花火やなんかつまらないものや、氷のものは、買っちゃいけませんよ」
次男 「かあさん、ぼく、靴にあながあいてるから、よし坊のをはいてっていい?」
母 「もうあんたは、あなをあけちゃったの、まだ、こないだ買ったばかりじゃないの」
次男 「だって、あながあいちゃったんだもの、ぼく知らないや」
母 「うそおっしゃい。なにかわるさしたんでしょ。あなたの顔に書いてあります。うそをいう子は、顔が赤くなるからすぐわかります。さあどうしたか、いってごらんなさい」
次男 「けんちゃんがわるいんだよ」
(泣きだす)
母 「ないてもゆるしませんよ。さあ、男の子はなんでも正直に、男らしくいうもんです」
次男 「けんちゃんがレンズを持ってきて、黒いもんならなんでも燃えるから、やってごらんっていったから、ぼくうそだと思って……」
母 「それごらんなさい。あなたは、そんなことをするんです」
次男 「だって、けんちゃんが……」
母 「そらまたもうひとつ。あんたはわるいことをしたうえ、ひとに罪をなすりつけるのね、ふたつもよくないことをしたんですよ。そんな子はもう、おかあさんの子じゃありませんよ」
長女 「ごめんなさいって、あやまりなさいよ、次郎ちゃん」
次男 「かあさん、ごめんなさい」
母 「もうこれから、そんなことするんじゃありませんよ。お家はお金持じゃないんですからね。まずしいお家では、みんなが、品物をだいじに使わなきゃ、いけないんですよ」
長男 「おそくなるからもういこうよ。もうみんな、お宮へいってるよ」
母 「よし坊ちゃんのお靴、おまえにはけるのかい?」
次男 「うん」
母 「じゃあ、あれをはいてらっしゃい」
長女 「あ、よし坊が目をさました」
(みんな病気の子の方を見る。沈黙)
三男 「にいちゃんたち、どこへいくの?」
(母親、目顔で祭にいく子どもたちにだまっておいでと命ずる)
母 「にいちゃんたちはね、学校で式があるので、いかなきゃならないんですよ」
三男 「うそいってら」
母 「うそじゃありませんよ。お昼からね、校長先生のお話があるのさ」
三男 「かあさん、うそいってるよ。顔見ると、ちゃんとわからあ」
母 「あら、この子は」
三男 「ぼく知ってら。にいちゃんたち、祭にいくんだよ。ね、そうでしょう。ぼくいま夢を見たの。去年の祭にきた猿まわしとね、ぼく、菜種畑ん中でいきあったの。去年はね、お猿が一ぴききりだったでしょう。今年はね、そのお猿と赤ん坊の猿と二ひきできてるの。ぼくが菜種の花をちぎってなげてやったら、大きな猿が、とてもじょうずにうけとってね、小さいお猿に半分ちぎってやって、パクパクたべてったよ」
母 「そう、それはよかったね。にいちゃんたちはじき帰ってくるからね、よし坊ちゃんはかあさんとお家で待っていましょうね」
三男 「いやだい。ぼくもいくんだ」
母 「そんなこと、いうもんじゃありません。起きちゃいけませんよ。お医者さんがおっしゃったでしょう、じっとしてなきゃ、病気はなおらないって」
三男 「いやだい。ぼく見たいんだ。猿まわしやお芝居が」
母 「お病気がなおったら、町へつれてって映画を見せてあげるから、きょうはおとなしくかあさんと待ってましょうね。そのかわり、ねえちゃんにいいものを買ってきてもらいましょう。よし坊ちゃん、なにがほしいの」
長女 「絵本買ってきてあげましょうか」三男 いやだい、ねえさんのばか。
母 そんなにあばれちゃいけません。お腹がまたいたくなりますよ。さあ、おとなにしてましょうね。
次男 もういこうよ。(靴をはきかかる)
三男 あ、次郎ちゃんは、ぼくの靴をはいてる。いやだい、いやだい。ばか、ばか。
母 あのね、よし坊ちゃん、あんたにはもっといいのを、買ったげるからね。
三男 いやだ、いやだ。次郎、ばか。かあさんばか。みんなばか。
母 そんなにさわいじゃいけません。ほうらごらん、こんなに汗が額に出て。顔が青くなりましたよ。次郎ちゃん、じゃあきょうは、あんたのお靴はいてらっしゃい。
次男 だって、よし坊はもうはかないんじゃないの。
三男 次郎ばか、次郎ばか。
母 あんたまで、そんなことをいうのね。みんなでかあさんをいじめるんだわ。いいよ、かあさんをそんなにいじめると、早くしわがよっておばあさんになって、死んじゃうから。
次男 ぼく、そんならじぶんのをはいてくよ。さあいこう、にいさん。
母 危いとこへいくんじゃないよ。花火やよっぱらいのそばにいっちゃ、いけませんよ。そして、暗くならないうちに帰ってくるんですよ。
長男次男 うん。
長女 じゃ、よし坊ちゃん、いいもの買ってきたげるから、待ってらっしゃいね。
三男 やだい。ねえちゃんもいくの。ねえちゃん、いっちゃいやだ。
長女、戸口のところで思案する。
長男、次男、出ていく。
母親、身ぶりでいきなさい、と長女に命ずる。
長女出ていく。
すると、病気の子がまた「いやだ、ねえちゃんいっちゃいやだ」とさけぶのでいきかねている。
母は早くおいきと身ぶりで示す。
ついに長女はすがたを消す。
病める子、急になきだす。
母 さあ、なかないで、よし坊。ねえさん、じき帰ってきてくれるからね。おまえは、いい子だから、かあさんのいうことをきくんですよ。さあ、おとなしくねんねしましょう。そのうちにおはやしが、この辺までやってきますからね。いいでしょう、よし坊、おまえのすきな笛や太鼓がやってきますよ。
三男 うそだい。おはやしなんかここまできやしないや。塩屋さんとこまできて、あそこからまた帰っていっちゃうんだ。ぼく去年ついてきたからよく知ってら。
母 おや、そうかい。でも塩屋さんとこまでくれば、おはやしの音がよくきこえるから、いいじゃないかい。大太鼓の音が、どうんどうんてお家の障子にひびいてくるよ。いいでしょう。
三男 かあちゃん。
母 なんだい。
三男 ぼくにも、祭の着物をきせてくれよ。
母 おまえさんは祭にいかないじゃないの。
三男 ぼくも祭の着物がきたいや。にいちゃんたちみんながきたんだもの。
母 そうかい。それじゃ、よし坊ちゃんにもきせてあげようね。(母親、たんすから一枚の晴着をとり出す)
三男 それじゃないよ。そんなの学校にあがったとききたんだよ。
母 おや、かあさん、忘れっぽいね。ではこれだね。
三男 うん。(母親きかえさしてやる)
三男 かあちゃん。
母 なにさ。そんなにしげしげと。
三男 子どもがおとなになるってほんと?
母 ほんとですよ。みんながどんどん大きくなって、おとなになるんですよ。
三男 おかしいなあ。
母 おかしかありませんよ。よし坊ちゃんも、にいさんやねえさんたちも、おとなになるんですよ。
三男 いつのこと?
母 まだ十五年も二十年も先のことさ。
三男 いくつねるの?
母 さあ、千も万もねるんでしょう。
三男 おかあさんは、はじめからおとな?
母 おかあさんだって、はじめは子どもだったんだよ。
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