初級翻訳・溺れかけた兄妹 第3話

有島 武郎

若者はようやく立ち上がると体を拭いて帰ろうとしましたが、おばあ様が強く頼んだので、黙ったまま私たちのあとについてきました。

家に着くと、もう妹のために布団が敷いてありました。妹は寝巻きに着替えさせられて寝かされると、すっかり夢中になってしまったのか、熱を出して木の葉のように震え始めました。

おばあ様は気丈な方で、甲斐甲斐しく世話を済ませると、若者に向かって心からの感謝を伝えました。若者は挨拶の言葉も言えないような人らしく、ただ黙ってうなずいてばかりいました。おばあ様はようやくのことで、その人の住んでいる場所だけを聞き出すことができました。

若者は麦湯を飲みながら、妹のほうを心配そうに見つめ、お辞儀を二、三度して帰っていってしまいました。

「Mさんが駆け込んできて、お前たちのことを知らせてくれた時には、私は目がくらむようだったよ」「お父さんやお母さんからあなたたちを頼まれていたのに、もし二人が死んでしまったら、私はもう生きてはいられないから、一緒に死ぬつもりであの砂山を、Mさんよりも先に駆け上がったのですよ。でも、あの通りかかった人のおかげで助かったけれど、本当に恐ろしいことでしたね。これからはもっと気をつけておくれよ、でないと本当に困りますからね」

おばあ様はそう言うと、やがてきりっとした表情で私を前に座らせ、こう仰いました。普段は優しいおばあ様でしたが、その時の言葉には、私は身も心もすくんでしまいました。少しの間でも自分一人だけが助かりたいと思ってしまった私は、心の中をあちこちから針で刺されるような思いでした。私は泣くこともできず、体は硬くなったまま、じっとおばあ様の前にうつむいて座り続けていました。

しんしんと暑い太陽が、縁側の向こうの砂を照りつけていました。

若者のところへは、おばあ様が自らお礼に行かれました。そして、お礼の気持ちを込めておばあ様が持っていったものを、その人はどうしても受け取らなかったそうです。それから五、六年の間は、その若者がどこにいるのか分かっていましたが、今ではどこでどうしているのかも分かりません。

私たちの優しいおばあ様は、もうこの世にはいらっしゃいません。私の友達のMは、妙なことから人に殺されて亡くなってしまいました。今では、妹と私だけが生き残っています。

あの時の話を妹にするたびに、妹は「あの時ばかりは、お兄ちゃんを心から恨めしく思ったよ」といつも言います。波が高くなって妹の姿が見えなくなったあの時のことを思い出すと、今でも私の胸はドキドキと動悸がして、ぞっとするほど恐ろしい気持ちになるのです。

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