初級翻訳・発明小僧 第4話

海野 十三

」
小僧「たとえ三本の手があったって、忙しすぎて手が足りない……とはよく言ったものじゃありませんか。
つまりこの義手は、すでに二本の手があってもなお忙しいという、超多忙な人のために取り付けるものなんです!
試しに一本、付けてごらんなさいって。
」
秘書「おっ、こりゃあ驚いた!
」
小僧「そうしたら、左手で電話の受話器を持って、右手に握った鉛筆で相手の用件を紙に書き留め……それからさらに、この補助の手を使って、薄くなってきた頭のてっぺんをゴシゴシと掻いてごらんなさいよ!
」
秘書「こりゃあ奇妙で便利だ……。
おい、これを四、五本置いていってくれたまえ!
」

 目醒し腕時計

社員「なんだあ。
ただの腕時計じゃないか。
しかもなんだいこの大きな形は、ちっともモダンじゃないなあ。
……君、ふだん『モダン日本』って雑誌を読んでないだろ?
」
発明小僧「どうもご忠告ありがとうございます!
……ですがこの大きな形をしているのには理由があって、目覚まし時計の機能が組み込まれているのでございますよ……。
」
社員「昼休みの目覚ましかなんて、そんなもの意味ないね。
」
小僧「……そんなことはなくて、大ありなんです!
あなたは、昼間のわずか五分の居眠りが、瀕死の病人をさえ蘇らせるほどの効果があるってことをご存知ですか?
」
社員「ウソをつけ!」
小僧「いえいえ、本当でございますとも!
控えめに見積もっても、急激に元気を回復して、居眠りの後には仕事が驚くほどはかどるんです。
そこで皆さまにはぜひ居眠りをおすすめしたいのですが、そのときにどうしてもなくてはならないのが、この目覚まし付き腕時計でございます。
目覚ましとしては極めて小型で軽便、ベルの鳴り心地もうるさすぎず、小さすぎず。
重役たちの耳には届かないけれど、自分を起こすには充分すぎる音量です!
これを自分の席で帳簿を立てて、その陰に隠れてコソッと使ったり、あるいはまた電車の中で、次の乗り換えまでのほんのわずかな時間を有効利用して行ったり……。
」
社員「よしよし、分かった。
月賦払いで一つ買おうじゃないか。
」
小僧「おお神様! 今日はなんだかよく売れるぞ……!イエス!」

 紫外線発生のベッド

小僧「『人生は六十から……』と申す古い諺があるのを、ご存知でいらっしゃいますか?
」
重役「知らんね。
……本当かね、そんなこと……。
」
小僧「本当でございますとも!
昔の魏の曹宗(そうそう)という人がですね……。
」
重役「曹宗かね。
ほう、あの人なら私も知っとるが……。
」
小僧「おや、ご親友でいらっしゃいましたか!これは失礼いたしました(と、ペコンと頭を下げて)、実はあの曹宗様がおっしゃったとか何とかということで……先生ほどの御方であれば、これからの人生こそが本当の輝きでございますよ!
」
重役「うふふふ。
」
重役「なにっ……!
」
小僧「つまり端的に申し上げますと、曹宗様はいつもお外で暮らしていらして、紫外線というものをたっぷり全身に浴びていらっしゃったからこそ、あんなにお元気でいられたのです。
ところが先生は、お外に出て太陽の光を浴びる機会がまったくありません。
これではいけませんなぁ。
」
重役「そんな話は聞いたことがある。
しかしだな、わしのように十五もの会社の重役を掛け持ちしている多忙な身では、そんな時間は到底作れるわけがないのだよ。
」
重役「ない! わしがどれほど忙しい身か分かっておらんのか、君は!
」
小僧「では、こうご提案いたしましょう。
先生は毎晩お布団に入ってお休みになりますが、その間にお仕事はなさいますか?
もちろん仕事なんてなさらず、体をゆったりと伸ばして横になっていらっしゃることでしょう。
私の言う『時間』とは、まさにその就寝中の時間のことなのです!
すくなくとも五、六時間はしっかりとお布団の中にいらっしゃるでしょうからね。
……そこで、その紫外線発生装置をあらかじめベッドに仕込んでおくのでございますよ。
この特製ベッドを使ってお眠りになりますと、毎晩ちょうどいい時間に紫外線が体に当たり、知らず知らずのうちにどんどん健康になっていくうえに、日中の貴重な時間も一切損せずに済むというわけなのです!
」
重役「ふむう、それはなかなか素晴らしいアイデアだな。
よぉし、その紫外線発生ベッドというやつを買うとしよう。
一台いくらだ?
」
小僧「へえへえ、どうもありがとうございます!
……ええ、お値段が少々張りまして、一台二百円でございます。
」
重役「二百円で『人生は六十から』になるなら安いものだ。
よぉし、至急十五台ほど持ってきてくれ!
」
重役「斎藤内閣の閣僚の皆さまに贈るのさ。
」

