そんな品は、名もない職人が焼いたのでしょう。もとより殿さまのようなお方に、自分の焼いた茶わんが使われるなどとは、夢にも思わなかったことでしょう」と、農家の主人は恐れ入って申し上げました。
「それはそうだろうが、なかなか感心な人間だ。使う人のことを考えて、ほどよい具合に茶わんを造っている。茶わんには、熱いお茶や汁を入れるものだということを、その職人は心得ているのだ。だから、使う者がこうして熱いお茶や汁を安心していただくことができる。たとえ世間にどれほど名が知れた陶器師でも、その親切な心掛けがなかったら、何の役にも立たない」と、殿さまは申されました。
旅を終えて、殿さまは御殿へお帰りになりました。
お役人たちがうやうやしくお迎えしました。
殿さまは、農家での生活がいかにも質素で、のんきで、お世辞こそ言わないが親切であったことが身にしみており、そのことをいつまでも忘れられませんでした。
お食事の時間になりました。すると膳の上には、例の軽くて薄い茶わんが乗っていました。
それをご覧になると、たちまち殿さまの顔色は曇りました。また今日から、あの熱い思いをしなければならないのかと思われたからです。
ある日、殿さまはあの有名な陶器師を御殿へ呼び出しました。
陶器店の主人は、以前お茶わんを献上したことを褒めてくださるのではないかと、内心喜びながら参上しました。すると殿さまは、静かな口調でこう諭されました。
「おまえは陶器を焼く名人だが、いくら上手に焼いたところで、使う人への親切心がないと何の役にも立たぬ。私は、おまえが造った茶わんで毎日苦しい思いをしているのだ」
陶器師は恐れ入って、御殿を下がりました。
それからというもの、その有名な陶器師は、厚手の茶わんを造る普通の職人になったということです。
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