初級翻訳・海底都市 第26話

海底都市

なんという卑しい根性の持ち主でしょう。
「殺してしまえ! そのヤマ族の代表者を、ずたずたに引き裂いてしまえ!」
「復讐だ! ヤマ族の国へ攻め込む前の血祭りに、そのヤマ人を張り殺してやれ!」
「そうだ、そうだ! やってしまえ!」
興奮しきったトロ族の暴漢たちは、僕を目がけて押し寄せてきました。
その野獣のような形相と、太古のままの好戦的な姿に、僕は少しひるみそうになりました。しかし、ここで決心を曲げてはすべてが水の泡になってしまうと思い、負けじと大声を張り上げました。
「トロ族の人々よ! 君たちは自分が悪魔に呪われていることに気づかないのか。目覚めよ! 君たちはもっと冷静にならなければならない。平和的に事を解決する道を選ぶんだ。暴力だけで自分の意志を押し通そうとするのは、神が最も憎む邪道だ。目を開け、トロ族の諸君! 君たちは神の道に反して、僕を暴力で殺そうとしている。しかし見ていたまえ。そんな暴力は何の役にも立たない。君たちは僕を殺すことなんてできないと気づくはずだ。そのとき、君たちは神の御心を……」
「やっちまえ! あいつにこれ以上、勝手気ままにしゃべらせておくものか!」
「そうだ、そうだ! 早く八つ裂きにしてやるんだ!」
わあっと、彼らは殺到してきました。
棒、石ころ、刀、斧、その他いろいろな凶器が僕の頭上に降り注ぎました。
――僕は気を失いました。
気がつくと、辻ヶ谷君がタイム・マシーンの扉を少しだけ開けて、こちらを覗き込んでいます。
「おう、辻ヶ谷君。早く僕を二十年後の世界へ送り帰してくれ。今、あっちの世界でとても重大なことが起きているんだ……」
「本当にいいのか? 何度でも、あっちへ送り帰してやればいいのか?」
「そうなんだ。僕がもういいと言うまでは、何度でも二十年後の世界へ追い返してくれ!」
「よし、やってやるよ。機械が壊れない間は、やってやる」
扉がパタンと閉まりました。
気がつくと、僕はオンドリの足元に倒れていました。
むくむくと起き上がります。
「おい、トロ族の諸君。君たちは大勢でかかっても、まだ僕を殺せないじゃないか。いったいどうしたんだ。よく反省してみたまえ」
「おやっ、この野郎。また生き返ってきたぞ。執念深い野郎だ」
「変だなあ。確かにぶち殺して、手足も首もバラバラにしたはずなんだが……」
「わたし、なんだか気味が悪くなってきたわ」
「あの人が言っている通り、神様はあの人の方についているみたいね」
そんな声が僕の耳にちらちらと入ってきました。
どうやら相手の中に、動揺の兆しが見え始めています。
しかし、安心するのはまだ早かったのです。
「こいつは悪魔だ! もっと徹底的に叩き潰さなきゃダメだ!」
「執念深い奴め、やっつけろ!」
「やっつけろ!」
オンドリは気が狂ったようになって、僕に飛びかかってきました。
暴漢たちがそれに続き、僕の上へとのしかかってきたのです。僕は息が詰まってしまいました。
それでも僕は四度、五度と、死んでは生き返ることを繰り返し、彼らの目の前に姿を現しました。
そしてそのたびに、真っ先にオンドリを見つけては、彼の肩を叩くことにしたのです。
オンドリは、最初のような荒々しさを次第に失っていき、だんだんと困り果てたような顔つきになっていきました。
九回目には、彼は大きな恐怖の色を浮かべ、まるで死んだようになってしまいました。
僕はそのそばへ行って介抱をしてあげました。
そして、こう告げたのです。
「もう分かったでしょう。
君たちのやり方が間違っているということを。
……それが分かったなら、僕の忠告に従って、君たちは平和的にことを解決するために、代表者を数名選んで海底都市へ派遣したまえ。
及ばずながら、僕が仲介をしてあげるから」

平和使節

トロ族の暴漢どもは、今や静まり返りました。
その指導者のオンドリ先生と来たら、静まるどころか完全にへたばってしまい、僕の足元に長く伸びて、息も絶え絶えです。
「さあ、僕の提案を君たちは採用するのか、しないのか。
すぐ決めたまえ」
僕は彼らに、平和的な解決を図るために、トロ族の代表者を決めて海底都市へ派遣するように、そしてその手引きは僕がしてあげると申し入れたのです。
こうなっては、彼らは僕の提案を受け入れるしかありません。
彼らはオンドリのそばへ集まって、低い声で早口に、しきりに相談しているようでした。
やがて決心がついたようで、オンドリは大勢に体を抱え上げられて僕の前にやってきました。
「あなたのおっしゃる通りにします。
私たちは五名の代表者を出します。
そしてあなたについて海底都市へ行かせます。
どうかよろしくお願いしたい。
……なお、今まで数々の失礼な振る舞い、深く遺憾の意を表します。
すみませんでした」
オンドリは別人のようにおとなしくなり、大いに恐縮した様子で僕に嘆願し、さらには詫びを入れました。
僕は、あとは責任を持って引き受けると言ってやりました。
そしてすぐ海底都市へ出発するから、代表者は用意をするようにと伝えました。
代表者五名が、やがて僕の前に並びました。
そのうちの一人はオンドリでした。
あと四人は、男が二人、女が二人。
半数は若く、半数は老人でした。
彼らは身なりを整えました。
裸の上から、西陣織のような生地で作った服をまとっています。
そして頭を頭巾のようなもので包み、目だけを出していました。
さらに彼らは、自分の背の高さよりも長い筒を背中にくくりつけていました。
「これは何が入っているのですか」
と僕が尋ねると、彼らは答えて、行って帰るまでの生活用具が入っていること、決して怪しいものは入っていないことを説明しました。
そして中を開けて、中身を次々と取り出して見せてくれました。
しかし僕には、それらがどういう役割をするものなのか、一つとして見当がつかなかったので、そのまましまってもらうことにしました。
僕と五人のトロ人は、大勢に見送られて出発しました。
それから僕は五人の者に案内されて、例の不愉快な旅を続けました。
「ヤマ族には、影というものがないのですかねえ」
ビロという若者は、途中で重大な発見をしたかのように、僕に尋ねました。
僕はぎくりとしました。
「それはね、影のある者もいれば、ない者もいるんだ」
「不思議ですね。
私たちトロ族はみんな、一つずつ影を持っていますよ」
「そうだろうね」
「なぜ、ヤマ族には、あなたのように影のない人がいるのでしょうか」
僕は返答に困りました。
「まあ、その訳を話すと長くなるから控えるけれど、要するに僕たちヤマ族では、影なんてどうにでもなるんだ。
一人で五つも六つも影を持っている者もいる」
「ほう。
それは、ますます不思議だ」
ビロはびっくりしたようです。
僕は決してでたらめを言ったわけではありません。
物の影というものは、光線の数によって決まるものです。
壺の後ろに一本のろうそくを立てると、壺の影は一つできます。
もしこのときろうそくを二本にすると、壺の影は二つになります。
だから光源をもっと増やせば、影はそれに応じて増えるのです。
影を五つも六つも持つことは、簡単にできることなのです。

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