   ホンモノの珍発明集

 小説よりも奇なりと言いますが、現実の世の中には本当に驚くべき実話があるものです。
空想の産物のような架空の発明よりも、さらに奇抜で面白い「本物の特許・実用新案」もまた数多く存在しています。そこで、商工省特許局が発行している公報の中から、いくつかの実例を厳選して皆さまにご覧に入れましょう。
どうか一言一句たりとも見逃すことなく、じっくりと味わいながら読み進めてくださいね。

パチンコの発明
 昭和二年実用新案広告第一一六七七号(類別第一十五類五、銃弓及射的玩具)――出願人、東京府下本田村立石、×田×次郎氏。
「登録の請求範囲」という項目を見ると、パチンコの構造が次のように何とも堅苦しく、大真面目に書かれています。
図面ニ示ス如ク、支持桿(1)(1)ノ上端ニ、溝(10)(10)ヲ設ケテ、「ゴム」条ノ両端ヲ挿入シテ、木|螺子(9)(9)ニテ締着シ、支持桿ニ穴ヲ穿チ、該穴ニ線条(7)ヲ刻セル中空廻転子(6)ヲ緩通シタル軸(5)ノ両端ヲ押込ミ、両支持桿(1)(1)ニテ挟持シテ成ル「パチンコ」ノ構造。
――こんなふうに、ただのパチンコと侮るなかれ、実に厳かな代物なのでございます。

芋焼器の発明
 昭和五年実用新案広告第八八三四号(類別、第九十六類九、飲食物製造機雑)――出願人、山形市×澄町吹張、伊×長兵衛氏。
この芋焼器の「作用と効果」という説明文が、また実に素晴らしい名文でして、読んだが最後、すぐにでも焼き芋屋へ走り出したくなってしまうほど、お芋好きの御婦人方にとってはたまらなく魅惑的な内容となっています。
すなわち――
 作用ト効果
 本考案品ハ右ノ如キ構造ニシテ加熱板上ノ金網面ニ、生芋ヲ置キテ、先ズ半蒸焼トナシ、後コレヲ取出シテ、適宜ニ切断シテ、塩ヲ散布シ、多孔板上ニ載置シテ完全ニ蒸焼ス。
而シテ金網面ニハ更ニ生芋ヲ入替ウルモノトス。
斯クシテ完全ニ蒸焼サレタル芋ハ、蓋ヲ取去リテ取出シ、蓋ニ具ウル保温室内ニ常ニ保温セシメ置クモノナリ。
以上ノ如クナルヲ以テ、芋ヲ焦焼スルコトナク(僕はいささか焦げた方が好きですが)、蒸焼シ得ルノミナラズ蒸焼ヲ二回ニ順次行ウヲ以テ塩ノ浸滲ハ良好ニ行ワレ(もうヨダレが出てきてたまらんです)、更ニ蓋ニ保温室ヲ設クルコトニヨリ之ヲ焼冷シトナスコトナカラシメ、常ニ保温し得ル等ノ効果ヲ有ス。

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