頭の上で翼の音がしたかと思うと、美しい白鳩が大空を旋回して、地上に降りてきました。
「おはよう。お前の元気な顔を見ると、私の心まで晴れやかになるわ。何か良い知らせを持ってきてくれたのでしょう? 聞かせてちょうだい」
妹がハトに尋ねると、白鳩は丸い目を見開いて若い女神を見つめ、こう申しました。
「下界はとても賑やかでございます。毎日毎日、あちらこちらで婚礼が行われ、祝いの鐘の音が鳴り響いています。また、お祭りがあるたびに花火の音が聞こえてまいります。それに、どこの家でも次から次へと子供が産まれています。このままいけば、下界はやがて幸福でいっぱいになり、人間たちはみんな『命が短くて残念だ』と嘆くばかりになるでしょう」
妹は微笑んでハトの話を聞いていましたが、
「それなら、私の願いがついに叶ったということね。ああ、これほど嬉しいことはないわ。あの意地悪な姉がいくらみんなを不幸に陥れようとしても、ついに愛の力には勝てなかったのね。これでこの宇宙は、本来の正しい目的を果たしたというものだわ」
と、妹は心から喜んで言いました。
そのうちに、またある日のこと、可愛らしいヒバリが帰ってきました。妹はヒバリの長い旅をねぎらい、下界の様子を尋ねました。
「ご安心ください。下界は穀物が隙間もないほど、野にも山にも畑にも茂っております。木々には果物がたわわに実り、みんな自分たちが食べきれないほどの収穫があることを喜んでいます。その様子は、この天国の楽園にも負けないほどでございます」
ヒバリが驚いた様子でそう伝えると、妹は美しい目を大きく見開いて問いかけました。
「なんですって? この楽園よりも、下界の方が美しいというの?」「人間たちは、最近になって花の種類を自分たちの手で変える術を覚えたようで、見事に咲かせています。あんなに美しい花は、この天国に来てもめったに見ることができません」と、ヒバリは申しました。
妹の女神は、黙ってヒバリの話を聞いていました。そのうちに、自分も一度下界へ行って、その様子を一目見てみたいものだと思われました。ついに妹は、下界へ行く決心をしました。けれど、そのままだと途中で風や雲、雨、あるいは多くの星たちに「どこへ行くのか」と目につくたびに尋ねられるのが面倒だと思い、ハトの姿に変えて行くことにしました。
ある日のこと、彼女はまっすぐに下界を目指して飛びました。高い山が目に入り、続いていろいろな建物が見えるほど近づきました。すると、丸い屋根の建物もあれば、とがった屋根の建物もありました。赤く塗られた建物もあれば、白や青に塗られた建物もあります。五階や十階もある大きな家もあれば、こぢんまりとしたきれいな家もありました。ハトが言った通り、街の中からは素敵な音楽の音色が流れていました。そして夜になると、街は一面、美しい灯火の海となったのです。
「こんなに美しい場所だとは思わなかったわ」と、妹は驚きました。
夜が明けると、人々はきれいな身なりをして自動車に乗ったり、馬車に乗ったり、電車に乗ったりして行き来していました。
「なるほど、みんな幸せそうに暮らしているのね」と、妹は喜びました。
そのとき、ふと、汚れた格好をした人間が、裸足でみんなが行き交う間をとぼとぼと歩いているのが目に入りました。
「あの人は、どうしたのかしら?」と妹は思いました。自分の投げた幸福の砂が、この人にだけ届かないはずはありません。それなのに、この貧しげな様子はどうしたことかと不思議に思い、そのままその人間の後をついていくことにしました。
その汚れた格好の人間は、にぎやかな街を通り抜け、寂しい町外れの方へとやってきました。するとそこには、先ほどとは正反対に、みすぼらしい破れた小舎がいくつも続いていました。そしてその中には、みんなあの人間と同じように汚れた格好をした、顔色の悪い人々がうようよと住んでいたのです。そこでは子供が泣き、病人が苦しんでいました。けれど、それをいたわる余裕も救う力もないほどに、みんな必死に何かの仕事をしたり働いたりして、貧しい暮らしをしていました。
「これは、いったいどういうことなの?」
妹の顔からは、驚きと疑念のために、だんだんと血の気が引いていきました。自分が投げた幸福が、この人たちだけに行き渡らないはずはないのに、これはどうしたことだろうと、妹は判断に苦しみました。ハトやヒバリの話を聞いて、もしそれだけを信じていたとしたら、何も知らずに過ごしてしまうところだったと妹は思いました。
さらに妹が道を歩いていくと、大きな木の下に、十歳くらいと七、八歳くらいの二人の兄弟がうずくまっているのを見つけました。
「あなたたちは、どうしてこんなところにいるの?」と彼女は尋ねました。
二人の子供は、美しい妹の女神を見上げて言いました。
「僕たちには家がないんです。毎晩この木の下で寝ているんです。お父さんはもう亡くなりました。お母さんはあちこち歩き回って、食べ物をもらって帰ってきます。僕たちはここで、お母さんが帰ってくるのを待っているんです」
それを聞くと、優しい妹はびっくりしました。そして、
「もうこんな惨めな下界には、一刻もいたくないわ」
と言って、妹は再びハトの姿になり、天上の楽園へと帰ってしまったのです。
妹は楽園に戻ると、さっそく風と雨を自分の前へ呼び寄せました。そして、風や雨に向かって、
「あなたたちは、毎晩のようにあの不幸な子供たちを吹きつけたり、濡らしたりして、かわいそうだとは思わなかったの?」
と、優しい妹はたずねました。
すると、風も雨も声をそろえて答えました。
「私たちは、本当にかわいそうに思っておりました。ですから、あの二人の子供たちに風を当てたり、濡らしたりする時も、『強くなれ、強くなれ、そして大きくなれ!』と願いながら、なるべくひどく苦しめないようにしたのです。しかし、不幸な子供たちは決してあの二人だけではありません。まだたくさんの、本当にたくさんの子供たちがいるのです」
妹は、風や雨にもう帰っていいと告げました。そして独りになったとき、妹は深く考えました。
「わたしがこれまで幸福の砂を河の中に投げて、いろいろな喜びを下界に送ってきたのも、決してある一部の人々だけを楽しませるためではなかったのに……」みんなのものを喜ばせるためであった。
それが、ある人々だけをあんなに幸福にさせ、ある人々をあんなに不しあわせにしようとは、思いもよらないことであった。
もうこのうえ幸福の砂を骨をおって、河に投げることもあるまい。
こうして見ると、やはり姉さんが、わたしよりもりこうであるかもしれない。
冷酷な姉さんは、よくわたしをわらったものだ。」と、妹は思いました。
それから妹は、もう黄金の砂を河の中に投げることを止めてしまいました。
下界から遠く空を仰ぐと、天の河の色がだんだんと白くなって、そのときから黄金に輝いて見えなくなったのであります。
一方、灰色の着物を着た姉は、ふくろうや、からすのいうことを信じて、自分も下界へいって、その困ったり、苦しんだりしている人間のようすを、つくづくと見てきたいものだと思いました。
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