初級翻訳・温泉へ出かけたすずめ 第2話

小川 未明

「いいことを教えてくださって、ありがとうございます!」
すずめはお礼を言うと、自分の古い巣へ帰ることはやめて、南の空を目指して飛んでいきました。
「あのカラスといい、この電線といい、なんて親切で物知りなんだろう……。私は本当に幸せ者だ」
すずめは飛びながら、そう思いました。
果たして、山を越えると、そこにはもう雪はありませんでした。
まるで春がもう来ているかのように、畑には青々とした去年の菜っ葉が、新しい芽を出していました。
すずめは木立の枝に止まり、友達を求めるように鳴いてみました。
すると、このあたりに住んでいるすずめが飛んできて、同じ木にとまりました。見慣れない旅のすずめをじっと見つめて、こう尋ねました。
「あなたはどこからやってきて、どこへ行くところなのですか?」
「私には、ここへ行くという決まった目的地はありません。どこか暮らしやすい場所があれば、行ってみたいと思っているのです」
北の国から来たすずめは答えました。
「そうですか。自分で言うのも何ですが、この土地はいいところですよ。それに、この汽車の走る沿線にいれば、人間が窓からいろいろなものを投げてくれますから、食べるものに困ることはありません。もしその気があるなら、私たちの集会場へ来て会長に話をしてみてください。明日からでもみんなと友達になれますよ。私がいっしょに行って紹介してあげてもいいですよ」
この土地のすずめは、とても親切にそう言ってくれました。
旅の途中で心細く感じていた北の国のすずめは、その優しさが本当に嬉しくてたまりませんでした。
「どうか、あなたたちの集会場へ連れて行ってください」
すずめはお願いをしました。
二羽のすずめは連れ立って、みんながいる場所へとやってきました。
そして、土地のすずめは、旅から来たこのすずめをみんなに紹介したのです。
「旅のすずめさん、何か面白い話があったら、お土産代わりにみんなに聞かせてくれませんか?」
会長がそう言いました。
北の国のすずめは、恥ずかしそうに顔を赤くしました。
自分には一体、何を話せばいいのだろう? いろいろ考えましたが、これぞという面白い話は、なかなか浮かんできませんでした。しばらく思い悩んだ末に、自分が鉄砲で撃たれて、カラスに温泉場を教えてもらったという身の上話をするのが一番だと気づき、彼はここへ来るまでの話を始めたのでした。
すると、多くのすずめたちは、感心したように黙って聞いていました。
そして、話が終わると、
「まあ、危なかったですね」と言うものもいれば、
「ここは大丈夫ですよ。空気銃などを持って歩く子供はいませんから……」と、あるすずめは言いました。
「それはいいことを聞いた。いつ、どんな災難にあって傷つくとも限らない。誰かここにいる者で怪我をしたときは、どうかその温泉へ連れて行ってあげてください」と、会長は北の国のすずめに言いました。
こうして彼はみんなの仲間入りをし、楽しく生活を続けたのでした。
しかし、まったく不安というものなしに生きられる生き物など、どこにもいませんでした。
ある日、多くのすずめたちの中の一羽が、やはりどこかで空気銃に撃たれて、傷ついて帰ってきたのです。
するとみんなは、温泉へ行くことを勧めました。
「あの山の向こうの温泉へ、どうか連れて行ってあげてください」と、会長がみんなを代表して、北国から来たすずめに頼みました。
「お安い御用です」と彼はすぐに承知し、傷ついた友達をいたわりながら、あの温泉へと出かけたのです。
一度行った場所ですから、道に迷う心配もありません。二羽のすずめは山を越えて、湯気の立ち上る温泉へ到着しました。
しかしそこは、もはや雪が深くて、湯船は半分ほども雪に埋まっていました。
そのため、あたりには彼らが食べるような餌など、いくら探しても落ちているはずがなかったのです。
「さあ、困ったな。どうしたらいいだろう……」と、北国のすずめはため息をつきました。
「私はどうしたらいいんだ。体は痛むし、そのうえお腹が空いて苦しくて仕方がない」と、怪我をしたすずめは泣き声で訴えていました。
このまま帰ったら、自分が嘘をついたとみんなに思われるかもしれない。困ったことになったと、案内したすずめは思いました。
「私が何か食べ物を探してきます」と言って、彼は一人で飛び立ち、餌がありそうな里を目指して出かけたのでした。
そして、疲れて山の頂上で休んでいると、空の遠くを、雁(がん)の一群れが羽音を響かせて、海の方へ向かっていくのが見えました。
その時、すずめは自分の故郷を思い出しただけではありません。
自分たちの惨めな生活と比べて、誰に頼ることもなく、自らの力で海や湖や川を渡り、南から北へ、北から南へと雄々しく生きるこれらの鳥たちを、しみじみと羨ましく、尊いものだと感じずにはいられなかったのであります。

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