かれらの目のリンのような光は、パッと、もえたつように強くなり、するどい牙を、ガチガチと、かみならし、するどいツメのはえた、両手をひろげて、首領のまわりをとりかこみ、いまにもくいつきそうな、ものすごい形相をしめしました。
さすがの怪物団の首領も、それを見ると、ゾッとしたように立ちすくんでしまいました。どうして、こんなことがおこったのか、さっぱりわけがわかりません。部下の人魚どもが、にわかに首領にそむくとは、いったい、どうしたわけなのでしょう。すると、そのとき、またしても、ふしぎなことがおこりました。「ジャ、ジャ、ジャ、ジャ、ジャ……」と笑っていた怪獣の声が、とつぜん、「ワハハハハ……」という人間の声にかわったのです。八ぴきの人魚が、人間のように笑いだしたのです。洞窟もゆれるばかりの、おそろしい笑い声でした。
それから、ガチャンガチャンというやかましい音がしたかとおもうと、人魚どもの腹のところが、二つにわれて、その中から、はだかの人間がとび出してきました。
「ワハハハ……、どうだ、おどろいたか。おれたちは、きみの部下じゃないぞ。ハヤブサ丸からやってきた、八人の勇士だ。」
鉄の人魚の中から、まっさきにとび出した、ひとりの若ものが、どなりつけました。なるほど部下ではありません。八人が八人とも、まったく見しらぬ人間ばかりです。それを見ると、ふくめんの首領は、あっと立ちすくんで、口をきく力もなくなってしまいました。
「アハハハ……、びっくりしているな。鉄の人魚なんて、おもちゃみたいなもんだ。鉄板でこんな形をつくって、中に酸素のボンベが三本もとりつけてある。だから、長いあいだ水中にいても、へいきなんだ。その中へ、きみの部下がはいって、われわれを、おどかしていたんだ。目がリンのように光るのは、乾電池で青い豆電灯がついているんだ。明智先生が、ちゃんと、それを見ぬいてしまった。そして、おれたち、はだかの勇士を海のそこへ、おくってよこしたんだ。おれたちはボンベをしょって、海のそこの洞窟の入口から、しのびこんだ。そして、水中銃で八人のきみの部下をおどかし、人魚の鉄の皮をぬがせて、おれたちがいれかわったんだ。」「おまえたちの八人の仲間は、手足を縛り上げてさるぐつわをはめ、向こう側の岩穴に転がしておいたよ。ワハハハハ……、どうだ、驚いたか!」
仮面の首領は、これほどのひどい目に遭ったことは、これまで一度もありませんでした。おそろしい完敗です。しかし、のんびりしている場合ではありません。八人もの裸の勇士たちが、いまにもこちらへ飛びかかってきそうに見えるからです。
「ジャック、ついてこい!」
首領はそう叫ぶと、パッと身をひるがえして、矢のように走り出しました。しかし今度は、いったいどこへ逃げようというのでしょうか。彼は黒いマントを翻(ひるがえ)して、海底へ続く出口のほうへと走りました。ジャックもそのあとを追います。しばらく走ると、パッと目の前がひらけました。そこには、海底から入り込んできた海水が、池のようになってたまっています。広い洞窟の中の池です。海底からの入口は水面よりずっと下にあるのですが、洞窟が斜めに上へと続いているため、このあたりはもう水面の上に出ており、海水が池のように洞窟の底にたたえられているのです。
その池の岸に、小さなクジラほどもある真っ黒な物体が浮いていました。悪党たちの魚型潜航艇です。その背中には、透き通ったコブのようなものがあります。それはプラスチックガラスでできた展望窓です。また、それは蝶番(ちょうつがい)で上に開くようになっていて、艇への出入り口も兼ねていました。仮面の首領は、ジャックを引き連れてその岸へ走っていきました。
「さあ、これに乗るんだ。そして、海の底へ逃げ出すぞ!」
そう言って、水辺に置いてあった長い板を魚型艇の背中に渡し、その上を歩いてガラスの展望窓のところへ行き、それを開けると、いきなり艇内へ滑り込みました。
「ジャック、おまえも入れ。そして、これを運転するんだ」
首領に呼ばれて、ジャックも板を渡り、艇内に滑り込みました。そして展望窓をしっかりと閉め、運転席についたかと思うと、とんきょうな声を上げました。
「あ、首領、大変です。機械がめちゃめちゃに壊されています!」
「えっ、機械が?」
首領もそこへ飛んできて機械を調べましたが、何者かが金槌で叩き壊したようで、とても急に修理することはできません。
「しかたがない。最後の逃げ場所だ」
首領が舌打ちをして怒鳴りました。
「えっ、最後の逃げ場所とは?」
「この向こうに、おれだけが知っている洞窟の枝道がある。そこへ逃げ込むんだ」
ふたりは急いで展望窓を開き、もとの岩岸へ戻りました。そして洞窟の後ろのほうを見ると、八人の裸の勇士と警察官たちが、懐中電灯を照らしてこちらへ急いでくる様子です。
「さあ、早く、こっちだ!」
首領はジャックに声をかけて駆け出しました。そして角を一つ曲がると、岩のくぼみに立ち止まりました。そして、そこにある岩の裂け目に手をかけると、力任せに引っ張って、幅約六十センチほどの岩を動かしました。すると、そのうしろに人が一人やっと通れるほどの穴が開いていたのです。
「早く、ここへ入れ。そして岩をもとの通りにしておくんだ。そうすれば、だれも気がつきやしない。おれたちは助かるのだ」
ふたりはその穴の中へ入り、苦心して岩をもとの場所に戻し、ふたをしてしまいました。
**巨人と怪人**
「この穴は奥が深いし、いくつも枝道がある。もう大丈夫だ。決して見つかる心配はない」
仮面の首領は、岩穴の奥へ歩きながら、自信ありげに言うのでした。
「だが、不思議ですね。陸のほうの出口からはお巡りさんが入ってくるし、鉄の人魚の中には敵のやつらが入り込んでいるし、魚型潜航艇はいつの間にか機械が壊されているし、いったいどうしたというのでしょうね」
後ろから首領のあとを追いながら、ジャックが声をかけました。
「うん、どうもみんな、明智小五郎の仕業らしい。あいつがどうにかして、この洞窟を見つけたのだ。そしていろんなことを企んだのに違いない。それにしてもわけがわからないのは、賢吉のやつだ。あのおとなしい子供が、いつの間にあれほどすばしっこくなったのか、実に不思議だ」
岩穴の天井がグッと低くなってきたので、首領は背中をかがめて歩きながら、後ろのジャックに話しかけます。すると、ジャックはなにがおかしいのかクスクス笑って、
「あんたは、まだそのわけがわからないのですかい?」
と、妙なことを言いました。首領はその声を聞くと、びっくりしたように立ちどまり、ジャックの声がしたほうを振り返りました。
「なんだって? それじゃあ、おまえには、わかっているのか」
「わかっていますよ。あの子どもは賢吉じゃないのです」
「えっ、賢吉じゃない? それじゃあ、あれは何者だ。そして、賢吉はどこへ行ったのだ」
「賢吉は、沖に停泊しているハヤブサ丸へ帰りましたよ」
「どうして帰ったのだ。まさか、泳いでいったわけじゃあるまい」
「小船に乗って行きました」
「その小船はどこにあったのだ。
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