その途中、ふと、向こうの駅を発車していく汽車の汽笛の音が聞こえてきました。
「そうだ! 一日あれば、田舎へ帰ってくることができるぞ。
お母さんのところへ行こう!」
こう考えると、もらっておいたお小遣いがちょうどふところに入っていたので、すぐさま駅へと駆けつけました。
ちょうど、北へ向かう汽車がいたので、それに飛び乗りました。
汽車の中は、スキーに出かける人たちでとても賑やかでした。
真吉はそれを見て、こう思いました。
「雪が降ると、お母さんは村から町へ出るのにも、どんなに不自由な思いをなさっているかしれない。
それなのに、この人たちは、遊びができるなんて言ってよろこんでいるんだ……」
そう思うと、まわりの人たちがなんだか憎らしく感じられたのでした。
そのうち、スキー客たちも途中の駅でみんな降りてしまいました。
いつまでも汽車に乗っているのは真吉のほかに三、四人だけで、車内は急にさびしくなりました。
そして、窓の外はだんだんと雪が深くなっていきました。
けれど、「今日の晩には、大好きなお母さんのお顔が見られるんだ!」と思うと、真吉の心はうれしさで飛び立つばかりでした。
やっとのことで、半年ばかり前にそこから汽車に乗って旅立った、あの町の駅に着きました。すっかりあたりは暗くなっていました。
そして、雪が積もっているその上から、まだしんしんと雪が降り続いていました。
真吉は、お母さんの知り合いである呉服屋さんのことを思い出しました。
「あそこで提灯を借りていこう」と思い立ち、そのお店に立ち寄りました。
ふいに真吉が帰ってきたので、呉服屋さんのおかみさんはとても驚いて、
「まあまあ、どうしてこんなに帰っていらしたの?」とたずねました。
真吉が、お母さんのことが心配になって、様子を見に帰ってきたのだと話すと、
「まあ、そんな心配はいらないよ! お母さんはとってもお元気でいらっしゃいますよ。
昨日ここにおいでになってね、『東京に行っている息子の春着を作ってあげるんだ』と言って、立派な反物(たんもの)を買ってお帰りになったよ」と、おかみさんは教えてくれました。
真吉は、これを聞くと心から安心し、今までずっと張りつめていた気持ちが一気にフッと軽くなりました。
そして、お母さんが真心を込めて教えてくれた言葉――
「お母さんのことは少しも心配しなくていいから、しっかりお仕事をつとめなさい」という言葉が、頭の中にハッキリと浮かんできました。
それに、もし今からお家へ帰れたとしても、このすごい雪では、明日一日の中に東京へ戻ることはとても難しい。
そんなことをしたら、きっとお店のご主人が心配なさるだろう。
お母さんが元気だとわかったのだから、いまからすぐに夜行列車に乗って、東京へ戻ることにしよう! と、真吉は心に決めました。
そして、呉服屋のおおかみさんが「今夜は泊まっていきなさいよ」と親切に止めるのも聞かず、すぐに駅へと引き返し、東京へ向けて出発したのでした。
翌日、真吉が東京に着くと、すぐにお店へ帰り、昨日の夜からの出来事を包み隠さず正直にご主人に話しました。
ご主人は、真吉のお母さんを思う深い親孝行の心にとても感心しましたが、「どんな理由があろうとも、感情にまかせて考えなしの行動をとってはならないよ」と、これからの戒めとして優しく諭したのでした。
真吉は、大人になってからも立派な商人となり、お母さんに心から親孝行を尽くしたということです。
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