ハンス・フォン・ビューローが、ブラームスをバッハやベートーヴェンと並べて「ドイツ音楽の三B」と呼んだのは、今になって思えば決して大げさな言葉ではなかったのです。
ブラームスの作品とそのレコード
ブラームスの音楽は理解するのが難しいのか、親しみづらいのか、日本のファンの中には毛嫌いする人もいるようです。しかし、レコードの数はベートーヴェン、シューベルト、モーツァルトに次いで非常に多く、おそらくバッハと並ぶほどで、ワグナーやショパンよりも上位を占めているでしょう。
これは私のレコード棚のスペースから推測した見当ですが、まず大きな間違いではないはずです。
ブラームスを嫌うのは、にわかファンや音楽界の気取り屋に多いのに対し、ブラームスを愛するのは、学者や研究者、あるいは地味な生活を送っている人に多いというのも、興味深い傾向です。
もし「じゃあ、あなたはどうなんだ?」と聞かれたら、私は即座に、しかも進んでブラームスの味方をするでしょう。
ブラームスには、うわべだけの情熱や華やかさ、誇らしさはありません。その代わり、野暮ったいほどの重厚さと、落ち着き払った深さがあります。特にその滋味深く、静かに沈み込むような美しさは、他には類を見ないものだと私は思います。
音楽は最も感覚を刺激する芸術である反面、どんな傑作でも繰り返し聴くことでいつかは飽きてしまうものです。
しかし、ブラームスにはそれがほとんどありません。
その点において、ブラームスの音楽はバッハとともに、私たちの日常生活に最も深く寄り添ってくれるものだといえるのです。
交響曲と管弦楽曲
ブラームスの四つの交響曲は、かなり多くのレコードが出ています。
これは今から二十年前に、私たちが「ブラームスの交響曲が一つでもレコードになったらいいのになあ」と言っていたことを思い出すと、本当に隔世の感があります。
「第一交響曲・ハ短調(作品68)」は、人によっては最も面白い交響曲だと言うでしょう。
ベートーヴェンの第十交響曲にあたると言われた名曲です。
レコードはワインガルトナー、ワルター、ストコフスキーなどが指揮したものが出ていますが、いずれもこの曲の雄大さと、独特の情熱にはなかなか及びません。
あえて選ぶなら、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮した、優雅なワルターの指揮(コロムビアJS 26-30)を採るべきでしょうか。「第二交響曲=ニ長調(作品73)」は、田舎ののどかな風景を思わせるような、親しみやすい曲として愛されています。
ただ、レコードについては、不思議と「これだ!」という決定版がなかなか見当たりません。
「第三交響曲=へ長調(作品90)」は、他の交響曲に比べると少し特徴が目立ちにくいかもしれませんが、私はこの曲が持つ、健康的で力強い情熱が大好きです。
最近では、ワルターがウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したレコード(コロムビアJS 15-8)が登場しました。
これはもちろん素晴らしい演奏で、優雅で美しささえ感じさせるものですが、私はもう少し古いレコードである、メンゲルベルクがコンセルトヘボウ管弦楽団を指揮したもの(コロムビアJ 8154-7)の、あふれる愛情と勢いを今でも忘れられません。
「第四交響曲=ホ短調(作品98)」は、ブラームスの最後の交響曲です。まるで哲学者が人生の真理にたどり着いたような、不思議で深い味わいがあります。
レコードとしては、少し古い録音にはなりますが、ワルターがBBC交響楽団を指揮したコロムビア盤(J 8617-21)を選ぶのが一番でしょう。
ただし、これはイギリスのオーケストラなので、ウィーンのオーケストラに比べると、音色の響きに少し違いがあることは覚悟しておく必要があります。
「ハイドンの主題による変奏曲(作品56a)」については、ビクターからトスカニーニがニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団を指揮したレコード(JD 1327-8)が出ています。
「大学祝典序曲(作品80)」はとても面白い曲ですが、これだと思える良いレコードはなかなかありません。
強いて挙げるなら、ワルターが指揮したコロムビアのレコード(JS 14)くらいでしょうか。
「悲劇的序曲(作品81)」も同様で、ビーチャムの指揮するものが少し話題になる程度です。
【協奏曲】
「ピアノ協奏曲=第一番ニ短調(作品15)」は、若々しさや純粋な心が感じられる、とても好ましい曲です。
ビクターから、シュナーベル(ピアノ)とロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(セール指揮)のレコード(JD 1679-84)が出ています。手際が良く、見た目にも美しい演奏です。
「ピアノ協奏曲=第二番変ロ長調(作品83)」は、ブラームスが円熟期に書いた作品で、豪華絢爛(ごうかけんらん)です。
ビクターには、ルービンシュタイン(ピアノ)とロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(コーツ指揮)のレコード(7237-41)と、シュナーベル(ピアノ)とBBC交響楽団(ボールト指揮)のレコード(JD 830-5)があります。
どちらも良いレコードですが、野村光一さんがルービンシュタインの演奏に見られる情緒と若々しさを評価しているのは面白い視点です。
私も同感ですが、一般的に考えれば、録音が新しくて典雅なシュナーベルの方を選ぶのが妥当でしょう。
なお、最近ホロヴィッツ(ピアノ)とトスカニーニのコンビによるレコードも発売されました(ビクターVD 8187-92)。
「ヴァイオリン協奏曲=ニ長調(作品77)」は、ベートーヴェンやメンデルスゾーンの作品と並び、「三大ヴァイオリン協奏曲」として有名です。
実際、この曲が持つ深みや美しさ、気高さは言葉では言い表せないほどで、どんなにブラームスが苦手な人でも、この曲を聴けばきっと降参してしまうはずです。
レコードでは、ビクターからクライスラーの演奏が新旧二種類出ています。古い方はベルリン国立歌劇場管弦楽団(ブレッヒ指揮)によるもので(JD 538-42)、名品中の名品ですが、さすがに録音が古すぎます。
新しい方はロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(バルビロリ指揮)によるもので(JD 937-41S)、録音は鮮やかですが、クライスラーの年齢的な衰えは隠せず、オーケストラの響きも少し薄手で物足りなさが残ります。
なお、ビクターにはハイフェッツの新盤もあります(VD 8056-8)。
他に、テレフンケンのクーレンカンプによる演奏が、思いのほか良いレコードです。
何と言ってもブラームスのヴァイオリン協奏曲は大切なコレクションの一つですから、慎重に研究して選ぶべきでしょう。
「複協奏曲=イ短調(作品102)」は、ヴァイオリンとチェロのための協奏曲で、ブラームスの最後の傑作の一つです。
ビクターに、ティボー(ヴァイオリン)、カサルス(チェロ)、そしてコルトーがカサルス管弦楽団を指揮したレコード(8208-11)があります。
録音が非常に古いため、少し音がこもって聴きにくい部分もありますが、名演奏であることは間違いありません。
【ソナタ】
「ヴァイオリン・ソナタ=第一番ト長調(作品78)」は「雨の歌」として親しまれている曲です。
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