人間が作ったものの中で、「お休み」や「菩提樹」、「春の夢」、「道しるべ」、「辻音楽師」に匹敵するほど美しい歌が、他に存在したでしょうか。
続いてレルシュタープとハイネの詩に作曲された14曲は、シューベルトの死後「白鳥の歌」(最後の歌という意味)として出版されました。人々は、薄幸な天才シューベルトに対してあまりに辛く当たったことを、今さらながらひしひしと後悔したのです。
「白鳥の歌」の中の「アトラス」「都会」「セレナード」「憩いの地」「海辺にて」「影法師」などは、特に珠玉の作品です。
ドイツの歌曲(リート)は、シューベルトによって完成されました。それ以前にも歌曲はありましたが、モーツァルトやベートーヴェンでさえ、歌曲の分野においては、シューベルトほどの傑作を数多く残してはいないのです。シューベルトは、ドイツ語の発音や言葉の響きに細心の注意を払い、ドイツ語の詩が持つ美しさを最大限に活かした、全く新しい「歌曲」という世界を切り開きました。
彼は、美しいメロディを生み出す天才だっただけでなく、曲の調子を自在に変える「転調」の名人でもありました。
さらに、歌の伴奏部分に、ただの飾りではない、背景としての重要な役割を持たせました。こうして、詩と歌と伴奏が一つに溶け合う理想の世界を実現し、音楽と詩を完璧な形で結びつけたのです。
シューベルトの歌曲は、他にはない独自の美しさに満ちあふれています。
代表的な傑作としては、『美しき水車小屋の乙女』(20曲)、『冬の旅』(24曲)、『白鳥の歌』(14曲)のほか、一曲ずつ独立した名曲に、『さすらい人』『魔王』『鱒』『死と乙女』『汝こそ我が憩い』『連祷』など、数え上げればきりがありません。
この世にシューベルトの音楽が存在しているということは、私たちにとって、なんと幸福なことでしょう。
シューベルトの歌曲の素晴らしさは言うまでもありませんが、私は「『未完成交響曲』という一曲を守るためなら、他のあらゆる交響曲を捨てても惜しくない」と、極端なことを言ったことさえあります。
『鱒の五重奏曲』や『死と乙女の四重奏曲』をはじめとする数多くの室内楽、そして愛らしいピアノ曲の『即興曲』にいたるまで、シューベルトの音楽は、いつでも私たちのそばで、愛と美と輝きを、惜しみなく振りまいてくれるのです。
シューベルトの作品とそのレコード
シューベルトの音楽がいかに私たちの身近で親しい存在であるかは、これまでにも繰り返し書いてきました。
そこには、他では見られないほどの美しさと、あふれんばかりの愛情が詰まっています。
堅苦しい重圧や、いわゆる「名曲」といった威圧感は一切なく、聴く人の心にすっと入り込み、シューベルトと一緒に歌わずにはいられなくなるような、そんな魅力があるのです。
シューベルトのレコードの数は、ベートーヴェンに次いで非常に多く、おそらくモーツァルトやバッハの作品数をも超えるでしょう。その中から、私が最も代表的で、最も興味深いと思うものを、ほんの少しだけ紹介することにします。
シンフォニー(交響曲)
『未完成交響曲』のレコードは、私の知る限り、30年前から発売されています。
世界中には、おそらく20種類以上の『未完成』のレコードがあるはずです。
人間の手で作られた音楽の中で、これより偉大で立派なものは他にもあるかもしれませんが、これほど美しいものは、めったに存在しません。
『未完成』のレコードが100種類あったとしても、私たちは少しも驚かないでしょう。
もし『未完成』のレコードからたった一組だけ選ぶとしたら、私はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮した、ワルターのコロムビア・レコードを選びます(J8642-4)。
それは、これ見よがしな演技っ気が全くない、ありのままの飾らない演奏ですが、柔らかな愛情とロマンティックな夢の中に、そっと私たちの心を包み込んでくれるからです。
それに続いて、私はさらに甘く、感傷的な、テレフンケンのクライバー指揮のレコードを挙げたいと思います。
『交響曲ハ長調』は「長いシンフォニー」として知られていますが、今の時代の感覚から見れば、決してそれほど長いわけではありません。むしろ私は、このシンフォニーの美しさゆえに、短すぎるとさえ感じてしまうのです。
レコードは、ワルターがロンドン交響楽団を指揮したものがコロムビアから出ています(JS107-12)。
他にも4、5種類出ていますが、それらは少し古かったり、あまり面白みがなかったりします。
序曲と間奏曲と舞曲
『ロザムンデ』の序曲、間奏曲、舞曲は、シューベルトらしい素朴な魅力をたたえた名曲ですが、レコードではなぜかあまり良いものに恵まれていません。
少し古いですが、ポリドールから出ている、フルトヴェングラー指揮のベルリン・フィルハーモニーのもの(S4041、フルトヴェングラー名盤集)と、新しいものでは、コロムビアから出ているワルター指揮のロンドン交響楽団のものがあります(JS115)。
『ドイツ舞曲』については、ビクターから出ているブレッヒ指揮のもの以外、良いものを知りません(JD202)。
室内楽
『ピアノ三重奏曲』は二つありますが、そのうち『三重奏曲変ロ長調 作品99』の方が美しく、レコードも4、5種類あります。
カザルス、ティボー、コルトーという三人の名手を組み合わせたビクター・レコード(8070-3)は、電気録音の初期の非常に古いものですが、今でもこの曲の王座を揺るがすことはできません。
他に、ポリドールのナイ三重奏団、コロムビアのヘス三重奏団のものが入っています。
『変ホ長調 作品100』の方は、ビクターのブッシュ(ヴァイオリン)とゼルキン(ピアノ)による三重奏団のものが入っています(JD745-9)。
弦楽四重奏曲では、『死と乙女の四重奏曲』と呼ばれる『弦楽四重奏曲ニ短調』にレコードが集中しています。
第2楽章に歌曲『死と乙女』が取り入れられており、美しくもこの上なく悲しい変奏曲になっているためです。弦楽四重奏曲というジャンルにおいて、ベートーヴェンを除けば、これほど美しく、これほど人の心を打つ曲を作った人はいません。レコードはかなり古いものですが、カペエ四重奏団による繊細で気品あふれる演奏を一番に推したいと思います(カペエ協会第八集 S1103-6)。ビクターから出ているブッシュ四重奏団の重厚な良さも、それに次ぐ素晴らしいものです(JD1031-4)。
もう一つ、四重奏曲では「弦楽四重奏曲イ短調 作品29」のコーリッシュ四重奏団のレコードを挙げて良いでしょう(コロムビア J8413-6)。
五重奏曲については、「ピアノ五重奏曲イ長調(鱒)作品114」が、これ一曲だけでも十分にシューベルトという作曲家を代表する名作です。
第4楽章で、あの歌曲「鱒(フォレルレ)」をテーマにして作られた変奏曲がとても美しいからでもあります。
レコードは、ビクターのシュナーベル(ピアノ)とプロ・アルテ四重奏団による、明るく伸びやかな演奏を一番に推します(JD786-90)。テレフンケンのルップ(ピアノ)とシュトロッス四重奏団のものは二番目といったところでしょうか。
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