えると、とても生きている心地がしませんでした。
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