初級翻訳・燕と王子 第4話

有島 武郎

燕は目をきょろきょろと動かしながら、何度も羽を組み直して首をキュッと縮めてみましたが、どうにも我慢できないほどの寒さで、なかなか眠れません。

うとうともできないまま、東の空がぼんやりと薄紫色になったころに外を見てみると、屋根の上には一面に真っ白でキラキラ光るものが敷き詰められていました。

燕がびっくりしてそのことを王子に伝えると、王子もひどく驚いて、
「それは霜というものだ――」
霜という言葉を聞いたとき、燕は葦が言っていたことを思い出してハッとしました。

葦はなんと言ったか、覚えていますか?
――「冬が来た証拠だ。ああ、自分としたことが、自分のことで頭がいっぱいで、お前のことを考えてあげられなかったのは本当にすまなかった。長い間お世話になってありがとう。もう私にはこの世ですることもなくなった体だから、どうか一刻も早くナイル川へ帰ってくれ。このままだと、冬になったらお前の命がもたないからね」
王子はしみじみとそのようにおっしゃいました。

しかし、燕がどうしていまさら王子を見捨てて行くことができるでしょうか。
「たとえ凍え死んでしまうことになっても、私はここから一歩も動きません!」
燕がりっぱな決意を口にすると、王子は、
「そんなわからずを言うものではないよ。お前が今年死んでしまったら、お前と私が会えるのも今年限りだ。今日すぐにナイルへ帰って、また来年来るんだ。そうすれば、来年またここで会えるのだから」
と、理由をきちんと話して言い聞かせてくださいました。

それを聞いた燕も、「なるほど、それもそうですね」と思い直し、
「それでは王子様、来年またお会いしましょう。どうかお元気でいてください。目がご不自由で、私がいないせいでなおのこと不便でしょうけれど、来年はきっとたくさんのお土産話を持って戻ってきますから!」
燕は泣く泣く、朝晴れの空に向かって南の方へ急いで飛び立っていきました。

このけなげで心の優しい友達が、あたたかい南の国へ向かって羽を大きく広げて飛んでいく後ろ姿を、王子は見ることもおできにならず、おいたわしいお首をうなだれたまま、肌寒い風の中にひとりぽつんと立っておいででした。

さて、そうこうしているうちに日も経ち、冬の寒さが本格的になって、雪だるまが作れるほどの雪がチラチラと降りだす頃になると、クリスマスはもうすぐです。

欲張りな人も、けちんぼうな人も、おじいさんも病人も、この時期ばかりはなぜか晴れやかな気持ちになって子どものようにはしゃぎ出すため、普段は下を向きがちな顔も、自然と空を見上げるようになるのがこの季節です。

そこで、往来の人々は、長い間すっかり忘れていた黄金の王子がどうしているだろうかと見上げました。すると驚いたことに、かつては透き通るほど美しく輝いていた王子様は、まるで重い病気にかかった人のように真っ黒で、両方の目もすっかりつぶれてしまっていました。

「なんだこのみっともない姿は! 町の真ん中にこんなものを置いておけるか!」
一人の男がそう叫ぶと、
「ほんとうだな、クリスマスの前にいっそ壊してしまおうじゃないか」
別の男が言い出しました。
「生きてるうちに、この王子はきっと悪いことをしたにちがいない。だからこそ、死んだあとにこんなひどい姿になっているんだ」
また別の男がそう叫びます。

「壊せ、壊せ!」
「たたき壊せ、たたき壊せ!」

そんな声があちこちから上がり、しまいには一団の若い男たちが縄とはしごを持ってやってきて、王子の首に縄をかけました。みんなで寄って集まって「せーの!」と引っ張ったものだから、あんなに頑丈だった王子の立像も、無惨なことに台座から外れてドスンと転げ落ちてしまいました。
本当に、かわいそうな最期です。

こうして王子の体は一ヶ月ほど地面の上に横たわったままでしたが、町の人々は話し合い、「あんなふうに転がしておいても何の役にも立たず、見苦しいだけだ」ということで、これを溶かして一つの鐘を造り、お寺の二階に納めることにしました。

その次の年、あの燕がはるばるナイル川からやってきて、王子を探してあちこち飛び回りましたが、影も形もありませんでした。

しかし、今でもこの町を訪れる人があれば――春でも夏でも秋でも冬でも、ちょうど日が暮れて一日の仕事が終わり、灯りがともって各々の家から夕ご飯の煙が立ち上る時、すべてのものが楽しく休むその時になると、お寺の高い塔の上から澄んだ、涼やかな鐘の音が聞こえてきます。
その音は、鬼であれ魔物であれ、悪い者は一瞬たりともこの楽しい町にいられないようにと、遠くまで鳴り響き渡るのだそうです。

めでたし、めでたし。

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