ガス砲をうつと、火星兵は、みんな死んでしまう。
それとともに、いい火星人まで死んでしまう。
わしが大勝利をいのっているロロ公爵とルル公爵も、今は出かけて、彼等の中にまじっているかも知れないから、ガス砲をうって、二人を殺すようなことがあっては、たいへんだ。
だから、ガス砲は使ってはいけないのだ」
と、博士は先生をいましめた。
「でも、やがて、こっちへ火星兵の大軍が、攻めて来ましたら……」
「まあ、心配するな。
わしに、まかせておきなさい」
と、博士は、どこまでも落ちついている。
千二は、たえずテレビジョンの映写幕に気をつけていていた。
火星兵のすがたは、すっかり消えてしまった。
残るは岩山ばかりであった。
見るからに気味のわるい、火星の風景であった。
68 いばる丸木
千二は博士のすることを見ていたので、テレビジョンをうごかして、他の場所を映写幕のうえに、うつして見ようと思い、ハンドルをぐるぐるまわしてみた。岩山は、テレビジョンの画面の中でうごきだしました。
そうして、林のようなものが画面の中にはいって来ました。
林といっても、千二の目には見たこともない木ばかりでした。
松やかえでの木などを見なれた目には、火星の木はとても珍しいものです。
そこに見えている木は、どこか、つくしんぼうを思い出させました。
つまり、つくしんぼうのような大木なのであった。
木にはふしがついていて、すぎなのような葉が生えている。
それから、もう一つは苔がありました。
たいへん大きな苔で、それが地面の上をはいまわっている。
「気味のわるいところだなあ」
と、千二が、ますますおどろきながらその林の中をのぞいていると、その時、へんなものが目にはいりました。
林のおくの方から、むぎわら帽子が、ゆらゆらと宙をとんで、こっちへ来るのであった。
「あ、博士。
へんなものが林の中にいます」
と、千二は思わず声を立てました。
「へんなものって、どれかね。
どれだ」
千二は、宙をとんで来るむぎわら帽子をゆびさした。
「ああ、これか。
これは丸木じゃないか。
丸木がとうとうやって来たぞ」
「どうして、このむぎわら帽子が丸木なんですか」
「だって、帽子の下をごらん。
目が光っているじゃないか。
丸木のからだがみどり色だから、みどりの林の中では、帽子だけしか見えないんだよ」
「ああ、そうか」
博士に言われて、千二は林の中を、もう一度よく見なおしました。
とたんに千二は、あっとおどろきの声をあげた。
林の中にはいったい何があったのであろうか。
蟻田博士と新田先生と、そうして千二少年とがりっぱな服を着て立っている目の前に、とつぜん、ぬっと顔を出したむぎわら帽の火星人は、これこそまさに丸木であったのです。
「おい、丸木。
きさま、よく逃げおったな」
博士はしかりつけるように言いました。
すると丸木は、ふてぶてしくむぎわら帽子をゆすりあげて、
「逃げたわけではない。
この火星に、もどって来た方が得だということがわかったからだ」
「ふん、負けおしみを言うな」
と、博士がやりかえした。
「負けおしみではない。
げんに、おれはこうして、博士よりも得な立場に立っているのだ。
ふふふふ」
「得な立場だって。
なにが得な立場だ。
きさまをやっつけようとすれば、すぐにもやっつけられるのだ。
大きなことを言うまいぞ」
博士は、丸木をたしなめました。
「なに、大きなことを言うなだって。
ふん、それはこっちで言うことだ。
地球の人間がこの火星にやって来て、いばっているやつがあるか。
お前たち三人をやっつけるなんて、それこそ一ひねりでいいのだ」
丸木も、なかなか負けていません。
だが、蟻田博士は、そんなおどかしに、びくともしません。
「おい、丸木よ。
からいばりはもうよして、心をあらためてはどうか。
一体、火星の生物が地球の人類よりもえらいと思っていることがまちがいだったと、はっきりわかったはずだ。
きさまは、地球の上でわしたちのために、さんざんな目にあったではないか。
一つここで心を入れかえ、前の火星女王の子供であるロロとルルの味方となるつもりはないか。
もしお前がそうするつもりがあれば、わしからよくとりあってやろう。
それがきさまの身のためだぞ」
博士は、丸木をなんとかして正しいみちへもどしてやりたいと考えていました。
また、そうすることによって、博士はロロとルルの二人の王子に大きな兵力をつけることができると思ったのです。
丸木は地球へ攻めて来たわるいやつですが、しかし彼はなかなかの武将であった。
そのことは博士もよく知っていました。
だから丸木に心を入れかえさせると、ロロとルルにとってたいへん助けになります。
いや、ほんとうのところを言えば、ロロとルルの力だけでは、とても今の火星王を敵にまわしてこれを征服するのはむずかしいのだ。
だから、博士は丸木を味方に入れたかったのである。
「えへへん。
笑わせるなよ、蟻田博士」
と、丸木は心をあらためるどころか、いよいよはげしいようすになって、
「おい、博士。
ここを一体、どこと思っているのか。
ここは火星の上だぜ。
あの地球の上とはちがうぜ」
「それが、どうしたというのか」
「あれっ。
まだわからないのか。
いいかね。
おれは地球へでかけていって、お前などとたたかい、まず五分五分の勝負でひきあげた。
おれたちは火星人だから、地球の上でたたかっては、たいへん勝手がわるいのだ。
それでも五分五分の勝負だった。
ところがここは火星の上だ。
わかるだろう」
「火星の上だから、きさまはわしたちに勝てると思っているのか」
「そうだよ。
火星人は火星の上でたたかうのには不自由をしない。
お前たちはどうだ。
まず自分のからだを見ろ。
そんな不便なものをつけているし、人数は少ないし、われわれに勝つ見込はないじゃないか」早く降参した方がいいぞ」
丸木は、いばりちらしています。
それを聞いた博士は、きりっと決心した顔をして、
「よし、まだ頭が冷えていないようだから、言葉で言うより、こちらの腕前を見せてやろう」と言いました。
博士は、丸木になんとか心を入れかえさせようとがんばりましたが、とうとうあきらめてしまったのです。
こうなったら、丸木をちょっと痛い目にあわせるほかありません。
一方の丸木は、相変わらずいばりくすぶっていました。
「なに、腕前で勝負だと言うのか。
ふん、ここは火星の上だぞ。
腕前なら、こっちの方が強いってことは決まっているんだ」
丸木はそう言うと、手をあげて合図をしました。
「おい、みんな、かかれ!」
丸木の合図で、彼のうしろでぎょろぎょろと目を光らせていた火星兵たちが、一斉に動きだしました。
「何をぐずぐずしているんだ。
早くかかれと言っているのに……!」
丸木は部下たちを怒鳴りつけました。
火星兵たちは、日ごろからこの蟻田博士の強さをよく知っていましたし、おまけに地球に行って人間たちから散々な目にあわされていたので、少し及び腰になっていたのです。
しかし、丸木にそんなふうに怒鳴られては、もう後ろに下がるわけにはいきません。
ひゅう、ひゅう、ひゅう、ひゅう。
ぷく、ぷく、ぷく、ぷく。
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