「ふん、あいつの首の使い道かい。
僕はね、あいつの首を包丁で細かく刻んで、ライスカレーの中にたたき込んでやるつもりさ」
「えっ、君は、あいつの首を食べるつもりなのか?
とんでもない話だな、君は食人種かね」
「食人種だって? そうじゃないさ。
丸木が本当の人間なら、あいつの首を食べたらそりゃ食人種さ。
だけど丸木は、人間じゃないんだからね。
だから、僕は食人種になんてならないさ」
「じゃあ、何になるっていうんだよ」
「『食化種(しょっかしゅ)』さ!
お化けの味を、僕が一番乗りで味わってみようってわけさ。
もしうまかったら、君にも分けてやるよ」
「冗談じゃないやい!
お化けの肉が入ったライスカレーなんて、まっぴらごめんだね」
「まあまあ、くだらないおしゃべりはそれくらいにして、早く丸木を探し出すぞ!」
「くだらないことを言ってるのは、佐々君、君のほうだよ」
そんな大騒ぎをしているうちに、とうとう哀れな、半裸姿のお巡りさんが見つかった。
彼は、制服も帽子もすっかり剥ぎ取られて、草むらにぐったりと倒れていたのだ。
大江山課長をはじめとする警察の一行は、すぐに手厚い救護を試みたが、残念ながら、もう手遅れだった。
肋骨が三本も折れていて、ひどい内出血を起こしていたのだ。
「かわいそうなことをしてしまった……」
大江山課長は涙をのんで歯をくいしばると、こう言った。
「丸木という奴は、いよいよ本物の人間じゃない。
人間なら、こんなに残酷な真似はできないはずだ……」
20 秘密室
そのころ、こちらは新田先生と千二少年の場面だ。
二人は思いがけない再会を喜び合い、しっかりと手を取り合って、積もる話に花を咲かせていた。
だが、そうしているうちに、新田先生は、まもなく蟻田博士が帰ってくるだろうということにハッと気づいた。
そしてそれと同時に、まだ謎が解けていない、あの博士の「秘密室」のことも思い出したのである。
そこで新田先生は、今さら話してみたところでどうしようもないとは思いつつも、千二少年に向かってこう切り出した。
「なあ、千二君。
実は先生は、君を助けようと思ってこの家に入ってきたわけではなかったんだ。
君が隠れていた場所は、ほかならぬ、あの蟻田博士の秘密室の床下だったんだよ」
「えっ、博士の秘密室ですか?」
「そうだ。
蟻田博士が、とても大切にしている部屋なんだよ。
ところが、その部屋の中に入ってみたところ、部屋はガランとしていて、何も置いていないんだ」
「空っぽの部屋なんですね」
「うん、何もない空部屋さ。
ただ、古い柱時計が二つ、壁にかかっているだけなんだがね。この時計も、特に変わったところのない、昔からよくあるごく普通の時計なんだ。
しかも、その時計は埃をかぶったままで、針もピタリと止まっている。
先生には、博士がどうしてあんな、ただ止まっているだけの古時計しかない空っぽの部屋をそんなに大切にしているのか、その理由がさっぱりわからなくて困っているんだよ」
「そうですか……。
それはまったく、わけがわかりませんねえ」
千二も、新田先生も、二人そろって首をかしげた。
「どうだい、千二君。君は床下にいて、何か秘密がありそうなものを見かけなかったかね?」
「床下で、秘密がありそうなものというと……」
千二は一生懸命に頭をひねっていたが、やがて、
「あっ、もしかしたらあれのことでしょうか!」と声をあげた。
「なんだって?
あれとは一体――」
新田先生は、思わず大きな声を出して千二にたずねた。
蟻田博士の秘密室の床下で、千二はいいったい何を見たのだろうか?
「それが、博士の秘密なのかどうかはわかりませんけれど……」
千二少年はそう前置きをしてから、話し始めた。
「僕は床下で、ものすごく太い柱を見たんです!」
「なんだって、太い柱だと?」
「はい、そうです。
ものすごく太い柱なんですよ。
コンクリートでできた柱なんです。
太さは、そうですね……先生、僕たちが学校でよく相撲をとったのを覚えていますか?
あのとき校庭に作ってあった土俵のことを、先生もよく覚えていらっしゃるでしょう。
あの柱の太さは、ちょうどあの土俵くらいの太さがあったんです!」
「そうか、小学校の校庭の土俵くらいといえば、それは相当な太さの柱だな。
しかし、それは柱というよりも、中になにか別のものが隠されているのじゃないかね?」
「そうかもしれません!」
「その柱の上の方は、床に突き抜けているのかね?」
「さあ、そこまではよく確かめませんでしたけれど、もし床の上に出ているものなら、先生が入ったあの博士の秘密室のちょうど真ん中に、その柱がにょっきりと生えていなければならないはずですね。
先生、そんなものはありましたか?」
「いや、あの部屋には、そんな柱なんて一切見当たらなかったよ。
不思議だなあ……」
新田先生は腕を組んで、「不思議だなあ」と何度もつぶやいた。
「いや、とにかく、あの柱の中はどうなっているのか調べてみる必要がある。
だが、いったいどこから中に入ればいいのか、検討もつかない。
あの部屋には、別の入り口らしきものも見当たらなかったからねえ」
「変ですねえ」
「なあ、千二君――」「君は、あの部屋の床下にもぐりこんでから後、もっと何か見なかったかね」
「もっと、何か見なかったかと言うんですか」
と、千二少年は、またしきりに、前のことを思い出そうとつとめていたが、
「ああ、そうだ。
僕は、時計が鳴るのを聞きましたよ、先生」
「え、時計って」
「いや、僕のかくれていた頭の上で、ぼうん、ぼうんと時計が鳴ったんです」
「ああ、そうか。
千二君は、床下で、それを聞いたんだね。
すると、博士のあの秘密室の柱時計が鳴ったんだな。
でも、それは不思議だ」
新田先生は、首をかしげて、妙な顔をした。
「先生、止っていた時計を直しているから、時計が鳴のだと思いますよ」
「ああ、そうか。
時計の針を動かしていたんだね」
「きっと、そうなんでしょう。
だから、ぼうんぼうんと、幾つも打ちましたよ」
「なるほど、なるほど」
「ところが、先生、それがどうも、へんなんですよ」
「へん? へんとは、何がへんなのかね」
新田先生は、千二少年の話に、たいへんひかれた。
「その時計の鳴り方ですよ。
はじめ、ぼうんと一つうち、次にぼうんぼうんと二つうち、それからぼうんぼうんぼうんと三つうち……」
「つまり、一時、二時、三時だな。
すると一時間おきに鳴る柱時計は、めずらしい」
「先生、僕がへんだと言ったのは、そのことじゃありません」
と、千二は、先生の言葉をさえぎった。
「えっ」
「僕がへんだと思ったのは、ぼうんぼうんぼうんと三つ打ったのち、こんどは四つ打つかと思ったのに、ぼうんぼうんぼうんぼうんぼうんと五つ打ったのです。
それから次は六つ、次は七つと、それからのちはあたり前に打っていったのです」
千二が床下で聞いた柱時計の不思議について、新田先生は、首をかしげて考えこんだ。
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