「ワンワン吠えたり、噛みついたりして暴れたのかなあ」と、正ちゃんが言うと、
「ばかだな、そんなことをしたら、すぐにやられてしまうじゃないか」と、達ちゃんが言いました。
「それなら、どうやって逃げてきたんだい?」と、正ちゃんが聞きました。
「相手のすきをねらって、一生懸命に走って逃げてきたんだよ」と達ちゃんが言いました。
その夜は、ペスが本当に帰ってきたのだと信じて、みんなで色々な話をしました。そして、朝になったらそれを確かめに行こうと、達ちゃんと正ちゃんは心に決めて、布団に入りました。
とても寒い夜で、外からはヒューヒューと冷たい木枯らしの音が聞こえていました。
布団に入ってからも、正ちゃんは風の音に耳をすませながら、必死に逃げてきたかわいそうなペスのことを考えて、なかなか眠ることができませんでした。
次の日は、日曜日でした。
朝ごはんを食べ終わると、正ちゃんはすぐに外へ駆け出していきました。
道の向こうで、徳ちゃんたちが遊んでいました。
徳ちゃんは、政ちゃんと同じくらいの年の男の子でした。
「徳ちゃん、ペスが帰ってきたって、本当かい?」
正ちゃんは、徳ちゃんの顔を見るなり、すぐにこう尋ねました。
「うん、昨日見たよ」と、徳ちゃんは答えました。
「別の犬の見間違いじゃないの?」
「違うよ、絶対にペスだよ。背中に日の丸がついていたもん」と、徳ちゃんは言いました。
「日の丸がついていたって?」と、正ちゃんは念を押すように聞き返しました。
日の丸というのは、ペスの白い背中にあった、赤い毛の丸い模様のことです。みんながそう呼んで可愛がっていたのでした。
「うん、日の丸があったよ」と、徳ちゃんははっきりと答えました。
そこまで聞けば、もうペスが帰ってきたことに疑う余地はありませんでした。
正ちゃんは、いそいで走って家に戻ると、その話を達ちゃんに伝えました。
ちょうどそのとき、友達の小田くんと高橋くんが、釣り竿とバケツを持って、達ちゃんたちを誘いにやってきました。
日曜日に、川へ寒ブナを釣りに行こうと約束していたからです。
「どうしよう? ペスを探しに行くのをやめて、釣りにいこうか」と、正ちゃんは兄の達ちゃんの顔を見上げました。
「お前は釣りに行ってもいいよ。僕はペスを探しに行くから」と、達ちゃんは答えました。
小田くんも高橋くんも、ペスのことをよく知っていました。
達ちゃんと正ちゃんの話を詳しく聞くと、
「僕たちも一緒にペスを探しに行くよ! それで早く見つかったら、みんなで釣りに行こう」と小田くんが言い、高橋くんも賛成しました。
「釣り竿とバケツは、ここに置いていこうよ」
こうして、みんなは一丸となって、ペスを探しに出発しました。
その中には、小さな政ちゃんも一緒に入っていました。
橋のところから、ペスが歩いて行ったという道をたどり、原っぱへと出ました。みんなは半分ピクニックのような気分で、楽しそうにおしゃべりをしながら、足の向くままに歩いていくのでした。向こうの方に自動車や自転車が走っているのが見える、駅の近くまでやってきたときのことでした。
「あ、見て! あそこにペスがいるよ!」と、政ちゃんが突然、指をさしました。
みんなが見つめる先には、なるほど、お肉屋さんの前に、白い毛並みに赤い日の丸のような模様がある、ペスにそっくりな犬が立っていました。
「ペスなのかな!」と、正ちゃんは勢いよく駆け出していきました。
その後ろから、みんなもいっせいに追いかけました。
だけど、その犬はペスと兄弟のようにそっくりでしたが、やっぱりペスではありませんでした。
政ちゃんや徳ちゃんが昨日見たのはこの犬だったんだとわかると、みんなはがっかりして、来た道を引き返すことにしました。
「ああ、ペスはもう、天国に行ってしまったのかな……」
特に達ちゃんと正ちゃんは、あのときすぐにペスを助けてあげられなかったことを心から後悔しながら、冷たい木枯らしが吹きすさぶ中を、みんなと一緒にトボトボと歩いて帰るのでした。
コメント