この訂正はもちろん、日本語の論文でも発表しました。
不幸なことに、私の手紙がハーヴェイの元に届いたときには、すでに彼の攻撃文は印刷所の手元にあったようです。
ハーヴェイの海蛍に関する研究にはかなりの間違いが多いので、私は自分の実験結果に基づいて、ハーヴェイの研究を厳しく批評してきました。
ですから、私の研究に間違いがあるのなら、ハーヴェイが激しく攻撃してくるのも当然の話です。
私の論文の翻訳者は、私のゲンジボタルの論文の中に、この間違った結論についての訂正を少し書き添えてくれました。
その後、ハーヴェイは攻撃文の別刷りを送ってくれました。
それで、私はハーヴェイの攻撃に対して「全くその通りです」という納得の意を込めた手紙を出しました。
ついでに一言、断っておきます。
以上に述べた通り、私の結論は完全に間違っていました。
しかし、この間違いは決して私の実験そのもののせいではありませんでした。
私の実験自体は正しかったのです。
それなのに、私は実験結果の範囲を超えた結論を出してしまいました。そこに私の罪があります。
科学者としての論理は、実験の結果から離れてはいけないのです。
この点について、私は深く反省しています。
もう二度と、このような過ちは繰り返さないつもりです。
十二 いわゆる『安全灯』
ハーヴェイが海蛍の『安全灯』を発明した、と日本の新聞各社が報じています。
その真偽はもちろん分かりません。
前にもお話しした通り、ハーヴェイの海蛍の研究にはかなりの間違いがあります。
しかし一方で、ハーヴェイは非常に面白い発見もしています。
この発見は全くの独創的ですが、デュボアの研究にヒントを得たものなのか、そのあたりの事情は私には分かりません。
ですが、とにかく面白いので、ついでにここで紹介しておきます。
乾燥させた海蛍をすり潰して、水の入った瓶に入れます。
すると、光り出すのです。
それから二、三時間もすると、光ることは完全に止まってしまいます。
そこでその瓶に栓をして、冬なら三、四日ほど、夏なら丸一日、そのまま暗い場所に置いて触らないでおきます。
そして、その時間が過ぎてから暗い場所で瓶を振ってみると、中の海蛍が再び一瞬だけ光るのです。
この実験はとても簡単なので、誰にでもできます。
この現象について、ハーヴェイは面白い説明をしました。
海蛍が光る際、発光の原料となる物質(ハーヴェイは当初、これは原料ではない、もう一つの物質で壊されるものが原料だと主張していました。つまりデュボアの考えに反対したのです。しかし、この主張は完全に間違いだと私の研究で判明し、ハーヴェイもこの主張を撤回しました)と酸素とが化合します。
この原料が酸素と結びつくと、原料は光らなくなります。
最初に光っていた瓶の中の海蛍が、二、三時間で光らなくなる理由もこれと同じです。
ところが、光らなくなった瓶の中の海蛍が、冬なら三、四日、夏なら丸一日経つと、一瞬とはいえ再び光るようになります。
これは、瓶の中に腐敗菌が発生して、結びついていた発光の原料と酸素を切り離してしまい、再びそれらが結びついた瞬間に光ったのだ、というのです。
この説明は非常に巧妙です。
そのため、ハーヴェイは海蛍の発光原料物質(熱で壊れないもの)は「可逆的(元に戻る性質がある)」なものだと主張しています。
とにかく、ハーヴェイの理屈は、現実の現象をよく説明しているのです。さて、問題の『安全燈』についてです。
腐敗バクテリアの働きのように、一日中、あるいは三日四日も時間がかかっていては、いわゆる『安全燈』として役に立ちません。
そこで私は、『安全燈』の可能性を想像してみます。
海蛍の発光原料と酸素が結びついた瞬間に光るのだとすれば、その結びついている間は光らないということになります。
ですから、再び光らせるためには、まず結びついた原料と酸素を切り離せばよいのです。
そうして分離した二つが再び結びつくと、その瞬間に光るというわけです。
この発光原料と酸素を結びつける働きをするのは、例の「熱で破壊される方の物質」です。
そして、その結びつける物質は、瓶の中の水に溶けていて、いつでも媒介の働きをする準備ができています。
ですから問題は、結びついた原料と酸素を切り離すものさえあればよいということです。
いわゆる還元物さえあれば、それで十分なのです。
つまり、発光原料と酸素が結びついた瞬間に光り、すぐにまた瞬間的にそれを切り離すものがあれば、それを再び結びつける物質はすでにあるのですから、発光原料は連続的に、あるいは永久に発光し続けられるという理屈になります。
そしてこの光は、他のものを燃やす熱の能力が全くないから、まさに『安全燈』なのです。
これは決して愚か者の夢物語ではありません。
このような便利なものをハーヴェイが発明したかどうか、私には分かりません。
発明は全く私の得意とするところではないので、私は『安全燈』の発明など考えたこともありません。
しかし、その発明の可能性はあるだろうと思います。
誰か発明する天才はいないものでしょうか。
それからまた、ハーヴェイは上記の理屈で、蛍の発光の説明を試みました。
その説明はこうです。
蛍は光ったり、光らなくなったりします。
この蛍が光るのは、発光原料と酸素が結びついた時です。
そして光らなくなったのは、それらが結びついてしまった間です。
それからまた再び光るのは、一旦結びついていたものが分離(還元)して、再び結びついたからだといいます。
もちろん、この還元物が蛍の体の中にあるとハーヴェイは考えているのです。
ところが、いつも自分の思い通りになると考えていると、なかなかそう上手くはいかないものです。
私はゲンジボタルの発光器官だけを切り離して、それを酸素ガス、空気、窒素ガス、水素ガス、真空などに入れて、酸化作用の具合を観察しました。
この発光器官は、もちろん酸素ガスの中で一番強く光りました。
そして純粋な窒素ガス、水素ガス、真空の中では少しも光りませんでした。
この酸素ガスや空気の中で光った場合には、生きている蛍が光るように、光ったり消えたりはしません。
始めから終わりまで(少なくとも二十四時間以上)、中断することなく持続的に光り続けたのです。
もしハーヴェイの説明が正しければ、この発光器官は酸素ガスの中で発光しているのですから、生きている蛍よりももっと光ったり消えたりするはずです(ところが事実はそうではありません)。
なぜなら、少なくとも九十七〜八%という高濃度の酸素ガスの中でこの発光器官は発光していたのですから、その発光原料は、空気(二十一%の酸素)の中で発光している生きた蛍よりも、ほとんど五倍に近い酸素と結びついている計算になるからです。
ですから、結びつきも早いし、また量も多いので、発光力が強いという理屈は分かります。
またそれと同時に、結びつきが早ければ早いほど、また多量であればあるほど、消えるのも早く、かつ消える量も多くなりそうなものです。
ところが、少しも消えることなく、持続的に光り続けていたのです。
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