警官たちは、中村警部からあらかじめ作戦を聞かされていたので、小林少年の言葉に力強くうなずいて見せました。
十人の少年たちは、暗い森の中を足音を一切立てないようにしながら、ご本殿の方へとすすんでいきます。
やがて社殿の前にたどり着くと、その外側には大きな石の狛犬(こまいぬ)が二つ、どっしりと立っていました。
先頭を歩いていた小林団長は、ふと振り返って小さなささやき声で言いました。
「みんな、バラバラになって隠れるんだ。
そして、あの狛犬をよく見張っていてほしい。
ちょっと時間がかかるかもしれない。
でも、しんぼう強く待っているんだよ。
そのうちに、きっとびっくりするようなことが起こるからね。
だけど、なにが起きようとも、ぼくが合図の命令をするまでは絶対に飛び出しちゃダメだよ」
そして、みんなに散らばるように手まねで指示を出しました。
少年たちはそれぞれ、狛犬のすぐそばにある木の幹の後ろへと身を隠しました。
小林団長もまた社殿の高い床の下に身をひそめ、じっとその二つの狛犬を見つめました。
狛犬というのは、むかし中国から伝わってきた神さまをお守りする石の犬のことですが、犬といってもお祭りのときに登場する獅子(しし)のような、ものすごい迫力の恐ろしい顔つきをしています。この神社の狛犬は、ちょうど人間くらいの大きさで、前足をピンと立て、後ろ足をすこし曲げて、四角い石の台の上にいかめしい顔をしてどっしりとすわっていました。
まるで硬い石からそのまま削り出されたかのような形をしていたのです。
少年たちは、それぞれ隠れている場所から、その二つの狛犬をじっと見つめていました。
長ーいあいだ、まわりでは何も起こりませんでした。
あたりはまっ暗で、まるで世界じゅうの時間が止まったかのように、しいんと静まりかえっています。
遠くの街灯の光をうけて、狛犬の姿がぼんやりと浮かび上がっていました。
その不気味な姿をじっと見つめているうちに、なんだか正体のわからないまっ黒な怪物のように思えてきます。
みんながそれぞれ離れ離れに隠れているものだから、少年たちの心にはだんだんと不安が広がっていきました。
後ろの暗闇の中から、恐ろしいお化けが忍び寄ってくるのではないかと想像してしまい、背中がゾーッと寒くなってくるのでした。
それだけではありません。
まるで黒い怪物のような狛犬が、いきなりガバッと動きだして、あの獅子そっくりの怖い顔でこちらへ飛びかかってくるのではないかと思うと、ますます恐ろしくてたまりませんでした。
もうすっかり夜が明けてしまうのではないかと思うほど、それは長い長い待ち時間に感じられました。
でも、本当はまだ一時間もたっていなかったのです。
そのとき、ものすごく恐ろしいことが起こりました。
動く狛犬
じっと見つめていると、石の狛犬がなんと動きだしたのです。
右がわの狛犬でした。
その黒い怪物のように見える石の犬が、モゾモゾと身じろぎをしたのです。
「いまのは気のせいじゃないか?」
少年たちは目をこすりながら、さらにじっと見つめました。すると、狛犬の動きはますますはげしくなっていきました。
もうただの気のせいなどではありません。
まちがいなく、動いているのです。
少年たちは、「キャッ」と声をあげて思わず逃げ出したいのを、必死でがまんしていました。
小林団長から、
「どんなことが起こっても、絶対に飛び出してはいけないよ」
と厳しく命令されていたからです。
「おばけが怖くて逃げ出した」なんて言われてしまったら、少年探偵団の名まえにかかわります。
やがて、狛犬はまるで生きているかのように石の台からスルスルと降りて、地面にしっかりと立ちました。
少年たちはギョッとして、いまにもこちらへ飛びかかってくるのではないかと、木の幹の後ろで身構えました。
ところが、そのとき、じつに不思議なことが起こったのです。
狛犬が地面にコロンと転がり、その中からひとりの人間がムクッとはい出してきたではありませんか。
なんと、石の狛犬は中がからっぽになっていて、そこに人間が隠れていたらしいのです。
しかし、本物の石の狛犬の中がくりぬいてあるはずなんてありません。
だから、狛犬の中に人が隠れているなんて、だれも思いもしなかったのです。
けれど、事実はたしかに、狛犬の中に人が隠れていました。
しかも、その人があの狛犬をすっぽりかぶって歩いていたのだとすれば、この石の犬は見た目よりもずっと軽いはずです。
石ではなくて、別の軽い材料で作られていたにちがありません。
でも、そんなことをじっくり考えているひまは当時の少年たちにはありませんでした。
中から出てきた人間が、ちいさな女の子だったからです。
しかも、その女の子は、サーカスで女王の役をつとめていた、あの少女と同じ服をきて、長ぐつを履いていました。
そして、手になにやら怪しく光るものを持っています。
こんな暗い場所でも、そのものだけは遠くの街灯の光を反射して、キラキラと輝いているのです。
そのとき、「ピリリリリ……」と鋭い笛の音が鳴りひびきました。
社殿の床下に隠れていた小林団長が、呼び笛を吹いたのです。
「みんな、あいつをつかまえるんだっ!
あれはサーカスの女の子だ!
『にじの宝冠』を持っているぞっ!」
小林団長の声にはげまされて、少年たちは一斉に隠れ場所から飛び出していきました。
少女は宝冠をぎゅっと抱きしめて表門の方へ逃げだそうとしましたが、そちらを見張っていた五人の少年とふたりの警官がすごい勢いで走ってきたため、思わずあわてて引き返しました。
持っていた懐中電灯をピカッと光らせた少年たちが、四方から少女をとりかこみます。
そこへ、裏門のほうからも五人の少年と三人の警官が駆けつけてきました。
こうして、かよわい少女は、あっというまに捕らえられてしまったのです。
それは、まぎれもなくあのサーカスの少女でした。
手にしっかりと握りしめていたのは、あの「にじの宝冠」でした。
懐中電灯の明るい光でよーく照らしてみると、石の狛犬だと思っていたものは、デパートのショーウィンドウにかざってあるマネキン(人形)と同じ作り方をした、はりこの狛犬だったことがわかりました。
あまりにも本物の石そっくりに作られていたので、お昼に見ても気づかなかったわけです。
宝石どろぼうの「灰色の巨人」は、前もって本物の石の狛犬とこのニセモノをこっそり入れ替えておき、少女にそこへ隠れるように教えていたのでしょう。
しかし、明智探偵は、お昼の明るいうちからすでにその企みを見抜いていたのです。そして、自分が調べるかわりに、少年探偵団に手柄をたてさせようとはからったのです。
少女は、警察の人に「にじの宝冠」をとりあげられて、そのばに泣きふしていました。
女の子は何も知らなかったのです。
悪い人におどかされて、宝冠をもって逃げる役目をやらされていただけでしかなかったのです。
そこへ、明智探偵と中村警部もやってきました。
中村警部は、宝冠がとりもどされたのを見ると、小林少年の肩をポンとたたいて、大絶賛しました。
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