まわりの家具たちがみんなうぬぼれ屋で、自分のことばかり。自分がいかにすごくて自慢できるかということばかりを話していて、おとなしく部屋のすみっこに立って、みんなにつばを吐きかけられている自分のことなんか、ちっとも気づかってくれないからです。
たんすの上には、金色の立派な額縁に入れられた、大きな絵がかかっていました。
それはすてきな風景画でした。
大きな年をとった木々や、きれいな草花が咲く草原、そして大きな湖が描かれていました。
湖からは一本の川が流れだしていて、森のうしろをぐるりとまわり、たくさんのお城の横を通りすぎて、ずっと遠くの大海原へとそそいでいます。
オーレ・ルゲイエが、その絵にも魔法の注射器をちょんとさわらせました。
すると、どうでしょう!
絵の中の鳥たちがパッと歌をうたいだし、木々の枝が風にゆれて、空の雲がスーッと流れはじめました。
なんと、雲の影が草の原の上をゆっくり動いていくのさえ見えたのです!
さて、オーレ・ルゲイエは、小さなヤルマールを持ちあげて、額縁のふちのところまで連れていってくれました。
ヤルマールはそのまま、絵の中のフカフカした草むらに足をふみいれて、そこにポツンと立ちました。
あたたかいお日さまの光が、木々のすきまからヤルマールの頭の上にキラキラとふりそそぎます。
ヤルマールは湖の方へトコトコとかけていくと、ちょうどそこに置いてあった小さなボートに飛び乗りました。
ボートは赤と白に可愛らしく塗られていて、帆は銀色にまぶしく光っています。
そのボートは、六羽の白鳥たちに引っぱってもらって進んでいきました。
白鳥たちはみんな、首のところに黄金の輪をつけて、頭にはきらめく青い星をかぶっていました。
ボートが緑の深い森のそばを通ると、森の木々たちが、昔の盗賊やこわい魔女のお話を聞かせてくれました。
森に咲く花たちは、小さくて可愛い妖精のことや、ヒラヒラと飛ぶチョウから聞いた秘密のお話を教えてくれました。
見たこともないほど美しい魚たちが、金や銀のウロコをピカピカと光らせながら、ボートの後ろをずっと泳いできて、ときどき水の上へピョンッと飛びあがっては、「ピチャッ、ピチャッ」と可愛い音をたてました。
赤い鳥や青い鳥も、大きいのも小さいのも、長い二つの列になってボートの後ろをついて飛んできました。
ブヨたちは楽しそうにダンスを踊り、コガネムシは「ブーーーン」と歌をうたいました。
みんながみんな、ヤルマールのはるか後ろを一生懸命ついてこようとしたのです。
しかも、それぞれが自分だけの「とっておきのお話」をひとつずつ抱えて!
なんてすばらしい船遊びなんでしょう!
しばらく行くと、森がだんだん深くなって、あたりがすこし薄暗くなりました。
かと思ったら、次の瞬間にはもう、お日さまがサンサンと照りつける、この世のものとは思えないほど美しいお花畑に出ました。
お花畑には、ガラスと大理石でできた立派なお城がいくつも建っていました。
そして、そのお城のバルコニー(ベランダ)には、きれいなお姫さまたちが立っていました。
でも、よく見ると、どのお姫さまも、ヤルマールが昔いっしょに遊んだことのある、あのよく知っている可愛い女の子たちばかりでした。
みんなはヤルマールに向かって、やさしく手を差し出しました。
よく見ると、どの子も、街のお菓子屋さんでもめったにお目にかかれないような、とってもおいしそうな「子ブタの形をしたさとう菓子」を持っています。
ヤルマールはボートに乗ったまま通りすぎるとき、その小ブタのさとう菓子のしっぽを、パクッとつかんだのでした――。けれども、お姫さまがそれをしっかりとにぎっていたので、さとう菓子は二つに割れてしまいました。
そして、お姫さまの手には小さいほうが残り、ヤルマールの手には大きいほうが残りました。
どの御殿の前にも、小さな王子が番兵に立っていました。
みんな、金のサーベルで敬礼しながら、ほしブドウと、すずの兵隊さんを、雨のように降らせてくれました。
だからこそ、ほんとの王子というものです!
まもなく、ヤルマールのボートは森の中をぬけました。
それから大きな広間のようなところを通ったり、町の中を通りすぎたりしました。
そのうちに、ヤルマールがごく小さかったころ、おもりをして、たいそうかわいがってくれた、子もり娘の住んでいる町へ、やってきました。
娘はうなずいて手をふりながら、かわいらしい歌をうたいました。
その歌は、まえに自分で作って、ヤルマールに送ってくれたものでした。
いとしいわたしのヤルマール、
思うはあなたのことばかり!
かわいい唇、赤い頬、
キスしたことも、忘られぬ。
あなたのさいしょのかたことを
耳にしたのは、このわたし。
だのに、いまは会えないの。
わたしの天使のしあわせを
ひとりわたしは祈りましょう!
すると、鳥も、みんないっしょにうたいだしました。
花はくきの上でダンスをし、年とった木々はうなずきました。
まるで、オーレ・ルゲイエのお話を、みんなが聞いているようでした。
水曜日
まあまあ、外は、なんというひどい雨でしょう! 眠っていても、ヤルマールには雨の音がよく聞えました。
オーレ・ルゲイエが窓をあけると、水が窓わくのところまで届いていました。
外には、大きな湖ができています。
ところが、りっぱな船が一そう、家の前にきていました。
「ヤルマールや! 船に乗って、旅に出かけよう」と、オーレ・ルゲイエは言いました。
「今夜のうちに、よその国へ行って、あしたの朝は、ここへもどってこられるからね」
そこで、ヤルマールは、さっそく晴着を着て、そのりっぱな船のまんなかに乗りこみました。
すると、すぐにお天気がよくなりました。
そして、船は通りを走りだしました。
教会をぐるっとまわると、大きな広い海に出ました。
船は、それから長いあいだ走りつづけました。
もう、陸地は、かげも形も見えなくなりました。
コウノトリが、むれをつくって飛んでゆくのが見えました。
コウノトリたちは、いま、ふるさとを去って、暖かい国へゆこうというのです。
一羽また一羽と、一列になって飛んでいました。
みんなは、今までに、とてもとても長いこと飛んできました。
ですから、そのうちの一羽は、つかれきって、もうこれ以上つばさを動かして、飛んでいくことができなくなりました。
その鳥は、列のいちばんおしまいを飛んでいたのですが、そのうちに、みんなからずっと離れてしまいました。
そして、とうとうしまいには、つばさをひろげたまま、下へ下へと落ちていきました。
二度、三度、つばさをバタバタやりましたが、もう、どうしようもありません。
足が、船の帆綱にさわりました。
帆の上をすべり落ちて、バタッと、甲板の上に落ちました。
船のボーイがこのコウノトリをつかまえて、ニワトリや、アヒルや、シチメンチョウのはいっている、トリ小屋の中に入れました。
あわれなコウノトリは、しょんぼりして、みんなの中に立っていました。
「みなさん、ごらんなさいな!」と、メンドリたちが、いっせいに言いました。
すると、シチメンチョウは、思いきり、ぷうっとふくらんで、おまえはだれだい、とたずねました。
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