Mは毎年学校の水泳部に行っていたので、とにかく普通に泳ぐことはできましたが、私は横泳ぎを少しと、水面に仰向けに浮くことを覚えたばかり。妹に至っては、ビート板を離してやっと二、三メートル泳げるようになったばかりなのです。
見てください。私たちは見る見るうちに、沖へ沖へと流されています。
私は頭を半分水につけて横泳ぎをしながら、時々頭を上げて様子を見ました。そのたびに、妹は私からどんどん沖へ離れていき、友達のMは逆に岸の方へと離れていって、しばらくすると三人はやっと声が届くか届かないかというくらい、バラバラになってしまいました。
そして波が来るたびに、私は妹を見失ったり、Mを見失ったりしました。
私の顔が見えると、妹は後ろの方からありったけの声を絞り出して、
「お兄ちゃん、来てよ……もう沈む……苦しいよ……」
と呼びかけるのです。
実際、妹は鼻のあたりまで水に浸かりながら無理やり声を出そうとするので、そのたびに水を飲んでしまうのでしょう。真っ青な苦しそうな顔をして、私を睨みつけるように見てくるのです。
私も前へ泳ぎながら、心は後ろにばかり引きずられました。
何度も妹のところへ戻ろうかと思いました。
けれど、私は根っからの悪い人間だったのでしょうか。いざとなると、自分の命が助かりたくて仕方がなかったのです。
妹のところへ行けば、二人とも一緒に沖へ流されて助からないことは、火を見るよりも明らかでした。
私はそれが死ぬほど怖かったのです。
とにかく早く岸について、漁師さんにでも助けに行ってもらうしかない、そう思いました。
今から思うと、それはとてもずるい考えだったようです。
でも、とにかくそう決意すると、私はもう後ろも振り返らず、無我夢中で岸に向かって泳ぎ出しました。
体力がなくなりそうになると、仰向けに浮かんで少しだけ息を整えました。
それでも岸は、少しずつ近づいてくるようでした。
一生懸命に……一生懸命に……。そして足をつこうと立泳ぎの姿勢をとると、またずぶりと頭まで沈んでしまいました。
私は慌てました。
そしてまた、必死の思いで泳ぎ出しました。
立ってみたら水が膝くらいしかない場所までたどり着けたのは、それからずいぶん経ってからのことでした。
ほっとして安心したのも束の間、私はもう夢中で泣き声を上げながら、
「助けてくれー!」
と叫んで、砂浜を気狂いのように駆けずり回りました。
見ると、Mも遥か向こうの方で私と同じようなことをしています。
私は走り回りながらも、妹の姿を探すことを忘れませんでした。
波打ち際から随分遠い場所に、波に隠れたり現れたりしながら、可哀想な妹の頭だけが見えていました。
浜には船もいません。漁師さんもいません。
その時になって、私はまた水の中に飛び込んで行きたいような気持ちになりました。
大切な妹を置き去りにしてきてしまったことが、たまらなく悲しくなりました。
その時、Mが遥か向こうから、一人の若い男の人の袖を引っ張ってこちらへ走ってきました。
私はそれを見ると、何もかも忘れてそちらの方へ駆け出しました。その若い男というのは、このあたりの住人ではあるようでしたが、漁師というわけでもない通りがかりの人で、肩に何かを担いでいました。
「早く……早く行って助けてください……あそこだ、あそこです!」
私は涙を流し放題に流しながら、地団駄を踏むような勢いでその人を急かし、震える手を伸ばして、妹の頭がちょっぴり水面に浮かんでいるほうを指さしました。
若い男は私の指す先を見定めると、手早く肩の荷物を砂の上に下ろし、帯をくるくると解いて、着物をその上に置きました。そして、ざぶりと波を割って海の中へ入っていってくれました。
私はぶるぶる震えて泣きながら、両手の指をそろえて口の中に押し込み、それをぎゅっと歯で噛みしめながら、その男がどんどん沖へと遠ざかっていくのを見送りました。
自分の足がどんなところに立っているのか、寒いのか暑いのか、そんなことは少しも分かりませんでした。自分の手足があるのかないのかすら、感覚がなかったのです。
力強く泳いでいく若者の頭はだんだん小さくなり、妹との距離は見る見るうちに縮まっていきました。若者の周りでは白い泡がきらきらと光り、水をかいた手が濡れたまま、まるでトビウオが跳ねるように海の上に見え隠れしていました。私はそれを一生懸命に見つめていました。
とうとう若者の頭と妹の頭が一つに重なりました。
私は思わず口から指を離し、声を上げながら自分も海の中へ入っていきました。けれども、二人がこちらへ戻ってくるのが、じれったいほど遅いのです。私はまた訳もなく砂浜へと飛び上がりました。そして、また海の中へ入っていきました。どうしてもじっとして待っていることができなかったのです。
妹の頭は何度も水の中に沈みました。時には、もう沈みきってしまったのではないかと思うほど、長い間姿を現さないこともありました。若者も時折、水の上から見えなくなります。そうかと思うと、ぽこんと跳ね上がるように高く水の上に現れ出ました。まるで曲芸でもしているのではないかと思われるほどでした。
それでも、そうこうしているうちに二人はだんだん岸に近づいてきて、ついには顔まではっきりと見えるようになりました。が、そのあたりは打ち寄せる波が砕ける場所なので、二人は一緒に何度も白い泡の渦の中に姿を隠しました。
やがて若者は、這うようにして波打ち際にたどり着きました。妹は浅瀬に来ても、まだ若者の背中にしがみついていました。私は有頂天になってそこまで飛んでいきました。
飛んで行って驚いたのは、若者の姿でした。激しく深く息をつき、体は疲れ切ったように力が抜けて、へたへたと座り込んでいました。
妹は私が近づくのを見ると、夢中で駆け寄ってきましたが、ふっと思い返したように私を避けて、砂山のほうを向いて走り出しました。その時、私は「妹は私を恨んでいるんだな」と気づきました。そして、それは無理もないことだと思い、この上なく寂しい気持ちになりました。
それにしても、友達のMはどこへ行ってしまったのだろうと思い、若者のそばに立ちながらあたりを見回すと、遥か向こうの砂山のほうから、おばあ様を助けながら駆け下りてくるのが見えました。妹は早くもそれを見つけて、そちらへ行こうとしているのだと分かりました。
それで私は少し安心して、若者の肩に手をかけて何か言おうとしました。すると若者はうるさそうに私の手を払い除け、波が寄せたり引いたりする場所に座り込んだまま、嫌な顔をして胸のあたりを撫で回していました。私は何か言葉をかけるのさえためらわれて、黙ったまま立ち尽くしていました。
「まあ、あなたがこの子を助けてくださったんですね。お礼の申しようもございません」
すぐそばで、息を切らしながらしみじみと言うおばあ様の声が聞こえました。妹は頭からずぶ濡れになったまま泣きじゃくり、おばあ様にぴったりと抱きついていました。
私たち三人は濡れたままで、衣類やタオルを小脇に抱え、おばあ様と一緒に家へと帰りました。
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